第四章:秋風と監視の目 第三節:檻と鎖

 新学期が始まって一週間が過ぎた頃、椿は周囲の視線に気づき始めた。食堂で、廊下で、そして授業中も、他の生徒たちの視線が、自分と沙月に向けられているのを感じるのだった。


「椿さん、最近、藤代さんとよくお話しされているようですが……」


 ある日、同級生の美代子が、遠慮がちに声をかけてきた。


「はい、たまにお話しすることがあります」


 椿は、できるだけ自然に答えようとした。しかし、美代子の表情には、明らかな心配の色が浮かんでいた。


「お気をつけになった方がよろしいかもしれませんわ。上級生との親密すぎる関係は、学院では……」


 美代子は、最後まで言わずに口を閉じた。しかし、その意味するところは十分に伝わってきた。


 その日の午後、椿は舎監を務める厳格な初老の教師に呼び出された。古びたインクの匂いが染みついた舎監室で、教師は冷たい声で言った。


「橘さん。あなたは最近、藤代さんと少し親しくし過ぎているのではありませんか」


 その言葉は、冷たい氷の刃となって椿の胸に突き刺さった。


「女学生同士の清らかな友情は美徳ですが、度を越した関係は、本校の気風を乱すものです。節度をわきまえなさい」


 舎監の言葉一つ一つが、椿の心を深く傷つけた。私たちの愛が、汚らわしいもののように言われている。清らかではない、と。


「申し訳ございません」


 椿は、頭を下げることしかできなかった。反論すれば、余計に疑いを深めることになる。そして、沙月にも迷惑をかけてしまう。


 同じ頃、沙月もまた、担任教師から同様の注意を受けていた。その結果、二人は舎監の監視のもと、二人きりで会うことを固く禁じられてしまったのだ。


「当分の間、橘さんとの個人的な接触は控えていただきます」


 沙月に告げられたその言葉は、まるで死刑宣告のように響いた。


 これまでロマンティックな障害でしかなかった学院の規律は、今や冷たい鉄格子となって、二人の間に立ちはだかった。二人の巣は、突然の嵐に荒らされ、引き裂かれた。

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