第20話 それぞれの秘密 ④


 「さあ! 暗いお話はここまで! ここからはスパート気味にいくわよ!」


 シルビアさんは今までの暗く重たい話から一転し、急に明るく振舞った。


 みんなは一斉に水を飲みだし、一息入れる。


 心なしか、みんなの表情は和らいでいる様な気がする。


 「まあぶっちゃけ、復讐は出来た………というより、勝手にあいつ等没落してたんだけどね。」


 シルビアさんは肩を竦め、スピナが不思議そうに首を傾げている。


 「あのう、お貴族さまが没落したら、どうなるんですか? 平民の私では想像も付きませんが。」


 スピナが訪ねると、シルビアさんは笑顔で頷き、まるで歌う様に軽快に答えた。


 「まず父が既に亡くなっていて、遺産が遺族に相続されるんだけどね、寄り親の侯爵様が私の事を知っていてね。で、私にも遺産が分配される筈だったけど、私を亡き者にしようと暗殺者を送り込んだのもバレて、侯爵の逆鱗に触れたのよね。で、それで侯爵から国王様に話が渡って、あいつ等の家がお取り潰しに遭ったって訳よ。」


 「なるほど、その侯爵様はそういった事に敏感な方だったのですね。」


 テックさんが感心した様子で言い、スピナはうんうんと頷いている。


 俺もそんなに貴族の事について詳しく知らないので、いい勉強になったと思う。


 「家が潰されると、当然家名を名乗れないわ。私にも遺産が分配されて、それを元手に商人になったの。まあ、私の話はいいのよ、で、あいつ等が貰った遺産は全部お金に換えたらしくて、豪遊。日頃の散財が祟ってとっくに遺産が底を突き、懇意にしていた他の貴族にたかってたみたいね。当然誰にも相手にされず、私が復讐の為に向かったら、もう既に浮浪者になってたわ。」


 「うわぁ………お貴族様から浮浪者ですか、よく耐えられますね。」


 スピナが言い、まるで可哀そうなモノを見る様な表情で溜息をついた。


 「耐えられるわけないじゃない、最後には色々とおかしくなってたわ。」


 「うわぁ………働けば良いのに。」


 「あいつ等が働くわけないじゃない、楽して生きて来た人よ。今更もう遅いわよ。」


 「うわぁ………。」


 スピナはもう「うわぁ」しか言葉が出てこない様だ、さすがに俺もドン引きだ。


 「でね、それを見た私はね、何も感じなかったのよ。なんにもね………。」


 不意に、シルビアさんが遠い目をして、物思いに耽りだした。


 俺は尋ねる、何も感じなかったとは? シルビアさんの心境の変化があったのかとか。


 「俺の知っている人が言っていましたが、復讐の後に何も感じないと思う事があるとか。シルビアさんもそんな感じだったのですか?」


 「そうね、当たり前の様にざまあみろとか、いい気味とか、そんな感情はあったけど、肝心の復讐心は薄れたわ。ああ、この人達は「こうなるべくしてなった」としか思えなかった。」


 うーむ、中々重いお話だったが、まあ、シルビアさんが復讐心に今も駆られていたらと思うと、ちょっと怖いな。


 「まあそんな訳で、私はダークガードに何の未練も無くなったのよね。で、ただ足抜けするのも何だし、何か手土産でもと思って情報を探っていたのよ。自分の身を守る為にも保険が必要だったのよね。」


 「情報ですか、闇の組織というと相当ヤバめの情報が転がってそうですが。」


 「実際ヤバめの情報ばかりよ、女神教の総本山、エストール大神殿に匿われている巫女様は女神の使徒だとか、闇の崇拝者はそんな情報も網羅していたらしいわね。」


 ふーむ、闇の崇拝者か、確か「ラングサーガ」にも出て来たな。「ブレイブエムブレム」にも登場した闇の勢力だし。


 ………闇の崇拝者って一体何なんだろうな。


 「さて、私の昔語りにここまで付き合ってくれてありがとう。ここからが本題よ、タナカさん、貴方の額に浮かび上がる「義勇の紋章」を隠す理由、簡単に言ってしまうと、さっきも言った「闇の崇拝者」とかが狙っているからよ。」


