未来から来た娘は実は超絶パパっ子?!【パパっ子娘】

1年生編

出会い

第1話 自慢ではないが気づかれません(修正版)

―キーンコーンカーンコーン―


 けたたましく学校に鳴り響く下校チャイム。

 

 そのチャイムで生徒達は部活に励みにいく者もいれば、教室に残り友人たちとおしゃべりする者、仲の良い友達とゲーセンによる者、最後はそそくさと家に帰りゲームや二次元の推しを堪能する者。

 君はどれに当てはまるだろうか。

 大半の人間は部活に励むと答えるのではないだろうか(偏見)


「ふぁぁぁ~」


 そんな大きなあくびをして目覚めた俺こと春真(はるま)親一(しんいち)は部活に励むなど言語道断。

 友達もまったくいないわけではないがほぼゼロに等しい。

 というわけで立派にぼっち帰宅部を貫いている高校一年生。

 


 自慢ではないが俺は影が薄すぎて周りから気づかれないことがある。

 俺がトイレに行っても誰も気づかない。

 俺が教室に入っても誰も気づかない。

 

そんな悲しい人間が俺、春真 親一というわけだ。

 


 校門を目指して廊下を歩いていると、当たり前だが同じ学校の生徒とすれ違うことは多い。

 だが相手の方はまるでそこに誰もいなかったかのように少しの意識も向けずにすれ違っていく。

 まぁほんとに気づいてないんだろうな。 

 けど俺はこの何もない一人で過ごす平穏な日常が好きだった。だから何も苦痛に感じることはなかった。

 

「あ!いたよ!おーい!」


「ちょっとお姉ちゃん!速いですよぉ」


 だけど、俺のこの平穏な日々も二つの甲高い声ですぐに破局してしまうのも日常だった。

 俺は溜息を尽きながら声のした方に目を向ける。見ると、声のした方からは二人の女子が駆け寄ってくるのが見えた。


「親一どこいってたの?探したよほんと。」


「どこにもいないから先に帰られたのかと思いました。」


「どこにも行ってないよ。ただ教室で寝てただけ」


 そんな普通の会話をしていると周りから嫉妬や憎悪の視線が俺に流れてくる。

 まぁこの説明は後々するとして、まずはこの二人の紹介をしておこう。


「まったくぅ。このかわいい美里ちゃんが一緒に帰ってあげるって言うのに相変わらず陰湿な顔してるわね」


 開口一番人の顔を馬鹿にするこの失礼な女の名前は"夏川(なつかわ)美里(みさと)。

 

 俺と同じ学年だがクラスは違。そして、俺の幼馴染だ。

 こいつは成績がよく、運動神経もいい。おまけに顔もかわいいと男子からも人気が高い。


 もしかしたら俺も美里に落ちていたかもしれないが、こいつは俺の時だけさっきのように度々失礼な事を言ってくるのだ。

 だから、こいつに落ちることは今はないだろう。


「ちょっとお姉ちゃん!そんな言い方はダメですよ!親一くんすいません、お姉ちゃんが…⋯」


 そしてこの礼儀正しくて優しそうな雰囲気の女の子は夏川(なつかわ)美咲(みさき)。

 

 こいつも俺と同じ学年だが、クラスは違う。

 こいつも美里同様成績が良く、運動神経も美里ほどではないが悪くはない。

 さらには顔やスタイルも美里同様で抜群であり、こいつも男子からは人気が高い。

 そしてこいつも俺の幼なじみである。


 もう気づいている人や予想している人も多いと思うが一応言っておくと、こいつらは「双子」だ。

 顔もスタイルもほぼ同じで正直見分けるのが難しいほどだ。まぁ俺の場合は問題ないが……。

 

