7話

◆弟

 アースセイバーの変身は解けた。それを合図に愛は恭を連れ、勇たちの所へ。恭は、震えていた。勇は、それを見て、声をかけた。


「大丈夫?恭くん。まさか、ここでプラネットクラッシャーが来るとは思わなかった。嫌だったでしょ?」


 恭の震えは止まらない。愛が軽く背中を撫でる。それに力をもらった恭は、短く一言。


「勇兄ちゃん、助かってよかったね」


 愛は、こう言った。


「ごめんね、勇くんたち。私たち先に帰るね?」


 涼と晴は頷き、勇は言った。


「うん!恭くん!今日は会えてよかったよ!!」


 勇は手を振り、愛と恭を見送った。


 翌日の放課後、勇は愛に声をかけた。


「ねぇ、愛ちゃん、恭くん、あれから大丈夫だった?」

「うん、家に着いたら安心したのかな?震えは止まったよ。それからは、いつも通りだった」

「よかったー。でも、嫌な事思い出させちゃったかもってずっと心配してたんだ」

「勇くん、ありがとう」

「僕、恭くんの『お兄ちゃん』だもんね!」


 少し、2人の間に沈黙が。


「愛ちゃん、その髪型、恭くんのためなんでしょ?」


 愛は、短い髪に触れた。


「よくわかったね?」

「『お兄ちゃん』になってあげたいんだろうなって思ってた」

「わがままな恭だけど、本当にかわいそうだから。本当のパパとママにいじめられて、私のパパとママが引き取ったけど、私は、こういう事しか出来なくて」

「本当は、髪、伸ばしたいでしょ?」

「え、うん」

「頑張ってる愛ちゃんも、恭くんの『ヒーロー』だねっ」


 勇はニコッとした。


 それから、数日後の夜。愛が勇の家に慌てた様子で来た。


「ねえ!恭、こっちに来てない?」

「えっ?来てないよ?どうしたの?」


 勇がそう答えると、愛は泣きそうな顔をし、言った。


「恭、学校から帰って来てないの!どうしよう?」

「僕も探すよ!!」


 そして、勇は愛と共に家を飛び出して行った。そして、街の中を走りながらこう叫んだ。


「恭くーん!!」


 しかし、見つからない。雲を掴むような捜索。一縷の望みをかけ、セイブ・ストーンに言った。


「恭くんが、無事に見つかりますように!!」


 すると、涼と晴が現れた。勇は言った。


「涼!晴!恭くんが家に帰って来てないんだって!一緒に探してくれるっ?」


 涼と晴は、頷き勇と共に捜索に走ってくれた。手分けして探す勇、涼、晴、愛。そんな中一旦集合した際、晴が言った。


「そんな可能性、ねぇと思いてぇけど、『あいつら』に捕まってたりしてな!」


 涼も言った。


「それは、僕も考えてた。もしかしたら、セイブ・ストーンが導いてくれるかも」


 勇が言った。


「やってみよう!」


 そして、3人はセイブ・ストーンを見つめ、心の中でプラネットクラッシャーの居所を尋ねた。すると、光が道を照らす。勇は言った。


「これに、ついて行こう!!」


 辿っていったところ、廃墟と化したビルに到着。光はそこで消えた。涼は言った。


「ここに、恭くんがいたら、大変じゃないかい?」


 愛は言った。


「そうだったら、また、恭の心が傷ついちゃう。どうしよう?」


 その考えは当たった。廃墟の中に入ると、はじめに充の姿を、次に彩に捕まって震えている恭の姿を勇たちは見た。


◆一方的

 勇は叫びながら充、彩、恭の目の前に姿を現した。


「プラネットクラッシャー!恭くんを何で捕まえたのっ?」


 充は言った。


「やっぱり、来たか。意外と早かったな」


 そして、変身する。


「プラネットクラッシャーアースバイオレット」


 彩も笑いながら変身した。


「プラネットクラッシャーアースオレンジ」


 恭の悲鳴が木霊した。そして更に恭は叫んだ。


「こわい!こわいよ!!嫌だ!助けて!!」


 勇はそれに返した。


「今!助けるよ!!涼!晴!」

「うん!」

「ああ!」


 そして、3人は変身する。


「解き放て!守りの力!!」

「はためく翼は強き盾!アースセイバーウイング!!」

「流るる水は大いなる癒し。アースセイバーウォーター」

「荒ぶる炎は確かな希望!アースセイバーファイア!!」

「レッツ!セイブ!!」


 その様子を見たオレンジは、恭の首に手をかけた。


「お情けで、変身させてやったけど、それ以上抵抗したら、この首、飛ぶわよ?」


 ウイングは、怒鳴るように言った。


「そんな!そんな事はさせないっ!!」


