第31話 ツインヘッドベアと新たな能力
「ワアラフルーティゴーヤ、はい!」
マリーの水弾の魔法が発動し、ツインヘッドベアの胴体に着弾する。
これまで数々の魔物を屠ってきたマリーの魔法だが、さすがにツインヘッドベアを一撃で倒すことはできなかったみたいだ。
だが、かなりのダメージは与えたようで、ツインヘッドベアが苦しそうに荒い息を吐いている。
ツインヘッドベアの一つの頭が忌々しげにマリーを見ていた。
だが、ツインヘッドベアにマリーたちを襲わせる気はない。
そう言わんばかりにアリューシアがツインヘッドベアとマリーたちの間に立ちはがだかった。
「せやッ!」
そして、オレはノーマークになった頃を見計らって攻撃を仕掛ける。今度はツインヘッドベアの右腕の付け根に大剣を振り下ろす。
「GUGA!?」
これで右手、右脚を潰したな。もう逃げることも攻めることもできました。
「ワアラフルーティゴーヤ、はい!」
ツインヘッドベアがオレの方を向くと、またマリーが魔法を発動する。
ツインヘッドベアがマリーの方を向けば、アリューシアが突きでツインヘッドベアを威嚇する。
これこそ冒険者たちがパーティで動く最大のメリットなのだろう。
「だらああッ!」
そしてついに、ツインヘッドベアが地に伏せる。
オレは慎重に警戒しながらツインヘッドベアに近づき、その心臓を大剣で貫いた。
ツインヘッドベアはビクリと体を震わせると、体を完全に弛緩させる。
「やっと倒せたか……」
ツインヘッドベアの太い腕を見る。こんな筋肉の塊で殴られたらただじゃ済まなかっただろう。メンバーにも目立った怪我もなく倒せて心底ホッとした。
「シアは大丈夫か?」
「大丈夫だ。なんともない」
アリューシアはツインヘッドベアの攻撃を何度か盾で受けていたが、上手く受け流せていたみたいだ。さすが、練度が高いな。
「おつかれさまです。お二人ともお怪我はありませんか?」
「大丈夫だ」
「私も平気だ」
「ならよかったです」
「それで、このクマはどうするの? 捌く?」
マリーの言葉に、パーティメンバーの全員がオレを見た。
オレが決定を下す感じか。別に名乗りを上げたわけじゃないけど、すっかりリーダー扱いされてるな。
「フォレストウルフは諦めるけど、ツインヘッドベアの皮は剥ぐか」
ゲームだったらこういう時アイテムだけ残して死体は消えるだろうし、無限に荷物を持てるアイテムボックスがある。
だが、この世界はゲームのように見えて現実に近い。持てる荷物には限りがあるし、アイテムは剥ぎ取らないと手に入らない。何とも不便な世界だね。せめてアイテムボックス自体実装して欲しいのに。
「いや、待てよ……」
もしかしたら、オレが知らないだけで、アイテムボックスがあるんじゃないか?
思い出すのはマリーの髪飾りを装備から外した時のことだ。あの時、髪飾りはどこに行っていたんだ?
「ステータスオープン」
目の前にまるでSF映画のように広がる半透明なステータス画面。そこにはオレの今の格好と装備品が記載されている。
「試しに大剣を外してみるか……」
オレは装備欄を操作して、大剣を装備から外した。
すると、すっと肩が軽くなる。確認してみると、大剣が消えていた。
でも、辺りを見渡しても大剣はどこにもない。
大剣はどこに消えた?
オレはそこから数歩歩くと、また大剣を装備してみる。
かたにズシリとくるいつもの重み。背中に手を回せば、大剣の硬い柄があった。
大剣は確かに消えた。だが、また装備すると出てきた。この間に、大剣はどこに行っていたのだろう?
オレはこれがアイテムボックスがある証左であるように思えて仕方なかった。
「ふむ……」
だが、ステータス画面のどこを見ても持ち物やアイテムの表記はない。
もしかして、ステータス画面とは独立した部分にあるのだろうか?
「ヒイロ、さっきから何してるの?」
「ちょっとね……」
マリーの問いに曖昧に答え、オレは試してみることにした。
「アイテムボックス」
ダメで元々。そんな気持ちで呟けば、ステータス画面の横に青い四角が展開される。
もしかして、これがアイテムボックスってやつか?
オレは試しに足元に転がっているフォレストウルフの死体に触れて、アイテムボックスに入れると念じてみる。
すると、触っていたフォレストウルフの死体が消える。
「マジか!」
今まで何も書かれていなかったはずの青いウインドウ。そこにフォレストウルフの白い文字が浮かんでいた。
「え? フォレストウルフが消えた!?」
「どういうことでしょうか?」
「何か起こったのか?」
驚きの顔を浮かべるマリーとエミリア。見ていなかったのか不思議そうな顔をして二人を見ているアリューシア。そんな三人にオレは告げる。
「どうやら勇者の力で物を持ち運べるらしい。フォレストウルフもツインヘッドベアも持って帰ろう」
「そんなことが可能なのか?」
半信半疑のアリューシアにオレは頷いて答える。
「ああ。まあ見てろって」
そして、オレは次々と魔物の死体をアイテムボックスに仕舞っていくのだった。
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