31話
◆禁忌の力の暴発
勇は、勝の真意がわからないまま、それから時を過ごす。そんな中ではあるが、愛は普通に過ごしているようで、それを見た勇は、首を激しく横に振った。
「何があっても、僕は『守る』。それを忘れちゃ駄目だよね」
勇の呟きが、休み時間の教室に消えた。
それから、数日後の事だった。学校での休み時間の最中、セイブ・ストーンが反応。勇は、初めての事態にどう対応するか迷いを感じた。しかし、激しく点滅するセイブ・ストーンに決断した。職員室に走り、勇は担任に言った。
「先生、すみません!早退させてください!!」
「私も、早退します!」
愛も勇に続いた。そして、勇と愛は担任の返答を聞くことなく、早退して行った。
走る勇と愛。それを追いかけるのは、黄色の繭。繭は光って割れ、一足先に中の赤子が言った。
「ねむゆたにぇは、むげんにょみやい!あーしゅせいばぁしぃじょ!!」
勇は言った。
「シード!変身早いっ!!」
呼ばれたシードは、赤子ながら焦った顔をしていた。そして、言った。
「ふやわー、たおれりゅ!といぷゆ、おこりゅ!たたかう、だめぇ!!」
愛は戸惑う。
「私が?」
勇はそれに返す。
「でも!プラネットクラッシャーを放っておけないよ!!」
走りをやめない勇と愛に、シードはむくれた。そして、言った。
「ふやわー、といぷゆ、しやない。ねりゅ。」
そして、シードは繭に戻ってどこかに行ってしまった。愛は言った。
「シード、怒っちゃった。けど、行くよ!私!!」
「僕もだよ!」
走った先には、カラミティの大群。その中央には、バイオレット、オレンジ、勝。そして、少し離れた場所には、芯と累もいた。
「解き放て!守りの力!!」
「三種の力は最強の証!アースセイバートリプル!!」
「輝く花は広がる微笑み!アースセイバーフラワー!!」
「レッツ!セイブ!!」
トリプルとフラワーが変身するやいなや、カラミティはフラワーに集る。そして、フラワーをプラネットクラッシャーの元へと連行していく。フラワーは叫んだ。
「離して!」
トリプルの焦る声が追いかける。
「フラワー!フラワーを離して!!」
勿論、カラミティはトリプルの言う事など聞かない。勝は言った。
「やれ、バイオレット」
「ああ、親父」
1人のカラミティに羽交い締めされたフラワーをバイオレットは容赦なく殴り始める。トリプルは叫んだ。
「やぁめぇろぉ!!」
そして、トリプルはフラワーの元へと行こうとする。しかし、オレンジがカラミティを引き連れトリプルの元へと急襲。トリプルはオレンジとカラミティに応戦せざるを得なくなった。オレンジは言った。
「あの女には、今日、消えてもらうわ」
トリプルは、青ざめた顔をし、叫んだ。
「僕の盾!フラワーを守って!!」
「カラミティ!盾を壊しなさい!!」
カラミティは、トリプルの翼からの盾を破壊する。盾は、フラワーに届かない。
一方、バイオレットは、フラワーを殴り続ける。その傍らで勝が言う。
「アースセイバーの中で、お前が脅威だ。破壊を無かった事にする存在など、長くプラネットクラッシャーをやっていた儂でも、見た事はない。消えろ、アースセイバーフラワー」
もはや声を失うフラワー。だが、フラワーの力は、羽交い締めにしているカラミティを弱らせる。バイオレットは、それに気づき、言った。
「カラミティ!増員せよ!!」
新たなカラミティがフラワーを取り押さえる。そして、バイオレットは再びフラワーを殴り始める。が、顔が歪む。
「こいつに、触れるだけで、俺様の力が削がれる!」
勝が言った。
「これだけ弱らせれば、『ターゲット・デモリッション』で落とせるだろう」
「おう!やるぜ!親父!!」
そのやり取りを聞いたトリプルは、オレンジやカラミティと交戦しつつも、叫んだ。
「フラワー!!やめろー!!」
無情にも、バイオレットは唱えた。
「ターゲット・デモリッション!!」
バイオレットから放たれた紫の塊は、フラワーに直撃。フラワーは悲鳴と共に倒れた。トリプルは、のどが切れてしまいそうな勢いで叫んだ。
