2-5 キスとおにぎり
2-5 キスとおにぎり
なおは笑いながら嘘発見器を受け取って、器具を胸にあてる。
さやかが「ちょっとそこズレてるよ」と、なおの胸元に手を伸ばす。
その自然な動きに、俺は視線を急いでそらした。
女子同士のそういう距離感の近さは、男にとっては、ちょっと刺激が強すぎる。
……と、その時。
普段は最後まで静かに様子を見るりなが、なぜかすっと手を挙げた。
その動きに、全員がちょっと驚く。
「じゃあ、わたしから行くね」
りなの声は変わらず静かだったけど――そこには、なにか強い意志が宿っていた。
「なお。……さっきけんと、二人きりのとき、ドキッとした?」
部屋の空気がふっと静まる。
さやかとりなが、同時にちらりと俺を見る。俺は冷や汗。
「えっ、それ聞く!?」
なおは口をぱくぱくさせたあと、ゆっくり答える。
「……したかも」
機械は、光らなかった。
「わっ、マジ!?」
たくみがにやにやと俺を見る。
「いや、違う! ほら、部屋間違えて入ってきたときとかさ、そういうビックリ系のやつ!」
なおが慌てて弁明するが、場はすっかり盛り上がっていた。
りなは、何も言わずに目を伏せた。
でもすぐに、いつもの静かな顔に戻って、そっとさやかの方へ視線を移した。
俺はもう、汗をぬぐうしかなかった。
さやかがにやりと笑う。
「ふふ、じゃあ私も聞くね。あの時の文化祭……実は男子に告白されてたよね?」
「ちょっ、なにそれ〜!」
なおが笑いながら顔を赤くした。
「うん、された」
機械は静かに――赤く、光る。
「うわっ、ウソついた!」
さやかが突っ込む。
「いや、されたけど……“男子じゃない”かも」
なおが言い直すと、みんなが「えぇっ!?」と声を上げた。
「え、どういうこと!?」
俺も思わず聞いてしまった。
「いや、女の子っぽい男の子……っていうか……うん、ちょっと中性的な子? だからちょっとごまかしただけ!」
なおが手を振るけど、顔は真っ赤だ。
次は、俺の番だった。
あまりキツくない質問にしようと思いながら、口を開く。
「……高校時代、一番恥ずかしかった思い出って、何?」
なおはしばらく考えて、ぽつりと言った。
「……体育祭で、ハードルの途中でこけて、スカートめくれてパンツ見られた」
爆笑と悲鳴が同時に上がった。
嘘発見器は――光らなかった。
「うわー、マジだったんだ!」
たくみが膝を叩いて笑う。
「もう、うっさいわ! あれは黒歴史……!」
なおは耳まで赤くなっていた。
たくみが尋ねる
「なおって女子力あるから、得意料理教えて」
下を向いて「おにぎり。」小さな声で答えた。
機械は光らない
「それって料理?」とさやかがツッコむ。
そして――最後。
静かに視線を向けていた、ゆうじが口を開く。
「……なお。……キス、したことある?」
その一言に、空気が一瞬ピンと張り詰めた。
たくみが「おっ、攻めるねぇ」と笑い、さやかは口を押さえてなおを見る。
なおは、肩をひとつすくめると、少しだけ口元を引き締めて――
「……ある」
嘘発見器は――赤く、光らなかった。
「……へぇ〜」
ゆうじは何も言わずに、少しだけ目を細めただけだった。
「なんか……あんたが言うといやらしいっ!」
なおがクッションをぶんっと投げたが、ゆうじはひらりとかわして無言。
「でも……まあ、初恋がいつだったかは秘密♡」
なおはそう言って、聴診器を外した。
さっきまでの恥ずかしさを軽く吹き飛ばすような明るい笑顔に、みんなが自然と笑っていた。
でも、俺だけちょっとだけ違う場所にいる気がした。
……この輪の中に、本当に入りきれる日は、来るんだろうか。
つづく
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