 だが、素人が見分ける方法も普通にある。

 例えば髪型だ。

 美里はショートヘアに桜のヘアピンを付けている。

 逆に美咲は一つのヘアゴムで結んだポニーテール。髪もサラサラでとても美しい。



 実を言うと俺はポニーテールが一番の好みだったりする。

 まぁだからと言って美咲に恋愛感情を抱くかと言われるとそうでもない。あと別に美里のヘアスタイルを否定しているわけではない。


 「ちょっと美咲、何ペコペコしてんのよ。こいつ相手に頭を下げる必要なんてないよわ。私たちの仲なんだから。」


 「それとこれとは別だよぉ。いくら親しい中でも言っていいことと悪いことがあるんだからね? 親しき仲に礼儀ありだよお姉ちゃん」


 「まったくもってその通りだな。美咲は話の分かる奴で助かるよ。いつも礼儀正しくておしとやかで男子から人気なのも頷けるな。」


「えへへっ」



 俺が何気なく思ったことをそのまま言うと美咲は照れた表情ではにかむ。

 俺はこの時気付かなかったが美咲の耳はゆでだこのように真っ赤になっていた。


「そ、そこ…⋯!何イチャイチャしてんのよ! あんた私の妹を口説くのやめてよね!」


「えぇ? 別にそんなつもりじゃ」


「まったく。油断も隙もないんだから」


「ん? なんか言ったか?」


「な、なんでもないわよ! それよりさっさと帰りましょうよ。日がくれちゃうよ!」


「あ、あぁそうだな。」


 美里がなぜか赤面させてテンパっている。

 理由も分からない俺は疑問に思いながらも三人で帰路につくのだった。


 今俺たち三人は登校の時や下校の時に毎日通る道を歩いている。周りからはどのように見られているのだろうか。

 美少女二人の間に冴えない男がいる。正直不釣り合いすぎて見てられないのではないだろうか。

 

 なんなら影が薄すぎて美少女二人の間が不自然に空いていると思われてもおかしくないのかもしれない。


(もしそんな風に見られてたら俺、もはやどこかのシックスマンだな)


 俺が内心で適当に呟いていると、右隣で平行する美里が言った。


「そういえば、今日の夕食は親一の家でとるらしいから後でそっち行くからね。」


「は?初耳なんですけど…。」


「そりゃそうでしょ。だって私も今初めて知ったもん。ほら」


 そう言って美里はスマホの画面を俺に見せつけてきた。そこには美里とそのお母さんのメールでのやりとりがある。

 俺はその画面を見て思わずため息をつく。


「な、なによ? そんなに嫌なの? 私たちが来るの」


「別に嫌とはいってないだろ」


「まぁまぁ別に初めてじゃないんですし、いいでしょう? まぁそれでも親一くんが迷惑というのなら無理に行きませんが…。」


 美咲が少し寂しそうな表情で言う。


「まぁ、別にいいけどな。美咲の言うとおり今回が初めてってわけじゃないし」


 俺がそう言うと美咲はぱぁぁっと表情を明るくして「やったぁ!」と無邪気に喜ぶ。

 前々から思っていたが俺はどうやら美咲には少し甘い部分があるようだ。


「まったく美咲ったら自分の自然に発する魅力を自覚してないのかしら。」


「まぁ確かにな。そこは俺も同感だ。あいつは頭はいいが天然だからな。いつか悪い男に騙されないか心配だ」 


「そうよね。私がしっかりお姉ちゃんとして守ってあげなきゃ。」


意気込んでいる美里に俺は思ったことを口に出す。


「でも、お前も普通に可愛くて男子から見たら魅力にしか映らないけどな。だからお前も気をつけろよ」


 だが、俺が前を向きながら言っても美里からの返事はなかった。俺は気になって左隣を歩く美里を見ると美里は顔を真っ赤にさせながら硬直していた。 


 俺はしばらく声をかけてみるが美里は以前硬直したままだった。


(はぁ、女子はよくわからん……)


「ん?」


俺は後ろを振り向く。しかしそこには当たり前のように人もいなければ何もない。道が続いているだけだった。


「今なんか誰かに見られてる気がしたけど、気のせいか?」


 今俺たちは住宅街にいる。視線を感じてもおかしくない。特に俺の近くには学校でもかなりの人気を誇る二人の美少女がいるのだ。

 

 だけど、さっき感じてた視線はなぜか気になってしまってつい後ろを向いてしまったのだ。


「お~い。親一ぃ? 大丈夫~?」


「親一くん? どうかしましたか?」


 俺が後ろを気にしてるとをいつのまにか正常に戻った美里と美咲が不思議そうに俺を見ていた。


「え?いや、なんでもない。」


「そうですか?まぁそれより速く帰りましょう。夕飯のために一回家に帰って支度しなくちゃいけませんから。」

 

「そ、そうだな。俺も腹減ったし」


「そうね。はやく帰ってご飯食べたいわ」


 そうして俺たちは談笑しながら帰路につくのだった。


――――。


「……行っちゃった。」


 去っていく親一たちの背中を見つめながら呟く一人の少女。その少女は嬉しさと興奮と感動を乗せた声音で呟く。


「あれが、若い頃のこいのパパとママ……」 







2025年。10月 13日。

修正済み。





 

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