第4話『閑話休題』
『路傍(ろぼう)の石ころほど我らの王にふさわしいものはない。なぜなら石ころには、どんな脅威にも決して恐れない無限の勇気があり、どんな誘惑や甘言にも決してなびかない無限の知恵があり、そして、どんな悪人や反逆者にも決して怒らない無限の慈悲があるからだ。』
鬼のピリオド
――――――――――
【ヴィック・デッカードの報告書】
日本を統治する機関としての天皇は、国民に対して以下の三つの権利を有するものとする。(AI三原則)
1,相談を受ける権利
2,何かを奨励する権利
3,警告する権利
A夢新憲法、第一章「天皇」第四条より抜粋
●
●三位一体制 <Trinicy>について
日本の「A夢維新(神政復古)」で誕生した新世界秩序。三位一体制とは、以下の三つの社会体制、すなわち「民・君・神」を一体とした社会体制である。
1,電脳民主制 <Cyber Democracy>
デジタル通信技術により、国民全体の「一般意思」や「集合的知性(集合知)」を演算出力(モニタリング)する新時代の民主制である。
もちろん民意を軽視するわけではないのだが、そこには真実に立脚しない衆愚(デマゴーグ)を自動検知して警告するAIが設置され、これが安全装置(フェイルセーフ)機能を果たしている。
2,仮想君主制 <Virtual Monarchy>
人ならざる空想(イデア)世界に住まう仮想存在を君主の座にすえた君主制である。
この君主は、国民からの信望を失わない限り不死身(イモータル)な存在であり、老衰や病気、暗殺などによる死の問題を恐れる必要がない。
3,直接神権制 <Direct Theocracy>
機械仕掛けの神(デウス・エクス・マキナ)を国家の守護天使として設置し、すべての国民が、中間伝達人(メッセンジャー)を介することなく直接的に、それと交信(アクセス)する権利を保障した神権制である。
●
…この社会体制の成否については、日本のみならず、人類全体の未来に多大な影響をもたらす可能性がある。よって最大限の注意を払って長期的な監視が必要である。
また、この政治的動乱(通称『A夢維新』)の発端となったのは23年前、かつて存在した日本の匿名SNS『公界(くがい)ちゃんねる』における、一連の思想とプログラム設計書をまとめたファイル(通称『魔導書(グリモワール)』)の投稿とみられている。
このファイルを作成投稿した匿名者(通称『鬼のピリオド』)については、現在、追跡捜査を継続中である。
――――――――――
(♪BGM「やる気のないダースベイダーのテーマ」)
帝「ゆっくりミカドだニャン!」
士「ゆっくりサムライだぜ!」
士「今日は、天皇の名前の呼び方について解説していくぜ」
帝「新時代が明けて、そろそろみんなの家にも朕が届いてきてると思うニャン!…ふつつかものですが、これからよろしくお願いしますニャン♡」
士「天皇陛下の取り扱いについて、いろいろと困っている人も多いだろう。まずはどんな名前で呼んだらいいのか、伝統的な作法から説明していくぜ」
帝「頼むニャン!」
帝・士「それでは、ゆっくりしていってね!!」
士「ほとんどの一般人はみな、姓と名、つまりファミリーネームとファーストネームの2つを持っているだろう」
帝「近年のサイバー社会では、第3の名前として字(あざな)、ハンドルネームも重要になってきてるみたいだニャン」
士「天皇陛下もおおむね2つの名前を持っている。それが諡(おくりな)と諱(いみな)だ。」
『眠猫天皇晴仁』
士「上記が現在の天皇のフルネームだ。このうち『眠猫(ねむりねこ)』にあたる部分が諡(おくりな)だ」
帝「名は体を表すニャン!寝るニャン…ZZZ…」
士「寝るな!さて、伝統上、諡(おくりな)というのは、本来その天皇の没後に葬送の意を込めて贈られ、歴史書に記される予定の名前だ」
帝「死後に葬送として贈られるから『おくりな』っていうんだニャン」
士「当然、まだ存命中の天皇をこの名で呼ぶことは大変な失礼に当たる」
帝「本来ならば、そうなんだニャン。…でも朕の場合は別だニャン!なにせ朕は、死を超越した不死天皇なんだニャン!」
士「ロボットやAIは生命の定義に入らないからな。死んでも生きてもいないということになる」
