【カクヨム版】魔王の手袋に転生した僕だけど拾ってくださった王女殿下の指になります! #王女殿下の指

@weep

第一章 白い手袋

第1話 王女殿下と白い手袋

 わたしは、マニータ・クエスタ・アリーバ。


 クエスタ・アリーバ王国に第一王女殿下として生まれました。


 今年十四歳になりました。得意なことは魔法と手袋とかの小物のお洗濯です!


 苦手なことは⋯。えーーーと。内緒でーーす!!


 


 我が国「クエスタ・アリーバ王国」では、こないだまで、魔王が降臨し危機的状況でした。


 このままじゃ、世界が魔王に支配されてしまいますよーって状況が、こないだまであったんですよ?


 しかし、王城から駆けつけた「暫定魔王討伐隊」が文字通り暫定として結成されました。


 その討伐隊は、たった四名で、たった半月で、あっさり討伐に成功してしまったのです。


 四名? 半月?? 半年じゃなくて?? 半月??


 ええっ?


 こんなこと信じられます??


 その駆けつけた「暫定魔王討伐隊」の四名は──。


 テラ・プス

 ルローイ・ループス

 レシュノルティア・レープス

 シシマル・シープス


 皆様、名前に「プス」が異様に多いのは何故なんでしょう?


 その討伐隊のテラ・プスさんはリーダーで、わたしの魔法の先生です! すごくかわいらしいお姉さまなのです!


 彼らは普段はご普通の容姿で生活していますが、魔王討伐でもそうでしたが、暴走した魔物たちを懲らしめるときは、彼らの本性である獣人の姿となり、立ち向かいます。


 彼らは「冒険者」というわけではなく、亡くなられた王妃。わたしの母の魔王対策を引き継いでいたのです。


 わたしの母は、生前には彼らを愛弟子として育成し、結果的に魔王討伐を果たしたことで、時の人になっていますが。。。


 半月(正確には十四日間)で討伐はあまりに早く、王城でも想定外だったこともあり、心の準備と言うか、手続きやら事後処理やらで、てんやわんやなのです。


 世界各国は我が国を讃えたが、王城の人々がてんやわんやなので、それどころではなく、王城の人間とは面会謝絶的な状況となっています。うれしい悲鳴なのかなんなのか分かりませんね。


 魔王討伐を祝う式典やらなんやらは、いつになったらできるのでしょうか、それは国王であるわたしの父にも分からない状況であると言い、王城が平常に戻るまで目処が立たない状況です。


 国外の方々は「なんじゃそりゃ」やら、「本当に魔王討伐できたのか怪しい」やら、「魔王を討伐せずして仲間につけて隠し持っているのでは?」やらと、掌を返して煽ってくるほどです。 ひとって知らないからって何でも言うものなのですね! ひとってこわーい!!


 実際に魔王は討伐されたので、王城では人々が事後処理に忙しないながらも、平和そのものです。


 


 この日も、中庭には穏やかな風が吹いていました。


 わたしは、王城では結構端っこのほうにある王女宮に住んでいますが、さすがに退屈なので王城内のいろんなお庭にお邪魔しています。


 陽射しはやわらかく、薔薇の香りがそよぎに乗って心地よく、小鳥たちはうたいながら羽根を休め、満足したらすぐ空へと舞っていく平和な自然が広がっています。


 わたしはお庭が大好きです! 季節によって景色の変化がありますし、毎日いろんな発見があります。


 わたしは、何かを発見してその片隅にしゃがみこんでいました。


 わたしの髪は風になびき、一見すると黒く見えるのですが、光の角度によっては、瞳と同じワインレッドが浮かび上がります。国王、つまり父曰く、これは母に似たようですが、そんな母は数年前に亡くなられまして⋯。すぐにそれを確認できなくて、とても悲しいです⋯。


 そんな、超絶悲しい話よりも、今は目の前の幸せな話が重要なのですよ!!


 草陰から覗いていたそれを発見したのですよ~~~。


 


 それは、片方だけの手袋ぉ~~~~!!!


 


「ぬほほほほほんほー!」


 


 わたしは興奮のあまり、乙女らしからぬ鳴き声(?)を発してしまいました⋯。


 あらあら。いっけねえ。これはいかんいかん。我ながら迂闊すぎましたね。


 思わず、自身の頭に軽く拳を当てて、ベロを出すポーズ。これは魔法講師であるテラ先生直伝!


