義勇の紋章

愛自 好吾

第1話 プロローグ

 正方世界せいほうせかい


 光と影。


 そして混沌。


 剣と魔法の異世界。


 魔物や戦争があり、スキルによって価値が決まる。


 君は、どのような冒険を繰り広げるのか。


 今、伝説の扉が開かれる。



 「くぅ~~、早くプレイしたい!」


 ゲーム雑誌に載っているRPGの謳い文句を読み、興奮が沸き立つ。


 小学生だった頃、家のドブ掃除やゴミ出しなどの雑事を手伝い、貰ったお小遣いを貯めてゲームショップへ行った。


 もちろん、お目当てのゲームソフト「ブレイブエムブレム」を購入する為。


 「ああ、長く苦しい労働だった。だが、それも今日報われる。」 


 自転車をこぎ、今日発売日の新作ゲーム「ブレイブエムブレム」をこの手に。


 それだけを夢見て、ショップへ急ぐ。


 だがその途中、奇妙な事に人が道の真ん中で倒れていた。


 ゲームの事で頭がいっぱいだったが、このまま素通りというのもな、と思った。


 仕方なく、倒れている人の側まで行き、話しかける。


 「もしもし、大丈夫ですか?」


 「うう、は、腹が………。」


 「腹? お腹が痛いのですか?」


 「腹が、へった。」


 なんだこの人?


 「君、すまないが、何か食べ物を恵んではくれないか?」


 「ええ~、僕、今は食べ物を持っていません。」


 こういう人はあまり関わらない方が良さそうだ。


 行き倒れたらしいオジサンが、こちらを見て大袈裟にお腹を押さえている。


 「お腹が空いたのなら、そこのハンバーガーショップで何か食べれば良いんじゃないですか?」


 直ぐ近くのハンバーガー屋さんを指差し、言ってみた。


 「お金、持ってないんだ。」


 オジサンがこちらを見て、物悲しそうに訴えている。


 奢れってか? 冗談じゃないよ! こっちは今それどころじゃないんだ。


 それに、今の持ち金はゲームソフトを買う以外に余裕が無い。


 辺りを見回し、誰か通りかからないかと人を探す。


 だが、こういう時に限って誰も通らない。


 このまま去ろうと思い、踵を返したが。


 「もう、三日もろくに食べて無いんだ。」


 ああ~~もう! 畜生! 分かったよ!


 無言でハンバーガーショップへダッシュし、チーズバーガーセットを買った。


 「ほらオジサン、これ買って来たから食べなよ。」


 「ありがとう、君優しいね。」


 オジサンは嬉しそうにバーガーをほうばる、よっぽどお腹が空いていたんだろう。


 「あ~あ、これでまたしばらくは家の手伝いか~。」


 本当は今日、ゲームソフトを買う予定だったのだが。


 困っている人を見捨てるのは忍びない、全く、自分でも損な性格だなと思う。


 「君、何か目的があって急いでいたのかい?」


 「うん、本当は今日発売日のゲームソフトを買う予定だったんだ。」


 「それは悪い事をしたね、お詫びに何か出来る事は無いかい?」


 「ブレイブエムブレムのゲームソフトが欲しい。」


 「あ~ゴメンね~、お金が無いんだ~。」


 「もう良いよ、じゃあ僕は帰るよ。オジサンも帰った方がいいよ。」


 自転車にまたがり、帰宅の途につく為にペダルをこぎだした。


 その時、後ろの方からオジサンの声が聞こえた様な気がした。


 スピードに乗り、耳に風が当たり、オジサンの声をかき消していたので、何を言っているか良くは聞こえなかった。


 「今は無理でも、いずれブレイブエムブレムをあげるよ。ありがとう。」


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