魔術と剣術~本来なら成立しない?できてますけど~

草凪 希望

第1話 意思なき転生

 自分の人生は充実していたか?そういったような質問があったならば僕は間違いなく「NO」と言うだろう。


 平々凡々のような小学生、中学生生活を送り、中学3年生でようやくこのままではいけないと思い勉強を頑張り、幸運なことに第一志望の単位制高校に合格。

 しかし高校3年間の内2年間はいじめにより不登校。高校3年生であることがきっかけになり復帰することができたがもうすでに遅く卒業必須単位数が足りず留年。

 そしてそこから何年間か死に物狂いで勉強をし、なるべく人に関わらなさそうな仕事の資格が取れる大学に合格。そして就職活動には少してこずったが、何とか内定を取り、仕事がようやく軌道に乗ってきた。

そんな日曜日の夜だった。

「さて、明日から出社だし、もう寝とくか……つってももう11時だけど」

 いつもより早めにベッドに入り、少し時間がたって今日という一日が終わろうとした、そんな時だった。


どこからか聞いたこともないような大きな爆発音。


 (大きな音がした。爆発音だろうか、花火かな、いやでもこんな時間に花火なんてやってるはずないしな……)


 この思考が『俺』の最期だった。





 ____________________


 目を覚ますと明らかに俺が住んでいたマンションと天井が違っていた。

「……?」

 ん?え?どゆこと?と俺が慌てて軽いパニック状態になっていると知らない大人の女性が近づいてきた。え、えっ?ちょ、ちょっと待って……ホントにどういうこと?


そうこうしているうちにどんどんと例の女性が近づいてくる。そうして何をされるか戸惑った俺に

「ん、もう起きてたの?寂しかったのね。えらいね」

 と女性が言った。

 その言葉には妙な安心感を感じられずにはいられなかった。

 この感覚はどういったことなんだろう?とか冷静になって思いだすことも可能になってきた。

 とりあえず体を起こそうとすると……と、とんでもなく重い……なぜ?

 そう思いふと俺の体を見ようとする。首も動かない。もしかしてしばりつけられてたり?

 え、なぜ?とりあえず助けを……そう思い舌を動かして口の中を探って……俺は驚くべきことに気がついた。

 歯が、一本もないのだ。歯を抜かれた?……なんで?……いや、違う。そんなんじゃこの状況を説明できない。

 俺が困惑しているうちに女性は身体をそっと抱きかかえると、

さく。お腹空いたの?」

 そういって、あやしはじめた。

 俺もいい歳だというのに、それで思わず落ち着いてしまう。

 頭の中を支配していた恐怖と困惑が、すぅっと胸の中に消えていくのが分かる。

「寂しかったの? いい子ね」

 一瞬で危害を与えないとわかる、とても落ち着く女性の声を聞きながら、俺は……この状況を理解し始めた。

 

 やけに大きい巨人のような女性。

 言葉を出せない口。

 一本もない歯。

 そして何よりも、俺の名前とは1文字もかすっていない『さく』という名前。

 考えられないが……考えたくもないが、俺はどうやら、赤ちゃんになったのだ。

 ……うん、なんで?え、俺死んだ?いつどこで死んだ?てか、この美人さん俺の母?

 再び混乱していると

「もうちょっとしたらお父さんが帰ってくるからね」

「……うあ」

 聞こえてくるのは日本語、だし……目の前にいる俺の母らしき人は日本人だ。

 どうやら日本に生まれ直した......ぽい?テレビが見たい。今はとにかく情報が欲しい。

 目線だけ動かして部屋の中を見てみたのだが……テレビは無い。

 それどころか、部屋の中には赤ちゃんが寝るためのベッドしか無いのだ。

 床はフローリングで、少し豪華な扉で区切ってある。ベッドの向かいの窓を見るとほかの家の屋根が見えた。それよりも少し高く、今と同じ時代の新しい建物という感じがする。

 おそらく、俺は金持ちの家に生まれ直したのだろう。

 そう思うと、ほっとした。

 そもそも日本に生まれ直しただけで勝ち組だが、さらに金持ちの家に生まれたのは……不幸中の幸いだ。これですぐにまた死ぬことは滅多にないと思う。

 これがもし治安の悪い国とか、貧困の家とかに生まれていたら違っていただろう。

 俺が底抜けの安心感を覚えると、眠気が襲ってくるのは同時だった。

 赤ちゃんの身体って何もしてないのにすぐ眠くなるんだな。

 

 そう思って目をつむると、身体が寝かされるのがわかった。

 きっと母が布団に横にしてくれたんだろう。

 そう思うとなぜかとても安心感を覚えて、そのまま寝ようと思ったその時だった。 

 母親はぎゅっと手を合わせると、

「どうか無事に、7歳を迎えられますように」

 何かに強くそう祈った。

 俺にはその言葉が……不思議と耳に残った。







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