stories_

Arec Mahoney

1.星に召された男 _アレック・マホニー



 アレックは今、幸せだった。

 自分の身の周りの人と比べれば、とても幸せなのだと感じていた。

 一週間前にポイントEを目指して旅立ったロケット「トトポイ」がどうやらポイントEを発見したらしいのだ。「トトポイ」には、アレックの兄、ダスティ・マホニーが乗っていた。

 周囲からは祝福された。貴方の兄は選ばれたのだと。それはなんて素晴らしいことなのだろうと、声を掛けられる度に体中に至福が駆けた。

 ただ一つ——気になるといえば、


「アレック。兄貴たちの情報は掴めないのか?」

「…ああ…、仕方ないさ、いくらジャーナリストでも関係者すら知らないことを調べられる訳が無い」


「トトポイ」の通信が、ポイントEに到達する直前に途切れた。

 誰もが幸せになれると信じて疑われないポイントEは、たどり着けば今までの人生なんて忘れてしまうという。ロール・ローディンと救助隊の事があった後も、同じようにポイントEまで行っただろうと言われる人間は通信を返さなくなっていた。

 さすがにこれだけ同じ状況が相次ぐのは異常だ、やはりポイントEには何かあるのではないかと唱える学者もいたのだが、彼らも拭えないのだ。例えば、ポイントEが全てのことを忘れるほど素晴らしい地だとしたら? もしそんな場所があるのなら、それを希望にしてこんな時代でも生きていけるのだ。


(でも、兄さん…)


 アレックは信じていた。兄なら、自分と新たな地へ辿り着いた喜びを分かち合わせてくれると。

 たとえどんなに素晴らしい光景が広がっていようと、俺は必ず地球に帰り、お前と新世界の土を踏もう。

 出発式でダスティはそう言い、アレックの手を堅く握ったというのに。


 ——もし俺が、


 幼い頃の記憶が、兄が旅立ってから数回目の語りをする。

 宇宙飛行士とオペレーターごっこが二人の主な遊びで、いつもダスティが宇宙飛行士、アレックがオペレーターだった。カテューラの子供たちは大抵、自分が宇宙飛行士になりたがるものだが、アレックは兄をサポートできるオペレーターで大満足だった。

 ある日ふとごっこ遊びを中断してなんだかはにかんだ様子で彼が言ったのを思い出す。


「もし俺がほんとうに宇宙飛行士になってポイントEを見つけたら、お前は地球のみんなにそのすごさを教える役だからな」


 アレックは嬉しかった。アレックにとって優秀な兄は憧れで、例えば本当に兄の見た楽園を皆に伝えることができるなら、どんなに幸せだろうと思っていたのだ。

 そんな思いから、オペレーターの資格も取りながらジャーナリストへの道を歩んできた。


「…調べられないとしても、探すけどね。それが、ジャーナリストだから」


 苦笑と共に言ったのは自分への言葉だ。

 手がかりがないのであればまた探せばいい。ダスティのもとへ行き着くことが出来るのは、多分自分だけだ。

 そう直感していたから、アレックは兄の生存を信じていられた。


「お兄さん子だな、アレックは」

「否定はしないけどな。兄が生きているとするなら、ポイントEはやっぱり存在するってことだ。それはこの世界皆の希望になる。そのためにも、僕は兄を追うよ」

「必要なときは頼ってくれ。力になろう」

「ありがとう、アーサー」



 事務所を出ようとすると、有名なニュース番組のリポーターが玄関で待っていた。待ち伏せしていた、というのが正しいかもしれない。


「アレック・マホニーさん、お時間よろしいですか? ダスティ・マホニー氏について、取材をさせていただきたいのですが」

「…はい、構いませんよ」


 アレック自身が情報を追い求めてあちらこちらへ行っているので、アポをとれなかった記者達にこうして取材を依頼されることがある。

 そういう依頼でも、アレックは必ず応えていた。自分だけじゃなく、この世界全てに「トトポイ」の帰還を信じていて欲しい。それを伝える為に。


「ダスティ氏を含むトトポイ乗組員はどのような意図で通信に応じないのだとお考えですか?」

「…応じないのではなく、応じられないのだと、僕は考えたいです」


 ポイントEはある。兄と「トトポイ」はいずれ戻ってくる。人類はみないつか、ポイントEの土を踏める。

 可能性がある限り不可能はないのだと、彼は信じている。

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