第14話 酷暑

 やあ、おいらです。


 我が『悪の権化』の新潟ではなくて越後支所の農園担当者から「今年のコメの出来具合を見てくんろ」と連絡がありましたので、組織の輸送機で行こうと思ったのですが、あいにく台風が接近していて「重量のある貨物は危険です」というイジワルないわれようをされましたのでお取引先のJR東日本さまの担当者に「上越新幹線は平常通り運転しますか」と訊ねたところ「大丈夫です」といわれましたので、三人掛けの方の席を予約しました。ああ、つまり三席予約したということです。


 もちろん、エゾヒグマのままでは新幹線どころか、青龍塔を出た途端に「クマが出たぞ!」と叫ばれて、警察がワンサカやってきまして、港北区長の許可の下、猟友会の方に駆除されちゃいますので、スピリチュアルなパワーを使って物干団という身長二メートル、体重二百キロという力士やプロレスラーよりも巨大ながらギリギリ人間セーフという男に変身しまして、いつもヒマそうにしています若くして日本を代表する大俳優、水沢舞子を連れて陸路、越後国まで電車でGO! することになりました。

 青龍塔を出まして、徒歩で天熊寺の境内を通り過ぎて参拝客用に設置されている長いエスカレーターをおりますと、東急新横浜線の『天熊寺下駅』があります。これはお取引先の東急電鉄さまに無理やり作っていただいた駅でして参拝客と我々が運営して寺の横に併設されています『天熊総合学園』と『こぐま保育園』の生徒や学生に教職員、それから自宅から『悪の権化』に出勤している隊員などで朝は結構な混みようでして、最初は駅設置に渋い顔をしていました東急電鉄さま幹部連もいまでは喜んで、キックバックをドシドシ入金してきているようです。

 東急新横浜線で新横浜駅まで出まして、お取引先ではないJR東海さまの東海道新幹線で東京駅に行きます。たった二駅ですがおいらの図体の都合上、指定券を買います。新幹線の座席はA B C D Eの五席で二、三に分かれているのはみなさんおそらくご存知でしょう。おいら(物干団)は図体がでかいので一席では収まりませんので肘掛けをあげて二席でちょうどです。それに、一人旅などできないシャイなベアーですので今回の舞子みたく連れというか同伴者もしくは介添人をつけなくてはどこにも行けません。なので、三人席の側を選ぶのです。だいたい、想像がつきますよね。


 二泊三日の予定で出かけるのですが、事前の天気予報では越後国の新潟市は雨、曇り、雨とまことによろしくない雲行きでした。当然、雨具が必要なのですが、おいらの図体を濡らさずに守れる傘なんて、プロゴルファーがたまに使っている大きな傘くらいしかないですよね。ふだん、めったに外出しないおいらが持っているはずがありません。いったい、あれはどこに行けば買えるのでしょう?

 まあ、そんな時はネットショッピングですよ。すぐに見つかります。でも、お届けに二週間かかるそうです。はは、間に合いません。ではレインコートでしょうかねえ? そんなものは大きい傘よりももっと見つけられません。悩んでいましたら、舞子の兄で科学技術庁副長官の水原舞踊みずはらぶようが、

「人体にも使える超撥水防水スプレーを作ってみましたよ。ぺこりさま」

 と親切にも便利な道具を製作してくれました。なので、すぐに一般実用化して儲けなさいと指示しました。ああ、これは昨日の話です。紛らわしくて申し訳ございません。


 東京駅に着いた物干団ことおいらと舞子は飲み物だけを買い込んで、食べ物は一切持ち込みませんでした。というのは新潟市内に『食べログ』回転寿司部門一位の寿司屋があると、舞子が調べてきたので二時間ちょっと空腹を我慢してその店でたらふく寿司を食ってやろうということで意見が一致したのです。

 乗車する上越新幹線の名称は『とき』です。Wikipediaで調べたのですが、他の新幹線には複数の名称がついているのに、上越新幹線はすべて『とき』なのだそうです。以前は『あさひ』という名称の新幹線があり、『とき』がなかった時代があったそうですが、北陸新幹線が開通した時に『あさま』という名称の新幹線ができて『あさひ』は紛らわしいというので廃止され『とき』が復活したようです。やっぱり新潟行きは特急の時代から『とき』でしたし、佐渡で繁殖活動をやっているので『とき』が良いですね。ただ、いま殖やしている朱鷺は中華出身の先祖を持った面子なので『ニッポニア・ニッポン』とはいえ複雑な気持ちになります。だって、江戸時代には日本中に腐るほどいたのに、人間に対して警戒心がなくてホイホイ捕獲されて食べられてしまって絶滅してしまったという悲しい歴史がありますからね。純粋な日本固有の朱鷺はいないわけです。そしたら、中華のどこかにわんさかいるのが発見されて、それを譲り受けて、カンバック・朱鷺の活動が始まったのですから、なんともはやです。


 新潟駅につきましたら、天気は予想に反して晴れていました。おいらは天気予報に関して、田中美都気象予報士(美しい)と晴山紋音気象予報士(美しい)しか信じていませんので特に気にはなりません。このお二人のことを知らない方は是非とも検索してください。といいましたがこの物語は大不評というか存在を無視されていますので、誰にも伝わらないのが少し残念です。