 女子らしからぬ行動をしてしまった時は『てへぺろ☆』と呼ばれるかわいいポーズをすれば、乙女を取り戻せる?らしいです!


「⋯⋯⋯」


 侍女は残念なものを見たような表情をしていますが、わたしにはそんなことは些事なので、見ない振りをしました。 些事中の些事。 投げつけても良い些事。


 まぁ、侍女のほうはこんなわたしに匙を投げて諦めていることでしょうが、渋々声をかけてくれました。


 


「これは、やけに黒ずんだ白い手袋ですね。ほつれはないですが、掌の部分には薄く焦げたような痕が⋯」


「どうして焦げちゃったんでしょう? 持ち主が火炎魔法の加減を失敗しちゃって捨てたのかしら?」


 


 わたしは、幼いころから王城の中庭で、こうした「片方だけの手袋」を見つけては拾い集めてまいりました。


 その理由は、手袋はふたつでひとつ。それが片方だけ、置き去りにされている光景は、どうにも切なくて、放っておけないタチなのです。


 たぶん、わたし自身が、寂しくてずっと母の温かみをずっと探してるのかも知れませんね。 そんなわたしの癖を知ってか、いつからか使用人たちは庭という庭をくまなく清掃するようになり、手袋はめったに姿を見せなくなってしまいました。


 うーん。解せぬ。


 確かに人さまの手袋は不衛生ですからね。中庭だと大抵は使用人、特に庭師のか?魔法使いのか? まぁ、洗ってしまえばそんなことは些事なこと。些事は投げます。匙とともに。


 そうそう。半月ほど前に、王都の近くに魔王が現れたんでした。


 『暫定魔王討伐隊』を急遽結成した四人があっさりと討伐。


 その中にテラ先生もいらっしゃいましたし、彼女はパーティリーダーでした。 パーリィーリーダー! 先生格好いい!


 魔王討伐の後処理と手続きで王城中の人間がバタバタしているのでしょうか、中庭の掃除も滞るようになっていたのでしょうね。


 チャンス到来!


 ラッキー! クッキー! 手袋大好っきー!


「ええ。また、拾うんですか? マニータさま⋯」


 呆れと言うか哀れみのような声が聞こえました。


 わたし付きの若い侍女のマルガは、わたしとふたりのときは年相応に口うるさい四歳年上のお姉さまですが、普段は超優秀で笑顔が似合う侍女です。


「だって、マルガ。何年何日ぶりか忘れたくらい、久し振りなのですのよ。」


「差し出がましいですが、どうか、どうか、執事か近衛のほうに届けてくださいませ。魔王討伐後ですから、何が混ざっているか、何があるかわかりませんよ?」


「あらあら。大丈夫よ。怪しい魔力量を感じないし、悪い物のはずがありませんわ?」


 わたしはニッコリと笑って、そっとその手袋をつかんで拾いました。


「では、せめて洗わせてくださいませ。わたしが⋯⋯」


「いいえ、これはわたしが致します。キレイキレイにして、乾かしてあげませんと!」


 マルガは深くため息をついておりましたが、それ以上は何も申さず、わたしのあとを追ってきました。


 部屋に戻ってから、手袋をぬるま湯でやさしく洗い、石鹸で指先を包むように揉み洗い、驚きの白さとなりました。布でていねいに拭き取り、窓辺に干して乾かしました。ああ言ってるマルガもわたしが手洗いする様子だけは嬉しそうに眺めていましたが⋯。


 そのとき――


 なぜか、妙な感覚が走りました。 感覚というより、視線?

 

 わたしのことを、見ていたような? そんな気配。


 


 うん? 気のせい?


 


 まさか、近衛? 影? いいえ、それとは違う気配です。


 気の所為、気の所為⋯っと。わたしは侍女に促されて湯浴みをしました。それは、拾った汚い手袋の分までと言わんばかりの念入りに⋯。


 やはり、マルガはマルガでしたね。ぐぬぬーっ⋯。


 


 


•**•.¸¸.•**•.¸¸.•**•.¸¸•**•.¸¸.

•**•.¸¸.•**•.¸¸.•**•.¸¸•**•.¸¸.


 


 ところが、その夜。


 ふと目を覚ましたわたしの目に映ったのは――


 窓辺に干しておいたはずの手袋が、姿見の前で宙に浮いていました。


 異様な魔力量を感じ、凍りつくかのような寒気を感じます。

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