スキルで死んだ幼馴染を蘇らせたら、異常な愛で世界が終わった

辛子麻世

第1章 スキルで死んだ幼馴染を蘇らせたら、異常な愛で世界が終わった

第1話 転生と出会い

 ──朝。

 鳥の声と、柔らかな陽光が、まぶたの裏を淡く照らしていた。


 ……いや、それよりも。

 耳元にかかる、かすかな吐息の温もりの方が気になった。


「……リク、起きて」


 低く甘い声が、鼓膜をくすぐる。

 目を開けると、銀色の髪が視界いっぱいに広がった。朝日を透かしたその髪は、細い絹糸のように光を受けてきらめいている。


「……エル?」


「ふふ、やっと目ぇ開けた」


 彼女は布団の中に半分潜り込み、俺の胸に頬を預けていた。体温が直に伝わる距離感に、思わず息が詰まる。


「……お前さ、人の寝床に勝手に入るなって」


「だって、リクが好きだから。一緒に起きたいんだもん」


 あまりにも自然に言われて、心臓が跳ねた。からかいじゃない。翠色の瞳には本気の光が宿っていた。


「……で、でも朝から畑仕事だぞ」


「寝ぼけてないよ。ほら、手つないで一緒に行こ?」


 細い指が俺の手を絡め取り、きゅっと握る。その小さな手の温もりが、やけに鮮烈だった。


―――――


 俺の名は天城理玖。

 元は現代日本の高校生だったが、事故で命を落とし、この異世界に転生した。


 よくある異世界転生……のはずだった。

 だが違ったのは、俺だけが「スキル」という力を持っていたことだ。


 この世界の人間は、祈祷によって神から一時的な“恩恵”を授かる。身体を強化したり、防具を硬化させたり、怪我を癒したり。だがそれは“神の気まぐれ”であり、永続するものではない。


 けれど俺には──「Rewrite」という異質なスキルがあった。

 世界の理を書き換える、ただ一つの力。

 ……その力を使ってしまったせいで、俺はエルを生き返らせてしまった。正確には、違う形で“蘇らせて”しまったのだ。


―――――


 エル。

 小さな体で森を駆け、木の実を集めて生きていた少女。両親を失い、村から疎まれていた彼女に、俺は森で迷ったとき助けられた。


 それから彼女は、なぜか俺に懐いて離れなくなった。


 畑を手伝えば「リクえらい!」と笑い、

 一緒に飯を食えば「リクの隣がいい!」と駄々をこね、

 夜になればこうして布団に潜り込んでくる。


 ……正直、恥ずかしくてたまらない。けれど、どれだけ“好き好き”をぶつけられても、不思議と嫌じゃなかった。むしろ、この世界で人間らしく生きていけるのは彼女のおかげだと思う。


―――――


 そんなある日。

 村の中央広場に、血に染まった騎士団が帰還した。


「また……魔獣か」


 村人がざわめく。十人で挑み、半数が負傷して戻ってきたという。祈祷による強化を重ねても、命を削るような戦いだった。


 子どもたちが怯え、大人たちは視線を逸らす。血の匂いと呻き声が、村の日常を無言で揺さぶっていた。


「……リク」


 エルが袖を引く。翠の瞳には、怯えの色はなく――ただ俺を見上げるまっすぐな光だけがあった。


「もし、全部敵になっても、私はリクの味方だから」


 その言葉は甘やかで、けれどどこか歪んでいて。胸の奥に、言い知れぬざわめきを残した。


―――――


 その夜。

 森の奥から、獣の咆哮が響いた。


 地鳴りのような振動が大地を揺らし、空気が一気に張り詰める。


 黒い影が、静かに、確実に。

 村へと迫っていた。

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