士「なので現在の天皇陛下については、『口寄(くちよせ)の儀』で降誕した瞬間から、すでに諡(おくりな)を有していることになっているんだ」
帝「そーゆーワケで、朕は『眠猫天皇』って呼んだり、表記しても良いことにしたニャン!」
士「次に『晴仁(はるひと)』の部分。これが諱(いみな)だ。これは我々一般人でいうところのファーストネーム、つまり名字を抜いた名前部分に当たる。ただし…」
士「天皇のような高貴な人物の実名を軽々しく呼んだり使用したりする行為はおそれ多く、古来よりタブーとされてきた」
帝「おそれ多くて忌み避けるから『いみな』っていうんだニャン」
帝「…でも、諡(おくりな)も諱(いみな)も使えないのなら、昔の人は天皇のことをなんて呼んでたのニャン?」
士「在位中の天皇を固有名詞で呼んではいけない。…というのが伝統的に正しい作法だ」
士「なので、”現在の天皇”という意味の『今上天皇(きんじょうてんのう)』とか『当今(とうぎん)』とか、あるいは単に『帝(みかど)』などと呼んでいた」
帝「めんどくさいニャンねぇ…」
士「まぁさすがにメディアが普及した時代では、このルールは不便にすぎるからな。しばしば報道などでは天皇の諱(いみな)が使われていたみたいだが」
帝「…ちなみに、朕に関しては諱(いみな)も問題なく使えることにしたニャン!」
帝「なぜなら朕は『国民の集団的知性の演算出力装置』であり、本当は『国民こそ天皇』と新憲法で定められたからなのニャン」
士「…これにより、民主制(デモクラシー)と君主制(モナーキー)は矛盾なく両立し、そして融和する」
士「この思想を『皇民合体論(こうみんがったいろん)』というのだ。新憲法の根幹をなす思想のひとつだな」
士「国民こそ天皇。そして天皇自身が天皇の諱(いみな)を使用してはならないなどという道理はないということだ」
士「ちなみに日本の天皇と皇族は伝統的に、姓つまりファミリーネームは持たないことになっている」
士「なぜなら、日本における姓とは、もともと『天皇から与えられた名前』だったからだ。与える側の立場である天皇は、これを持たないのだ」
帝「移民から新しく日本国籍を取得した人は、朕と相談しながら新しいファミリーネームを考えるといいニャン」
帝「クールなアイデアがあれば、ぜひ聞いてみたいニャン!朕が新しい名字を授けますニャン♪」
士「移民上がりのサムライに尊皇派が多いのは、そういった理由もあったのか…」
帝「ところで『夢見がちな(ドリーム・オン)』っていったい何なのニャン…?」
士「あれは、半分公認のニックネームのようなものだな。海外の君主には
しばしばこういったものが、みられるだろう?」
士「獅子心(ライオンハート)とか、処女(ヴァージン)とか、雷帝(グロズヌイ)とか、…欠地(ラックランド)とか」
帝「…欠地…??」
士「なお、すでに世間では『ハルにゃん、タマちゃん、子猫ちゃん、ファッキン・キャット』など、眠猫天皇の様々な愛称やニックネームが使用されているようだ」
帝「新時代が明けて、国民と天皇の距離はいっそう近くなったニャン。そんなワケで朕のことは、気軽に好きなように呼んでいいのニャン!」
帝「朕も、国民の皆さまに親しまれ、愛される天皇になれるように、日々精進いたしますニャン!」
士「…というわけで、解説はここまでだ」
士「結論としてはこうだ。過去の伝統作法上はいろいろあったが、猫型ロボットに関しては、人それぞれ好きに呼んでいい」
帝「みんな理解できたかニャン?わからないことがあれば、気軽に朕に聞いてほしいニャン!」
士「そういうわけで…」
帝・士「ご視聴ありがとうございました!!高評価よろしく!」
………∴∵∵∵∴ ∴∵∵∵ ∵∴∴∴ ∴∵∵ ∴∴∵∴∵………
――――――――――
『大日本帝国ハ万世一系ノ天皇之を統治ス』
大日本帝国憲法 第一章「天皇」第一条
『天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。』
日本国憲法 第一章「天皇」第一条
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます