第2話「お二人は付き合ってるんですか?」
「昨日はありがとうございました!」
翌朝。教室の前で、昨日の後輩――夏川 柚が突然現れた。
遥と澪(朝比奈)が「あれ、柚じゃん?」と声をかけるよりも早く、柚は悠真の元にまっすぐ駆け寄る。
両手でぎゅっと悠真の手を握り、ぺこりと頭を下げる。
「昨日、迷ってた時に声をかけてくれた先輩ですよね? 本当に助かりました!」
「あ、うん……よかった。無事だった?」
悠真はまだ状況が飲み込めていない。
柚の声や表情はとても真っ直ぐで、下級生の礼儀正しい“お礼”そのものだった。
が、問題は――その様子を見ていた周囲だった。
「え、誰?」
「あの子かわいくない?」
「佐倉くん、まさか後輩と……?」
ざわ……ざわ……
教室の空気が揺れる。
柚は気にも留めず、遥と澪にも軽く頭を下げてその場を去った。
悠真は、遥の方に視線を向ける。
遥は表情を変えずに、「……ふぅん」とだけつぶやいた。
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昼休み。
遥はいつも通り弁当を差し出してきたが、どこか少し静かだった。
澪も、何かを察したのか、いつものようなからかいも入れずに食べている。
そんな中――
「悠真先輩!」
廊下から呼ばれた声に、悠真が振り返る。
そこには、笑顔の柚がいた。
「あの……今日って、ちょっとだけ、お時間いただけますか?」
悠真は、遠くで遥がほんのわずかだけ眉をひそめたのを見逃さなかった。
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放課後。校舎裏のベンチ。
柚は、何かに迷いながらも、口を開いた。
「昨日、教室を探してたって言ったじゃないですか」
「うん、何か忘れ物でも?」
「いえ、あの……遥先輩を探してたんです。部活のことで」
「へぇ、部活の後輩なんだ」
柚はうなずく。
「はい。遥先輩と澪先輩と同じバドミントン部に入ってて…遥先輩のこと、ずっと憧れてたんです」
悠真は少し驚く。遥の部活での姿は見たことがなかったが、きっと――真面目に、全力でやってるんだろう。
柚はふと視線をそらし、ぽつりとつぶやいた。
「だから……気になってたんです。お二人って、付き合ってるんですか?」
「……えっ」
不意を突かれて、声が詰まる。
聞かれたことに対して、どう答えていいのか分からない。
「幼馴染っていうだけじゃ、説明できない距離っていうか……」
柚の目は、真っ直ぐだった。責めるでもなく、ただ純粋な興味――あるいは、好奇心のような。
「……付き合ってるわけじゃ…ないよ。ずっと一緒に育ってきただけで」
「……そうですか…」
柚は少しだけ、微笑んだ。
「でも、そういうの、素敵ですね」
その言葉が何を意味するのか――
悠真には、まだ分からなかった。
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その日の帰り道。
遥は、いつも通り下駄箱で悠真を待っていた。
でもその“いつも通り”が、どこかぎこちない。
「……柚ちゃんに、何か言われた?」
「ん……部活のことで少し話しただけ」
遥は、それ以上何も聞いてこなかった。
でも、足取りは少しだけ、いつもより早かった。
静かに、何かが、変わり始めていた…
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