死にたがりの君に一生分の愛を

悠李

プロローグ~天使か悪魔か

 東京―新宿。時刻は深夜一時を回ろうとしていた。

スクランブル交差点では沢山の人や車が行き交い、ビルからは煌々こうこうと明かりが差し込む。

そんな賑わいを放つ場所から少し離れた雑居ビルの屋上に一人の男がいた。


『相変わらず騒がしいなここは……』

 

男の名前は羽川ひかる。

彼は上下黒の服を見に纏い、金髪の髪をなびかせどこか物悲しい顔で新宿の街を見下ろしていた。

ひかるは屋上のフェンスを越え足を一歩踏み出せば落ちてしまうほどギリギリの端に立つ。

普通であれば高所や死に対して”恐怖”を感じて足が竦むはず。だが彼にとって死ぬことに対しての恐怖など全くなかった。

その状況でひかるは自身が育ったこの街を見下ろし目に焼き付けている。

会社帰りのサラリーマン、OL、主婦、学生、着飾って息巻いている若者、きらびやかな衣装に厚く塗りたくった化粧のキャバ嬢にホスト。

この中に平気で嘘を吐き私欲の為に人をおとしいれたり、犯罪まがいな行為を犯しそれを隠そうと善人の仮面を被って生活をしている人間がどれだけいるのだろうか。

そんな醜い欲を持った人々を見て顔をしかめるひかる。


 この世の不公平さに絶望し、存在するかもわからない空想上の神に



―死ぬべき人間はあぁいう奴らクズではないのか―

と恨み言を心の中で呟きながら足元に視線を落とした。


数センチ幅しかないコンクリートの下は地面が見えないほど闇が続いており、まるで自分の人生を表しているかのようだと自称気味に笑った。

頬を撫でる柔らかい風が吹き、ふと上を見上げると満月と無数の星空が己の存在を主張するように美しく輝いていた。


 ―なんと憎らしく美しい景色だ―


『もう一度だけお前とこの景色を見たかったよ…春樹』

 

ひかるは愛おしそうにある人物の名前を噛みしめながら煌々こうこうと光るビルを見据える。

 

『…今、そっちに行くからな』


両手を広げ一歩踏み出せばそこからは一瞬だった。

体が前に傾き足が地面を離れるのを確認し、全身で風を感じながらそっと目を閉じ

人生の終わりを遂げようとしていた。


















 ―これでやっと自由になれる―

 

 




















ひかるが屋上から飛び降りてから五分は経っただろうか。

それなのに体に全く痛みを感じない。

むしろまだ浮遊感がある。おまけに聞こえてくるのは先程と変わらない人の声や車が走る騒々しい音。

高層ビルだったため滞空時間があり、まだ体が空を飛んでいると勘違いしている?

そう思い薄らと目を開けるとひかるは信じられない光景を目の当たりにする。


『……は?』


月が雲に隠れているため顔は見えないが、神話に出てくるような美しく神秘的な雰囲気を持った男がひかるの瞳に映る。

しかもこの男、全身黒ずくめの服に深く被ったフードから僅かに覗く綺麗な銀髪をなびかせ背中からは翼が生えていた。

夢でも見ているのだろうか。もしかしたらこの男、天使か悪魔か。

飛び降り自殺をした自分を迎えにきたのではないか?など非現実的な考えに至ってしまうほどひかるは今起こっていることに混乱していた。

だが、横抱きされているこの状況の中で握りしめた手の感覚も、心臓の高鳴りもしっかりと感じている。

つまり自分はまだ生きている。と確信し、男の顔を見ると視線が交わった。

 月が雲から顔を覗かせたと同時に風が吹く。

男は同じ生き物なのか疑いたくなるほど端正な顔にダイヤモンドを散りばめたように美しい銀髪、サファイアを埋め込んだ瞳が月に照らされてキラキラと輝いていた。


神など信じてはいないが、もし本当に存在するのなら正しく目の前にいる男が神なのだろう。それほどまでに儚くそして神秘的で美しい。

そんなことを思いながらただ茫然と目の前の男を見つめていれば、ひかるの視界は急にぼやけ意識が朦朧としてくる。


「―は、ぜ――、いのか」


男の言葉を聞き取ることができず、ひかるはそのまま意識を手放した。


「羽川ひかる……やっとみつけた」


男はひかるを見つめそっと呟いた。

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