 新潟駅には我が組織の新潟支所の隊員が大型車で迎えにきてくれましたので、エゾヒグマに戻っても良かったのですが、回転寿司屋に行くので窮屈ですが物干団のまま車に乗り込みました。

 その寿司屋のことを隊員みなが知っていましたので、そのまま車で連れて行ってもらいました。


 その回転寿司屋は屋外型ショッピングモールにありました。びっくりしましたのはほかの店はガラガラなのに回転寿司屋だけは三、四十人くらいお客さんが並んで待っているのです。並ぶのが大キライなおいらはもうそれだけでゲッソリです。寿司店の横にあります、客が一人もいない新潟牛のステーキ屋さんに逃げようかと思いましたが、舞子がどうしても寿司屋がいいというので妥協しました。

 だいたい、三十分くらい待って座席に座ることができました。その店は首都圏にある回転寿司屋のようにタッチパネルで注文するのではなく、昔のように大量の寿司がレーンを回転していて、それを取って食べるという方式でした。ですから、何周も回って乾燥している寿司もあって、おいらは不愉快になりました。しかし、ノドグロやアワビの肝など滅多に食べられないネタがありまして、そこは良いと思いました。

 ただ、忙しいから仕方がないとは思うのですが、店員さんたちがテンパっていて、オオカミみたいな目で働いているのですよ。おいらもたまにはビールくらい呑んでみようかなと思ったのですが注文できる雰囲気ではありませんでした。

 おいらは腰の低いよろしくまですからこういった店はもう勘弁というところです。『食べログ』というのはどういう基準でランキングをつけているのでしょう? これでしたら、桜木町の『はま寿司』の方が気持ちよく食事ができるような気がしました。ネットのランキングなど、『モンド・セレクション金賞』程度の価値しかないです。組織内に接客業も多くありますので、いま一度お客さまファーストを徹底できるように研修をさせようと思いました。


 さて、少しモヤモヤしながらも本題のコメの生育状況を見るために大型車で農園に移動しました。我が組織の農園は越後のほか、帯広や出羽(山形・秋田)、陸奥(宮城・福島)、上総(千葉)と案外手広くやっています。おいらはJA全中が大キライなので一切取引せず、組織独自の巨大精米工場で白米にして、主に自家用と全国のこども食堂などへの配給、災害時に被災地に届けるための備蓄米にしています。

 越後ではやはりコシヒカリが中心だったのですが、コシヒカリは高温に弱く不作が続きましたので、高温に強い『ニュー・コシヒカリ』を何年かかけて栽培研究を行い、今年が本格栽培初年度でしたので、ドキドキしながら炊き立ての『ニュー・コシヒカリ』を食しました。すると多少粘り気の強いコシヒカリ特有の食感で、これはいけると思いました。でも、本当はおいら、『つや姫』や『雪若丸』のような硬めの食感のご飯が好きなのですが、ここでは絶対にいえません。


 それにしても、隊員の農家さんがいうには「この暑さは異常だべ」「熱中症どころか燃えて灰になるがや」といった意見が多く出ました。しかし、コメは涼しい室内では育てられませんし、地球温暖化を我が組織で解決することも不可能です。「早く氷河期が来るといいなあ」とおいらが思わず呟くと「極端すぎるわ、ぺこりさん」と舞子に嗜められました。そりゃあそうですね。


 越後に二泊しました。まあ、骨休めです。舞子が水族館に行きたいというので渋々ついて行きました。フンボルトペンギンの解説やイルカショーなどを観まして、それなりに楽しめました。


 最終日は、舞子が「ラーメンとへぎそばが食べたい」というので、早めに新潟駅に送ってもらいまして低層の駅ビルを巡ってラーメンとへぎそばを食べました。まあまあとしかいいようのない味でしたちなみに舞子は痩せの大食いです。越後は出羽(山形)に次ぐラーメン消費国ですからね。でも、あまり特別な感じはしませんでした。へぎそばは練り込んである海藻が味をマイルドにしている気がしました。

 一服しても新幹線に乗車するには時間がまだあります。なので、書店にでも行ってみようとなりました。駅ビルには『くまざわ書店』が入っていました。「くま」とついていますが我が組織と資本関係はありません。ここはごく普通の書店でして見所に欠けていまして面白くありません。

「ほかに書店はないのかなあ」

 おいらが呟きますと、舞子がスマホで検索してくれまして、

「外を出てすぐに『丸善ジュンク堂』があるみたい」

 というので、歩くことには疲れてきましたが、興味があるので行ってみました。


 パラダイスでした。


 在庫も豊富で陳列方法も素晴らしい。普通の書店でしたら陳列しないだろうという本がしっかり並んでいます。おいらは文庫本コーナーでアドレナリンが大放出してしまい、ボコボコ購入してしまいました。ああ、積読がまた増えてしまいます。


 時間が迫りましたので駅に戻り、帰りの新幹線に乗りました。

 しばらくしておいらはイケナイことを呟きました。

「越後美人ていたっけ?」

 舞子にどつかれました。


 それにしても、コメの収穫時期だというのに暑かったです。今年は格別異常に感じます。


 まさか、その原因があんなことだなんて思いもしないおいらでした。

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