 「ええ、俺が闇の崇拝者に狙われる? 何かの間違いでは。」


 「いいえ、事実よ。だって、「義勇の紋章」が浮かび上がる人って、光輝ひかりの女神、「ルシリス様」によって選ばれた人だからね。」


 「ん? 三柱の女神では無くてですか?」


 「違うわ、三柱の女神より更に上の存在。光輝の女神ルシリス様によって選ばれた人が、身体の一部に紋章が浮かび上がるらしいのよ。それがタナカさん、貴方の事よ。」


 うーむ、ルシリスというと、確か「ブレイブエムブレム」では創造の女神とか言われていたと思ったが。


 「タナカさんの他に、セレニア公国の公女の身体の一部に「勇気の紋章」が浮かび上がったらしいわね。」


 「セレニアですか、確かローズ王国と戦争中だったと思いましたが。」


 俺の意見に、テックさんが険しそうな表情で答えた。


 「いえ、セレニア公国はもう既にローズ軍によって占領されました。」


 マジか、だとしたらゲームの序盤は過ぎたところか。


 いや、待てよ。確か公女は国外へ逃げおおせて、再起を図るんじゃなかったっけ?


 「セレニアの公女様はどうなったんですか?」


 尋ねると、これまた凄い険しそうにテックさんが答える。


 「公女様は、行方知れずです。今、何処で、何を、どうしているのか、全く情報が入ってこないのが現状だそうです。」


 「だそうですって事は、確信は無いという事でしょうか?」


 「………………。」


 おや? テックさんがダンマリとは珍しいな、何か思う事があるのかな?


 「義勇の紋章に、勇気の紋章ですか。まるで勇者伝説の御伽噺ですな。はっはっは。」


 何だろうか、みんなの表情がいつになく真剣そのものなんだが。


 「おや、みなさん、どうされましたか?」


 「タナカさん、御伽噺と笑い飛ばせない理由があるんですよ。我々には。」 


 テックさんが言い、スピナもシルビアさんも堅い表情をしている。


 「タナカさん、貴方に浮かび上がった紋章と、セレニアの公女様に浮かび上がった紋章、更に他にも「ある紋章」が浮かび上がった人物が居るのですよ。」


 「ほう、そうなのですか?」


 「はい、紋章が浮かび上がった人物が、類まれなる力が発現するのは、タナカさんが魔獣を倒した力そのものだという事も、もうご存じだと思いますが。」


 うーむ、確かに。俺があんな大型魔獣に挑んで討伐出来るなんて、普通に考えたらちょっと想像出来ないよね。


 「そうですねえ、確かにあの時、身体に力が沸き上がってきた様な気がしましたが。」


 それは、確かにそうだ。それは自分でも分かる、魔獣に止めを刺した時、確かに何等かの力みたいなモノを感じた。


 「単刀直入に申します、ローズ王国の現国王フレデリックに、「支配の紋章」が浮かび上がったのです。」


 「ふーむ、支配の紋章ですか。随分と世界に影響がありそうな紋章ですな。」


 「実際に影響がありましたよ、セレニアを始め、女神教を信奉している国に対して宣戦布告をしましたから。」


 「そうでしたね、セレニアが落ちたんでしたね。」


 「ええ、そして私テックは、そのセレニア公国にて、弓兵隊の一部隊を指揮していました。この場に居るスピナはセレニアの剣士隊の新兵でした。」


 ん、テックさんとスピナがセレニアの人って事か。


 「それは、なんともはや、言葉がありませんが、大変な目に遭いましたね。」


 「私たちの事はいいんですよ、こうして無事に生き永らえていますから。問題はそこじゃなく、セレニアの公女様が行方知れずという事実です。」


 ここでスピナがテックさんの後に続く。


 「そもそも、公女様に勇気の紋章が浮かび上がったから、ローズは攻めて来たんだと思います。」


 俺はちょっと疑問に思った、ローズ王国が戦争を仕掛けて来た理由とは何かを。


 「ローズのフレデリックに「支配」、セレニアの公女に「勇気」、その関係って何でしょうか? それが理由で戦をおっぱじめるのは、ちょっと考え付かないんですが。」


 「良くも悪くも、女神様によって選ばれた人物ですから、何かしらがあると思いますが、問題はローズ王国ではないんです。」


 テックさんが真剣に言い、シルビアさんが後に続く。


 「私の得た情報によると、ローズ王国を裏で操っている人物が居るのよね。」


 「ふーむ、国を裏で操る人物ですか、何者でしょうね。」


 「闇の崇拝者の大物の一人、暗黒魔法の使い手、ローズを裏で操るワーズ帝国の宰相、その名は、ヘルマンよ。」


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