七歳から始めるダンジョンマスター

ウサギの貯金箱

第1話 誘拐

 マフィーは今年で7つになる女の子です。優しいお兄ちゃんのレイモンドと喋る猫のニャトソンと一緒に村で暮らしています。

「これからボクは町まで買い出しにゆかねばなりません。お留守番をお願いできますか?」

「まっかせなさい」

 マフィーは胸を張りました。

 かれこれ七つになりますから、お留守番なんて、ちょろいもんですよ。

「ニャトソンもいいですか?」

 この喋る猫は好物のサハギンの丸焼きから顔をあげました。

「任せるにゃ」

 あまり自信に満ちた返事でしたから、レイモンドはニャトソンの言葉を信じました。

「それではお願いしますよ」

 レイモンドは安心しお出かけしました。

 マフィーはすぐに窓へ駆け寄りました。

 お兄ちゃんは村の女の子とお話しているところでした。なにやら包みをもらってます。きっと手作りのお弁当でしょうね。村の女の子たちはお兄ちゃんに手作りのお弁当を作りたがるところがありました。お嫁さんになりたいんですよ。だって、レイモンドお兄ちゃんはこの国の王子さまよりずっとカッコいいんですから。

「でもお兄ちゃんにはわたしがいるのよ」

 マフィーはお兄ちゃんのモテっぷりに満足し、花嫁修行に取りかかりました。

 まずは自分の食べたご飯のお皿やコップを洗うことが立派なお嫁さんの秘訣なんです。お兄ちゃんの食器も洗います。

「ボクが洗いますよ?」

 とお兄ちゃんが言っても、マフィーは頑としてその権利を譲りませんでした。なぜならお手伝いをしなければ「マフィーちゃんはいい子ですね」と褒めてもらえないからです。

「ニャトソン食べ終わった?」

「んにゃ」

 ニャトソンは木皿を咥えて台所に飛び乗りました。マフィーはお皿を受け取り、水で濯ぎました。

「猫の手を貸してやるにゃ」

「いらないわ。だって、猫の手でお皿なんか洗った日には、爪でキズだらけになってしまうもの」

 マフィーは丁寧にお皿を洗い、食器カゴに立てかけました。テーブルをタオルで拭き、コップとお皿にほっとミルクを注ぎます。お皿はニャトソンの分なんです。ただニャトソンは猫舌でしたから、ニャトソンの分は少し冷ましてから渡しました。

 マフィーは自分のミルクにだけ一匙の蜂蜜を入れ、どっかと椅子に座り、小さな足を伸ばしました。両手でコップをつかみ、ミルクを飲みます。マフィーとニャトソンは同時に顔をあげ、とっても幸せそうな顔をしました。よいことをした後のほっとミルクは格別ですからね。

 小鳥たちの囀りを聞きながらまったりとミルクを飲み、洗ったお皿が乾いてきたところで、さっとタオルで水気を取り、食器棚にしまいました。代わりにミルクのコップとお皿を洗い、空の食器カゴに置きます。

 これでひと区切りがつきました。マフィーはお兄ちゃんが帰るまでの間、ソファで寝っ転がったり、本を読んだりして過ごすことにしました。でもその時間は長くは続きませんでした。

「わたし、お外で遊んで来るわ」

 マフィーは本を投げ出しました。

「ダメにゃ、お留守番はどうするにゃ」

 ニャトソンは正論を述べました。

「うーん」

 マフィーは難しい顔で腕を組みました。

 ほんとうはお外で遊びたいんですけど、お兄ちゃんとの約束も大切なんです。この約束を守れないようでは、お嫁さんになんてなれっこありませんからね。

 これは小さな女の子にとっては形而上学並みに難しい問題です。でも、マフィーは諦めませんでした。諦めない心が名案を閃かせたのです。

「そうだわ、わたしとニャトソンが交代でお留守番すればいいのよ。そしたら約束を破ったことにはならないわ」

「その手があったにゃ」

 ニャトソンはマフィーの悪知恵に感心しました。

「まずはわたしからね。次はニャトソンよ」

「わかったにゃ」

「お留守番はお願いね」

「任せろにゃ」

 マフィーはニャトソンの答えに満足し、意気揚々とお出かけに行きました。

 お外では、ちょうど灰色にくすんだ雲が太陽の下を横切ったところでした。ゆるい坂を下り、敷地の門に手をかけたとき、ぴゅーっと冷たい風が吹きました。まるでなにかを警告しているようです。

 でもマフィーは強気でした。警告を無視し、門の外に踏み出しました。

「女ノ子ダ」

「本当ダ」

 この汚い声はゴブリン共に違いありません。

「捕マエロッ」

「きゃあああぁぁつ」

 マフィーはゴブリン共に攫われてしまいました。

 罰が当たったんですよ。

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