第2話 『おかえりなさい』

 

   ※


 私は、とてもかげがうすい。


 だから、下校しているとき、女子に話しかけられたのははじめてで。


「私、かげがうすいから。話しかけられても、分からないよね」


 そう言われて、「そんなことないよ」とうそをついた。


「うれしいな。私に、気づいてくれて」


 多分、同じクラスか、去年中一のとき同じクラスだった女子。


 にこりと笑んでくれて、顔がゆるむのが分かった。


「いつも、ひとりで帰ってるよね。入学したときから」


 私は、かあっと顔があつくなり。


「さびしかったよね。大丈夫、私が居るよ」


 続いた言葉に、ぎゅっと胸がいたくなった。


「大丈夫。これから、一緒に居るよ」


 しつもんをする前に、女子に手をつながれ。私は、進みはじめた。


 家とは反対方向で、どこに向かうのか聞く前。女子が路地に入って、ふたり並んで進み。


「うちに来たら、『おかえりなさい』って言われるから。『ただいま』って返してね」


 先を進む女子が、背中を向けたまま言い。しつもんをする前に、路地を出て止まった。 


「大丈夫。これから、ずっと一緒にいるよ」


 大きく立派な、見知らぬ洋風の家。女子は、私の手をつないだまま、門の中に入ろうとした。


「どうしたの。ひとりで、さびしかったんでしょ」


 足を止め、顔を下に向けた。

 私は、「どうして、声をかけてくれたの」と、とても小さくたずねた。


「大丈夫。これから、一緒にいるよ」


 「しつもんの答えではない」と、顔を上げ。私は、女子の様子にかたまった。


 ぐるぐると、全身に黒のもやがかかっている。女子が、私の手に力を入れた。


「さびしいから、私が見えたんでしょう。さびしいから、どうなっても良かったんでしょう。さびしいから、私と一緒に居てくれるんでしょう。さびしいから、私たちと、これからずっと…」


 女子の言葉の途中、私は名前をよばれた。


「何してんの。家、この辺じゃなかったよね」


 聞こえたうしろに向くと、クラス委員長が居た。


「空地の前で何してんの。そこ、あんまよくないよ」


 私は、手が自由になっていて、全身が冷たくなっているのに気づいた。


「昔、大きな家が建ってたんだけど。一家心中があってから、ずっと空地。怪談的な話があるんだけど」


 「聞きたい?」と聞かれ。私は、首を左右にふり、「もう知ってる」と返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る