「フラワー!!」
一旦うなだれたトリプル。しかし、再び顔を上げた。その顔には、いつもの明るさは無かった。
「よくもフラワーを、愛ちゃんを痛めつけてくれたね。僕は君を許さない、バイオレット!」
強い力でトリプルは、オレンジやカラミティを押し退けてバイオレットの元へと近寄る。
「僕の中の炎の力よ、僕の中の水の力よ、僕に最大限の力を貸して!蒸気の力?わかった、これで行く!」
トリプルは、フラワーを抱き上げながらバイオレットを睨みつけ、怒鳴るように言った。
「セイブ・スチーム・クロス・ソード・オーバーフロー!!」
辺りは霧に一旦包まれる。霧の水滴ひとつひとつが、十字の剣となり、一帯を破壊し始める。それは、バイオレット、オレンジ、カラミティ、勝、芯、累を次々に傷つけていく。トリプルが与えた傷は、致命傷に近かった。
バイオレットは、倒れる寸前に、笑いながら言った。
「地球の、守護者が、地球を、破壊したぞ?面白い」
そして、破壊は終了した。トリプルは変身解除し、虚ろな目と荒い息でただただ、立っていた。
しばらくすると、フラワーは目を覚ました。勇に抱き上げられているのにも驚いたが、何よりも周囲の破壊された様子に驚きを隠せなかった。
「こ、これ、どうしたの?」
そのフラワーの声に、ようやく勇は我に返る。勇の目が見開かれる。
「あ、あ、あ。こ、これ、僕が」
勇は、フラワーを降ろした。そのフラワーの顔が青ざめる。勇は、言葉を続ける。
「フラワーが倒されて、頭プチンって言って、止まらなかった」
その勇の顔に、フラワーの右手が平手打ちした。
「馬鹿!勇くんの馬鹿!あなたは地球の守護者でしょ?私が倒されたからって、地球を破壊するなんて!!」
勇は、左頬の痛みに、心を揺らしながらも言った。
「ご、ごめん。こんな、こんな言葉で済まないかもだけど」
フラワーは、眉間に皺を寄せながら言った。
「私の技で、直るかな?」
フラワーは、意を決して唱えた。
「セイブ・フラワー・ストーム・ヒーリング!」
フラワーからの花びらは、破壊を無かった事にした。それを感知したのか、フラワーは変身解除。愛は言った。
「もう、二度とやらないで」
愛は、勇を置き去りにして帰って行った。勇は、こう言うしかなかった。
「ごめん」
一方、フラワーの癒しによって回復した芯と累は、バイオレット、オレンジ、勝をアジトに連れ帰った。
◆決意
勇は、帰宅すると、後悔の念が心を支配した。
「何やってるんだ、僕」
勇は、自室にて頭をかきむしりながらついてきた黄色の繭を見つめる。
「シードが駄目って言ったのに、僕は」
次第にその視線は、「秘密ソルジャーシリーズ」のフィギュアに。
「僕は、秘密ソルジャーみたいに、地球を守ろうとしてたのに」
天井を仰ぐ勇。
「涼と晴は、僕を導いてくれたのに」
勇の目は、きつく瞑られる。
「愛ちゃんと、シードが仲間になったのに」
遂に落涙する勇。
「壊した。僕が、壊した」
悔しさに震える勇。初変身から今までの光景が脳裏に浮かぶ。それは、勇の涙を量産した。
次第に落ち着く涙。勇は、考えた。
「何で、あんな事しちゃったのか、わかった」
勇は左頬に触れる。
「愛ちゃんが、好きなんだ。大事なんだ」
左頬に添えられた左手は、爪を立てる。
「でも、愛ちゃんを怒らせた」
そのままうなだれ、勇は言った。
「僕は、今の僕は、愛ちゃんに『好きだ』なんて言えない」
勇は左手を外し、再び顔を上げた。
「地球を守りきったら、愛ちゃんに『好き』って言う」
勇の目は、強い決意が溢れていた。
翌日登校すると、勇の視線は、愛に。愛は、目を反らした。勇は、誰にも聞こえない小さな声で言った。
「もしかしたら、これからは、1人かもね」
愛もシードも怒らせた自分に、仲間など望む資格はないと勇は1人での戦いへの覚悟を決めた。
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