4-2 カップルさんですよね?
4-2 カップルさんですよね?
コンビニの自動ドアが、ピロンと音を立てて開いた。
「いらっしゃいませ〜」
思ったより明るい照明に、俺たちは思わずたじろぐ。
スーツ姿の俺と、制服姿のりな。
この時間にこの格好でふたり並んで入ってきたら――そりゃ、ちょっと浮くだろうな。
「なんかちょっと、視線感じるね」
りなが苦笑する。
「気にしないふりするしかないな……」
店内を歩きながら、みんなの飲み物を思い出す。
ゆうじはブラックコーヒー、さやかはフルーツミックスジュース、なおはラムネ系。
たくみは炭酸強めのエナジー系――きっと「青いやつ」とか言うんだ。
「私は……緑茶にしよっかな」
りなが小声で言った。
「意外と、渋いな」
「……というか、普通に似合ってるよ」
俺の一言に、りなはふと立ち止まった。
照明に透けた黒髪が、なめらかに揺れる。
「……ありがとう」
その声は、ほんの少しだけ、かすれて聞こえた。
──買い物を終え、カゴを持って並ぶと、レジには中年の女性店員。
俺たちを見ると、顔をほころばせた。
「まぁまぁ、制服とスーツで……お似合いねぇ」
「えっ」
俺が戸惑っていると、りなはほんの少し肩をすくめた。
「カップルさんですよね? いいなぁ、初々しくって」
「い、いえ、そんなんじゃ……」
あわてて言いかけた俺の言葉をさえぎるように、
「おまけ、入れておきますね。良かったらふたりでどうぞ」
そう言って、レジ袋に何かをスッと滑り込ませた。
「えっ、あ……ありがとうございます……」
店を出た瞬間、俺とりなは顔を見合わせた。
「……絶対、たくみでしょ」 「間違いない」
袋の中を見るのが、ちょっと怖い。
でも、ちょっとだけ、楽しい。
---
帰り道。
コンビニの光が背後に遠ざかり、旅館の静けさがふたたび近づいてくる。
「さっきの“おまけ”……気になる?」
りなが袋を覗き込もうとする。
けれど俺は、そっと袋の口を閉じた。
「今見たら、負けな気がする」
「なにそれ……」
りながくすっと笑う。
その笑い声が、夜の静けさにふわりと溶けていく。
「……でも、こうしてふたりで出かけるの、なんか変な感じだね」
「うん。でも……なんか、悪くなかった」
「わたしも。ちょっとだけ、ドキドキした」
りなが前を向いたまま、ぽつりと続ける。
「高校の頃も、こんなふうに誰かと歩いてたら、どんな感じだったんだろうな」
「俺……そういうの、なかったな」
「私も……」
並んで歩く足音だけが、夜道にふたつ響く。
“カップルみたい”――そんな言葉は、胸の中だけにしまっておく。
けれど、今だけは。
ほんの少しだけ、そんなふたりに見えていた気がした。
やがて旅館の明かりが見えはじめ、ふたりは足を止めた。
「……そろそろ、戻る?」
「うん」
でも、ドアはまだ開けない。
袋を手にしたまま、俺たちは無言で並んでいた。
(このままもう少し、外にいてもいい気がする)
(ドアを開けたら、またみんなの視線の中に戻るから)
ふたりの間に、ささやかで大事な沈黙があった。
続く
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