第9章:勇者の来訪

 ガイウスは、暗殺者の失敗報告に激昂した。

「使えん奴らめ!たかが鑑定士一人、連れてくることもできんのか!」

 しびれを切らした彼は、ついに自ら行動することを決意する。パーティーの精鋭数名を引き連れ、辺境の街ルーンへと馬を走らせた。

 その日、ルーンの街は穏やかな昼下がりを迎えていた。俺の店にも、常連客が訪れ、和やかな空気が流れていた。

 その平穏は、一人の男の登場によって、無残に引き裂かれた。

 街の入り口に、豪華な装飾鎧を身に纏った男たちが現れたのだ。その中心に立つ金髪の男を見て、街の人々は息をのむ。彼こそが、国中の誰もが知る【勇者】ガイウス・ブレイブハートだったからだ。

 しかし、彼の放つオーラは、人々が物語で聞くような英雄のそれとは程遠い。傲慢で、支配的な、冷たい圧力を放っていた。

「アルト・グレイラットはどこだ!出てこい!」

 ガイウスの怒声が街中に響き渡る。衛兵たちが駆けつけるが、Sランクパーティーの猛者たちの前では赤子同然だった。ガイウスは邪魔をする衛兵を、剣の腹で容赦なく打ち据える。

 俺は店の外の惨状に、血の気が引くのを感じた。セレスティアが「私が!」と前に出ようとするのを、手で制する。

 ガイウスの目的は俺だ。街の人々を巻き込むわけにはいかない。俺は覚悟を決め、店の外へと歩み出た。

「……ガイウス。何の用だ」

「アルト!ようやく出てきたか、役立たずが!」

 ガイウスは俺の姿を認めると、歪んだ笑みを浮かべた。そして、彼の視線が、俺の後ろから心配そうに顔を出すリリアナに注がれる。

「ほう……。いい女を侍らせているじゃないか」

 次の瞬間、ガイウスの姿が消えた。気づいた時には、彼はリリアナの喉元に剣を突きつけていた。リリアナは声にならない悲鳴を上げる。

「リリアナッ!」

「動くな、アルト」

 ガイウスは、リリアナを人質に取り、冷酷に言い放った。

「その女を助けたければ、俺の専属鑑定士になれ。お前の力は、俺のような勇者が使ってこそ意味がある。辺境のゴミ共を助けるための力じゃない」

 傲慢な言葉。自分以外のすべてを見下す瞳。彼の行動のすべてが、俺の心の奥底に眠っていた感情を呼び覚ました。

 それは、殺意にも似た、強い、強い怒りだった。今まで感じたことのない激情が、俺の全身を駆け巡る。

 俺は震える拳を、強く、強く握りしめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る