ブックライターによる書店の定点観測
雨伽詩音
第1話 2025.07.19 ブックライターによる書店の定点観測vol.1
最寄りの書店に足を運んできた。そこに並んでいた谷川俊太郎の本や、存命の作者の本のうちの何冊かが目に止まり、パラパラとめくってみたものの、X文学のように行間が大きく空いていたり、「名言」のような言葉と共に詩の一部が切り抜かれて引用されていたりして、本当に本の質が落ちたなと思う。
これは坂本龍一にしても同様なのだけれど、ご本人がご存命であれば決して出ることがなかっただろう、というような代物が世に出回っていて、暗澹とした気持ちになる。
詩に関しては、注目すべき作品として、高橋睦郎『日本の近代詩を読む』や、細見和之『石原吉郎──シベリア抑留詩人の生と詩』が書棚に収まっているのを見かけた。これらはゆくゆく入手したい。
その高橋睦郎『日本の近代詩を読む』には、帯に「SNS定型の140字には収まらない、思索に溢れた美しい言葉の数々を味わう」とあり、これもまた気分を底なし沼へと突き落とすものでもあった。
SNSの形に寄せたり加工したりしなくては本が売れないということは、これまでも書店に足を運ぶたびに感じてきたことでもあった。「5分後に涙する」「100分で読める」などと、書物にもファスト消費の波が押し寄せてきている。
私自身は近代詩には学生時代から慣れ親しんできた。その一助となってくれたのが通い詰めてきた図書館の存在だった。中でも、現代詩人文庫に関しては、旧居近くの図書館から除籍本を何冊も引き取ったことがあったが、さらに前に暮らしていた渋谷の図書館との落差はあまりに大きかったように思う。
後者には世界幻想文学大系本揃や、全集本の日本近代詩集が揃っていたことなどを思ってみても、そうした文化の集積所としての図書館のあり方も、いずれは失われてしまうのだろうと思わずにはいられない。
それは東京都下の清瀬市の例から見ても明白なことで、こうした基礎的なインフラとしての知の拠点がその役目を終えてしまおうとしているという事実と、昨今の国内情勢とはやはり不可分であって、その痛手を真っ先に負うことになるのは、私のような障害者やお年寄り、そして何より未来を担う子どもたちといった弱者であることは決して看過できるものではない。
私は今、古書店で美術書や詩歌、その他のジャンルの絶版本を蒐集しているが、いずれも今となっては造本を模倣して流通させるのが困難だろうという品ばかりだ。こうした書物は稀覯本というわけではないが、同じ装丁、同じ図版のクオリティで、同様の価格帯で本を造ることはもはや難しいだろうと思う。
そうした本を集めるのも、モノを減らすことを良しとする今の社会にあっては悪癖でしかないのだろうが、私は自らの部屋をひとつの文化と知のシェルターにしたいと願っている。
作業用BGM:DEATH STRANDING(SONGS FROM THE VIDEO GAME)
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