第16話:暗夜の高官会談

王都は深い闇に包まれ、街灯の光も煙の帳に消えかかっている。

昨夜、裏切り者リストが公開されて以来、貴族たちの緊張は途切れることなく、

衛兵の見回りは昼夜を分かたぬ厳戒態勢だ。


そんななか、王城北翼の地下にひそむ廃教会で、

連合高官たちによる極秘会談が行われようとしていた。

薄暗い石柱の間、壁にかけられた漆黒の布が重苦しい空気を作り出す。


王国第一の老侯爵がひそひそと話し始める。

「リストに名前を挙げられた者たちは、

 暗黒女王の恩寵を拒む限り、生き残ることは許されぬ」


隣にいた若伯は震える声で応じた。

「我らの地位も財産も、このままでは失われます……

 どう抗えばよいのか」


ひんやりとした空気を切り裂くように、

高い残響を伴う足音が廊下を走った。

会談場の扉が静かに開き、

仮面を付けた二人組の使者が現れる。


「王女陛下より、緊急の書状を預かっております」

低い声で告げると同時に、闇を纏った小さな巻物を差し出した。


老侯爵は興味深げにそれを受け取り、

封印を解く前に目を見開く。

……そこには、呪いの紋章とともにこう記されていた。


「真実を欺く者よ、我が前に跪け。

 拒むなら、この国の夜は永遠に終わらぬ」


空気が凍りつき、誰もが顔を青ざめさせた。

若伯が小声で囁く。

「また、新たなリスト……?」


だが老侯爵は巻物を鞘へと戻し、

低く笑った。

「いいや、これは我らへの警告だ。

 我ら自身が裏切り者と認定される前に、

 閣僚団を解体しなければならぬ」


その瞬間、廊下の影が揺らめき、

レイラが闇のマントを翻しながら現れた。

銀灰のドレスを身に纏い、仮面の下で冷ややかな笑みを浮かべる。


「ご招待、ありがとう」

その言葉は絹のように滑らかで、

同時に毒のように鋭い。


高官たちは驚愕に声を落とし、

ただ一人、老侯爵だけが静かに拍手した。

「令嬢……まさか、ここへ?」


レイラは優雅に一歩前に出ると、

闇の魔力を纏わせた杖を軽く叩いた。

暗い文様が床に浮かび上がり、壁の蝋燭を一瞬で照らし出す。


「この会談は終わりよ。

 貴族の策謀はすべて露わになった」


アレクとミカエルが背後から現れ、

扉にはすでに複数の闇の影が迫っていた。


若伯が叫ぶ。

「令嬢、待ってくれ! 私たちは――」


だがレイラの一閃で、

床の魔紋が炸裂し、

会談場は黒い霧に包まれた。


濃密な闇の渦が、高官の呼吸を締め付け、

呻き声さえも消し去る。

高官たちは無力に膝を折り、動きを止めた。


老侯爵は最後まで抗おうとしたが、

レイラの漆黒の瞳に見つめられ、ついに堪えきれぬ声で呟く。

「我々は、あなたに従います……」


闇が翳り、霧が晴れたとき、高官会談の議席は

完全にひっくり返っていた。

外では城壁の太鼓が鳴り響き、

王都に新たな体制が確定したことを告げている。


レイラは静かに杖を下ろし、仮面を外した。

その素顔には、

確固たる支配者としての凛とした気迫が漂っていた。


「これで……我が暗夜の議会は完成した」


闇の祝福を受け入れた高官たちは、

今後の新秩序を支える歯車となるだろう。


王都の夜は深く、

しかしその闇の中でこそ、

レイラの光は最も鮮やかに輝くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る