第29話 ホーンラビット
腕輪に力でバグを直してみると、たしかに三体の大男は三体の小さなツノの生えたウサギに変わった。こんなの相手にビビってたのが恥ずかしくなるよ。
「来るぞ!」
アリューシアの鋭い声にハッと現実に戻される。
見れば、三体のホーンラビットがすべてアリューシアに向かって突撃しているところだった。
オレはアリューシアの陰から飛び出す形で下から掬い上げるように大剣を振った。大剣の刃先は確実にホーンラビットの顔を捉え、両断する。
「ワアラフルーティゴーヤ、はい!」
後方からマリーの水弾の魔法も発動し、残るホーンラビットはあと一体。
「やあっ!」
アリューシアは突っ込んできたホーンラビットにカウンターを決めるようにシールドバッシュをお見舞いする。そして、地面に落ちたホーンラビットの首を素早く刎ねてみせた。
見ただけでわかる。アリューシアの武術はかなり研ぎ澄まされているみたいだ。確実にオレよりも。数日で身に付けられるものではないだろう。彼女が長い間武術を鍛えてきたことが窺えた。
オレは大剣に着いたホーンラビット血を払うとアリューシアに向き直った。
「シアはすごいな。幼い頃から武術を磨いてきたのか?」
「ああ。父上には苦い顔をされたがな」
そう言って苦笑するアリューシア。だが、その顔はすぐにマリーに向けられる。
「すごいと言えば、私よりもマリーだ」
「え? あたし?」
「ああ。昨日、老婆が言っていた本物の魔法使いの意味がわかった」
「あれってどういうことだったんだ?」
オレが問いかけると、逆にアリューシアが驚いたような表情を浮かべていた。
「ヒイロはマリーの幼馴染なのだろう? 気付いてなかったのか!?」
「いや、まあ……」
オレとしてはヒイロの記憶がないからあまりそんな気はしないんだけどね。
「私にもわかりません。マリーは特別なのですか?」
「え? あたし、特別なの!?」
「そうだ。無詠唱で治癒魔法を行使できる教会の聖女よりももしかしたら特別かもしれない。マリーの魔法は通常使われている魔法じゃない。神代魔法なんだ」
「神代魔法?」
なんだかすごそうな魔法だな。だが、神代魔法っていったい何なんだ?
「私もそこまで詳しいわけではない。だが、今のようにシステマチックな魔法ではなく、神に祈りを捧げることで魔法が発動する……らしい」
なんだかぼんやりとした回答だ。アリューシアも自分で言った通り詳しくはないのだろう。
「神代魔法だと何か問題はあるのか?」
オレとしてはそこが気になる。
「いや、ないとは思う。だが、神代魔法についてはわかっていないことも多い」
「結局は謎か」
「あたしってすごいの? すごくないの?」
「わからん」
「えー!」
まぁ、問題がないならいいか。問題が起こったら腕輪の力の出番かもしれない。
「とりあえず、このホーンラビットをどうするか……」
「え? 知らないの? 首を刎ねて逆さにして吊っておくといいわよ」
「そうなんだ……」
なんか残虐な気がするけど、許してくれ、ホーンラビットたちよ。
その後、ホーンラビットの血の臭いに釣られたのか、ゴブリンたちとよく遭遇した。
アリューシアがパーティに加入してから、先頭が安定した気がする。やっぱり数はパワーだ。
ゴブリンアーチャーに気を付けさえすれば、もうゴブリンは敵ではない。
オレたちは相談した後、森の中層エリアに入ることにした。
「さっそく来たぞ!」
アリューシアの鋭い声が響き、オレたちは戦闘態勢を取る。
「敵は?」
「フォレストウルフだ。数は三以上!」
「了解!」
オレは大剣を構えて辺りを舐めるように見渡す。フォレストウルフは頭の良い魔物だ。数匹でオレたちの気を引き、迂回して攻撃準備をしているフォレストウルフがいるかもしれない。
その時、視界の端で茂みが揺れるのが見えた。そこか!
オレは片手で腰のダガーを抜くと、茂みに向けて投げつける。
「KYAIN!?」
まるで犬の悲鳴のような声が響き渡る。どうやら当たったらしい。
だが、オレの投擲が戦いの火蓋を切ってしまったようだ。オレたちを取り囲むように六匹のフォレストウルフが姿を現す。
「囲まれました!?」
「ワアラフルーティゴーヤ、はい!」
杖を構えたエミリアの悲鳴とマリーの魔法詠唱が聞こえる。後衛陣が危ない!
「シア! いけるか?」
「どうということはない!」
「任せた!」
アリューシアの心強い言葉を聞いて、オレは後衛を守るために前線を離れる。
ちょうどその時、一匹のフォレストウルフがエミリアに向かって飛びかかった。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
オレはエミリアに飛びかかったフォレストウルフを横からタックルするように大剣で突き刺した。
そのまま素早く止まると、大剣を振って刺さったままだったフォレストウルフを払い投げる。
べチャッと湿った音を立てて木にぶつかるフォレストウルフの死体。
仲間の無残な死にざまを見ても戦意は衰えないのか、フォレストウルフたちは一斉に牙を剥いて襲いかかってくる。その数あと三匹。
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