第30話 金庫の中身と一つの光

「もしかすると、他のところにも同じような金庫があるんじゃないですか」

「なるほど。たしかに足立の言うとおりかもしれんな。星守も連絡つかないし、もう少し探そう」


 スマホのライトをつけた山城を先頭に、3人は再び廊下に出た。

 周囲を警戒しつつ、奥へと進んでは部屋の中を照らして金庫がないかを確認する。この行動を何度か繰り返している間、人体模型が現れることは一度足りともなかったことが救いだった。


「あ! ありました!」


 5、6個目ぐらいの部屋を確認したところで、中野がまた見つけたようだ。その部屋へと入って金庫に近づくと、またも紙切れが近くに置いてあった。


「今度は……『笑い声は戦火に消え、学び舎は静かに眠る』、か」

「またなんのこっちゃ分からない文章だな」

「ですが、先ほどと同じく、これも立派なヒントになっているんだと思います。この文言なら、きっとこの番号のはず」


 足立がダイヤルを回すと、またカチャリという音が聞こえた。


「また開いた!?」

「ほっ。良かった、合ってて」

「相変わらずすごいな。どうして分かったんだ?」

「加賀山小学校が閉校になった年です。『学び舎は静かに眠る』という文言からきっとこの数字だろうと推測しました」


 金庫の扉を開けながら説明すると、中野が「ねえ」と呼びかけてきた。


「なんで学校の歴史をそんなに知ってるの?」

「この間、図書館に行ってただろ? そん時に加賀山の歴史をいろいろ調べてたんだ」

「もしかして、あの時手に持ってた本って!」

「そ、まさにあの本にも載ってた話なんだ。ほんの僅かな情報だけど、ここで役に立って良かった」


 金庫の中を確認すると、楽譜の切れ端が1枚だけ入っていた。それを裏返すと、『音楽室で歌』という文字が見えた。


「さっき手に入れた楽譜と合わせて見るか。えっと、『音楽室でうた……とき、それはあらわれる』」

「この空いた場所はどこにあるんだろうな?」


 山城が首をかしげたが、足立は表情を変えなかった。


「いや、最後のピースはもう既に見つかっていますよ」

「ん? ……あ、もしかして!?」

「思い出しましたか?」

「ああ。勝手に校歌が流れてたあのラジカセを止めた時に拾った楽譜だろ?」

「正解です。たしか今は生徒会室に保管していたはずなので、そちらに向かいましょう」


 足立がそう提案すると、今度は中野が首をかしげた。


「でも、ここに入る時に使った扉ってもう開くのかな?」

「それについて、なんとも言えないな。もしまだ開かないようなら、地上に出る方法を探すところから考えなきゃいけなくなる」


 足立が答えていると突然、皆のスマホがぶるっと震えた。いの一番にスマホを手に取った山城は思わず目を丸くした。


「星守からだ!」

「ほんとですか!?」


 中野と足立もそれぞれスマホを手に取ると、通知欄に『いまいく』とだけ書かれていた。

 山城が急いで返信をしたが、メッセージはすぐには返ってこなかった。


「星守。頼むから答えてくれよ」


 スマホを両手で握る山城の腕に足立がそっと手を乗せた。


「先輩。ひとまず部屋を出ましょう。ここに来るまでは一本道でしたし、入り口の方に向かえば自然と合流できるはずです」

「つ、……そうだな」


 スマホをしまった山城の顔にはやるせなさのようなものが全面に表れていた。

 廊下に出たその時、遠くの方から一粒の明かりが見えた。


「あれ、もしかして星守先輩じゃない?」

「おお! きっとそうだな。おーい、星守ー!」

「先輩ー!」


 2人は大きく手を振りながら前に進んでいった。明かりは闇の中央に張り付いているかのようにピクリとも動かなかったが、その直径はじわじわと大きくなっていた。


(星守先輩の反応が鈍い? 聞こえてないなんてことはないと思うけど……、まさか!?)


 次の瞬間、足立は地面を蹴り上げた。


「先ぱ──」


 呼びかけた口を足立が手で塞ぐ。そのままの勢いで2人を近くの部屋に引き込んだ。


「何するの!?」

「しっ! 嫌な予感がする」


 しばらく身を潜めていると、明かりが廊下を照らし始めた。そこに現れたのは星守、ではなかった。


「ひっ」


 中野が思わず息を飲む声が聞こえる。

 廊下をゆっくり歩いているのは、半身裸でもう半分の筋肉がむき出しになっているあいつだった。


「ちっ、まだいるのかよ」


 握り拳を作った山城を横目にみつつ、相変わらずぎこちない足取りでゆっくり廊下を歩いていく人体模型を静かに見つめる。なるべく音を立てないようじっとしていると、人体模型はそのまま過ぎ去っていた。


「行ったか」

「油断禁物ですね」


 そーっと廊下に顔を出すと、ライトの明かりも不気味な背中も見えなくなっていた。それを確認すると、中野は胸を撫で下ろした。


「あれ、何しようとしてたんだっけ?」

「ひとまず、星守先輩と合流しよう。それから、生徒会室に行こう」


 そう言って廊下に出たその時、またひとつの明かりが視界に入った。しかも今度はこちらに来る速度が明らかに速い。慌てて部屋に戻ってテーブルの下に隠れると、まぶしい光が足立の目を貫いた。 


「あなたたち、何してるの?」


 顔を出すと、星守が首をかしげてこちらを見下ろしていた。

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