第2話 転生、スライムでした

 ――意識が浮遊しているような、不思議な感覚が続いていた。


 視界はない。手足もない。感触も温度もない。だというのに、思考だけははっきりとしていた。


(……死んだのか?)


 その自覚は、静かに胸を満たしていく。いや、胸なんてもうないのかもしれない。


 気づけば、最期の記憶がふわりと脳裏に蘇ってくる。


 通勤途中、トラックが――。


(まさか、あんなベタな……いや、そういう問題じゃない。これ……どこだ?)


 そのときだった。


《スキル【変幻自在】を取得しました》


《魂の転送を完了しました》


 耳もないのに、声のようなものが“響いた”。


(スキル? 魂の……転送?)


 混乱したまま、ふと感覚が戻ってきた。いや、感覚というより“知覚”だ。


 何かが、自分の体を包んでいる。ぬるりとした、柔らかい感覚。そこに、ようやく意識がつながった。


(え……なんだこれ。体が……ぐにゃぐにゃしてる?)


 必死に動こうとしてみるが、手も足もない。動かせるのは、粘性のあるゼリーのような“本体”そのもの。


 周囲には、木々。草。石ころ。そして、自分の下には土の感触。


 それに加えて、目のような器官もないはずなのに、色や形を“認識”できている。


 そう――まるで、RPGのモンスターのように。


(いや……いやいや、まさか……)


 恐る恐る、声を出そうとする。だが、口がない。喉もない。ただ、空気を震わせるような何かを“イメージ”すると、それが音となって震えた。


「ぴぎゅっ」


(……これ、スライムじゃん!!)


 衝撃の自覚に、心の中で絶叫する。


 自分は今、ファンタジーによく出てくる“最弱モンスター”――スライムになっていた。


《固有スキル【変幻自在】:発動中》


《現在の姿:スライム(基本形態)》


《魔力残量:微量(自然回復中)》


(なんだこのステータス……変幻自在? これが俺のスキルか?)


 と、頭の中に再び、説明のような情報が流れ込んできた。


《変幻自在(Lv1)》

分類:唯一無二

内容:自分の姿を“想像した通り”に変化させる。

 ※魔力を消費し変化。維持には魔力不要。

 ※理解不要。イメージだけで変化可能。

 ※使用には魔力を一定以上保持している必要あり。


(……これ、すごくないか?)


 スライムという最弱の存在に転生したはずが――

 その身体には、“無限の可能性”が宿っていた。


(よし……まずは、人間の姿になってみよう。イメージは……自分の中学時代くらいの見た目で)


 スキル《変幻自在》を発動し、頭の中で自分の姿を強く思い描く。思春期の自分。制服姿。黒髪。眼鏡はなし。


(……いけ!)


 その瞬間、身体の輪郭が液体のように揺らぎ、光の粒子となって形を変える――


 だが、


「――ぴぎゅっ!?」


 数秒後、そこにいたのは――


 背丈80センチ、見た目は人間だが、肌がうっすら青い。なぜか頭の上がぷよぷよ揺れている。


(……中途半端!!)


 第一回・人型変化チャレンジ、失敗である。

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