第16話 厨房の女帝タウラ

※この作品はAIの補助を受けて執筆しています。プロット・構成・調整は筆者自身が行っています。




 朝食が済んだあと、ハックは勇気を振り絞って厨房へ向かった。

目的はひとつ――食事の量を増やしてもらえるよう、厨房に直談判すること。

付き添ってくれるのはセリーナ。だがその足取りは明らかに重い。


「……マジで行くの? 本気で?」


「うん。もうちょっと食べないと鍛えても意味がないって。バルゴさんとの約束もあるし……」


「そうじゃなくて、“タウラに会いに行く”って意味で本気? あたし、無傷で戻れる未来が見えないんだけど」


 言葉の端々に滲む怯え。

 大げさだと思っていた、けど――いざ厨房の扉が見えてくると、ぼくの足も自然と遅くなる。


「……ったく。なんで私がこんな火口に突っ込むみたいな真似を……」


「いや、火口ってほどじゃ――」


「ある意味、火より怖いんだって、タウラは」


 それはセリーナのただの愚痴ではなく、ほぼ予言だった。


「タウラー! ちょっといいー? 七男坊さまが自分で話したいことあるってさー」


 厨房の扉を開けながら、セリーナは親戚の家に押しかけるかのようなノリで声を張った。


「……なんだい、忙しいときに!」


 その声が返ってきた瞬間、肌がピリついた。

 空気ごと火傷しそうな熱気とともに、厨房の奥から現れたのは――タウラ。


 分厚い前掛けに、たくましい両腕。布で髪をまとめた顔立ちは精悍で、背中には鍋の湯気と、巨大なフライパンと、修羅場の気配が揺れていた。


 ああ、これは―― たしかに、火より怖い。


「あ、あの、少しだけ、お話を…… この家の七男で、ハクラルド・ルミナレスと申します!」


 タウラは腕を組み、ハックを睨みつけるように見下ろした。


「……で?」


「その、ぼく、最近鍛錬を始めて、もうちょっとご飯を――」


「却下!!」


 ドン! と包丁がまな板に叩きつけられた音が響く。

 その瞬間、厨房の空気がピンと張り詰めた。


「アンタ、今まで散々飯残してきたくせに、どの口が言うのさ!? 増やせ? 冗談も休憩時間にして!」


「で、でも今は頑張ってて……」


 必死に絞り出した声は、湯気にかき消される。


「セリーナ、あんたもだよ! なんで“貴族様”を連れてきてくれるのさ!? 厨房は遊び場じゃないし、慈善事業でもないんだよ! 火の番しながら飯作ってるのが見えないの!?」


「う、うん。だから入り口で帰ろうって言ったんだけど、ほら、七男坊が頑固でさぁ……」


「言い訳はいい! 出てけ、ふたりとも! 今すぐ!!」


「はーい。はいはい、すみませんでしたー」


 セリーナがハックの背中をぐいっと押す。ハックは何か言いかけたが、そのまま扉の外に追い出されてしまった。


 バタン、と音を立てて閉じられる厨房の扉。


「……すごかった」


「でしょ? 火より怖いって言ったじゃーん」


 セリーナが肩をすくめて言った。


 だが、ハックはそれでも――


 それでも、あきらめなかった。


 次の日も、その次の日も。

 ハックは厨房へと向かった。セリーナとバルゴは付き合ってはくれるが、さすがに厨房の扉の前までは入らない。


「じゃ、せいぜい死なない程度に怒鳴られてきな」


「……七男様、頑張ってください」


 二人に見送られ、ハックは扉をノックする。


 そして、怒鳴られて追い返される。


 何度も。


 だが、それでも、ハックは通い続けた。

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