 バイオレットは言った。


「なら、俺様の攻撃を受けろ!アースセイバーウイング!!」


 バイオレットはウイングを殴り始めた。反撃しようとしたウイングの手を見たオレンジは、言った。


「バイオレットにパンチしたそうね?よっぽどこの男の子の首を飛ばしたいのね?」


 ウイングの拳は、下げられた。バイオレットは笑いながら言った。


「よーし、いい心掛けだ!!」


 更に強烈な力でウイングは一方的に殴られていく。そんな中でもウイングは言った。


「ウォーター、ファイア、恭くんをっ!!」


 オレンジは言った。


「ああ、忘れてたわね?2人の事。カラミティ!!」


 ウォーターとファイアは大量のカラミティに囲まれてしまう。ウォーターは言った。


「駄目だ!動けない!!」


 ファイアは言った。


「けど、抜け出すしかねぇ!」


 必殺技をウォーターとファイアは繰り出そうとするが、バイオレットは言った。


「ウォーターとファイアよ、一匹でもカラミティを倒したら、あの人間は俺様が破壊するぞ?」


 ウォーターは言った。


「卑怯だよ!」


 ファイアは言った。


「くそっ!」


 ウォーターとファイアはカラミティの悪しき力を受け入れるしか道がなくなった。


 そんな中、ウイングはバイオレットに殴られ続ける。


 そんな光景にたまらず恭は叫んだ。


「やめろよ!俺はどうなってもいいから!勇兄ちゃんたちを攻撃すんのやめろよ!」


 遠くで見守る事しか出来ない愛は見つからないように小声で言った。


「恭が死ぬのも嫌。勇くんたちが攻撃されるのも嫌。私、どうしたらいい?」


 愛の涙が床に落ちた瞬間だった。ウイングはうつ伏せで倒れた。


「ウイング!」


 ウォーターとファイアは、弱りつつも同時に叫んだ。そして、恭も。


「勇兄ちゃん!!」


 バイオレットは勝ち誇る。


「潰してやったぜ!地球の守護者!!」


 オレンジは、恭を解放した。


「私たちの勝ちね?」


 しかし、ウイングの機械じかけの翼が展開。その羽根の盾は、恭を包んだ。目を瞑ったままのウイングの口は動いた。


「ウォーター、ファイア、今だよ」


 それを合図にウォーターとファイアは叫ぶように言った。


「セイブ・ウォーター・ソード・レイン!」

「セイブ・ファイア・クロス・エクスプロージョン!」


 カラミティは一掃された。そして、油断したバイオレットとオレンジも膝をついた。


 バイオレットは言った。


「何だと?」


 オレンジは言った。


「嘘でしょ?」


 そして、バイオレットとオレンジは倒れた。その事から脅威が去り、変身が解けた。


◆禁止

 しかし、勇は仰向けになったものの、横たわったままだった。涼、晴、愛、恭は、一斉に勇に駆け寄った。勇は辛うじて目は開けていた。恭は言った。


「ごめん、俺のせいで」


 勇は弱々しく返す。


「恭くんが無事でよかった。こわかったね」

「勇兄ちゃん。俺、俺!」


 恭は泣きだした。勇はその涙を拭ってやりたかったが、手が動かない。


「恭くん、危ないから、しばらく僕たちとは会わない方がいいかもね」

「えっ、そんな」

「ごめんね。会えなくなっても、僕は、ずっと、恭くんのお兄ちゃんだからね」


 そう言うと、勇は気を失った。


 涼は叫ぶ。


「勇!!」


 晴は叫ぶ。


「勇!!」


 愛は叫ぶ。


「勇くん!!」


 恭は叫ぶ。


「勇兄ちゃん!!」


 その後、涼と晴が代わる代わる勇を抱えて安藤家に運んだ。勇の両親は、慌てふためき、涼と晴を叱責した。それを受け、涼と晴は謝罪した。


 翌朝、勇は目を覚ます。そして、いつもの朝を過ごそうと思ったが、母親が言った。


「涼くんと晴くんと『遊ぶ』のは、当面やめなさい」

「何でっ?」

「昨日の夜みたいな事以上の事があったらどうするの?」

「それは!わからないけど、だけど、僕、戦えるんだ!戦いたい!!」


 父親が言った。


「駄目だ!金輪際、『戦う』のは辞めるんだ!」

「嫌だよ!」

「嫌でも何でも駄目だ!勇には危ない事をさせたくない!言う事を聞きなさい!!勇!!」


 父親の声が、怒鳴り声に近い物になっていく。勇は、従うしかなかった。


「わ、わかったよ。戦うの、辞める」

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