6-5 トイレチカクナール

<設定> この小説はフィクションです。




「では、始めましょうか」

ナターシャは静かに言うと、羽織っていた浴衣を脱ぎ捨てた。

その下には黒いレザーのような質感の、ハイレグの競泳水着。

異様に肌に張り付く光沢と、舞台衣装のような露出が、冗談とは思えない空気を部屋に流した。


「まず、割りばしを引いてちょうだい」

彼女の口調は明るいのに、部屋は妙に静かだった。


(……俺は3番)


みんなが自分の番号を確認した。

ナターシャは5枚のトランプをシャッフルし、1枚をめくった。

「Aね。じゃあ、1番は……だれ?」



「まじかよ……俺だ」

ゆうじが不安げに声を漏らす。


「命令です。1番は椅子に座って、手は膝、そして目隠し。誰かが耳に“ふぅ”って息をかけるから、3人当てたらクリアね。」

ナターシャは嬉しそうに言った。

「でも罰がないと面白くないもんね。1回間違うたびに、この『トイレチカクナール』が入ったジュースを1杯(30㏄)飲んでね。トイレに行きたくなるお薬、おいしいメロン味よ。みんなはこれから声を出したらダメよ。」



「……冗談、だよな?」

弱り切ったゆうじが呟いた。


ナターシャはすでにゆうじの目をアイマスクで覆っていた。


「じゃあ、一人目」

ナターシャがさやかを指さした。


さやかは袖から香水を取り出して自分の首元に軽く吹きかけ、畳を強く踏む音で存在を主張した。


ゆうじは口角をあがり答えた。

「さやか」

「正解。。。あなたは元の場所に戻りなさい。」

怒った顔を少し見せたが、すぐに笑顔に戻る。




「次はあなた。」と言いながら、自分を指さした。

りなは、ずるいと言いたいような顔でナターシャを睨んだ。

ナターシャは足音立てず、まるで宙に浮いているかのような歩き方で、ゆうじに近づき、右耳に優しく息をふきかけた。


「けんかな」

「ブッブー。間違い。目隠しを外して、ジュースを飲んでね」

「……絶対マズいやつだろこれ」

ゆうじは眉をひそめながらも、一呼吸して、ぐっと一口で飲み干した。

「味は……あ、メロン……あれ?いける?」

その瞬間、ゆうじの顔色が少し変わった。


「ふふ、言い忘れてたけど……2杯までは大丈夫。でも3杯目を飲むと、もうトイレが恋しくてたまらなくなるの」

ナターシャは唇の端を吊り上げた。



「それで2人目は誰?」

「りな……?」

「ブッブー。また飲んで♪」

2杯目を飲み終えた頃には、ゆうじの額には薄く汗がにじんでいた。


「わかんねえよ……なおか……?」

「残念っ。はい、3杯目。そんなに美味しかった?」

少しふらつきながらも飲み干すゆうじ。


「……そろそろ我慢できなくなる頃よ?でもすごい、あなた相当我慢強いわね。恋しちゃいそう」

「じゃあさやかか?」

「違います。正解は……私でした」

ナターシャはぴょこんと手を上げた。


「じゃ、飲んでから、最後の問題ね。……あら、いない?」

ゆうじはすでに席を立ち、トイレへ駆け込んでいた。



「安心して。トイレチカクナールは、ただトイレに行きたくなるだけ。尿意も便意もないけど、副作用があるの」

ナターシャはにっこりと微笑んで言った。

「トイレから出ると――眠っちゃうの」

トイレのドアが開いた。

ゆうじが笑顔でトイレから出てきて、親指を立てると、ストン、と音を立ててその場に崩れ落ちた。


「……これであと50分。残りは、4人」



続く

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