第8話 馬鹿だねぇ、ほんと馬鹿だねぇ

※この作品はAIの補助を受けて執筆しています。プロット・構成・調整は筆者自身が行っています。





 ――夜中の四時。

世界がまだ静寂に包まれているその時間。


 ぺちん、とおでこに何かが当たる感触。


「う、うわ……何……?」


 眠気にぼやけた意識が、一気に現実に引き戻された。

目を開けると、そこには見慣れない――いや、見覚えのある――人影が立っていた。


 紫の長い髪。揺れるローブの裾。

そして、薄暗がりの中でも浮かび上がるような、ふてぶてしい笑み。


「グースカ寝てんじゃないよ、まったく。呼び出しておいてその態度は何だい?」


「……ノエリアさん、いや、お婆様……?」


「他に誰がいるのさ。あーもう馬鹿だねぇ、ほんと馬鹿だねぇ、あんた」


 俺はぼんやりと体を起こす。夜着のまま、汗ばんだ額に手をやりながら。


「なんで来てくれたの……?」


「来たくて来たんじゃないさ。朝だから来たの。年寄りの夜は早いんだよ。

呼ばれたって夜中に動くのはご免だね。あんたに付き合って夜更かしなんて、身体に悪い」


 ノエリアは呆れたように鼻を鳴らし、音も立てずにベッド脇へ近づいてくる。


「でも……ほんとに来てくれたんだ」


「そりゃ、あんた付きのメイドがこっそり伝言をよこしてきたからね。

『倒れたから何とかしてください』って、わりとざっくりしてたけどさ。

あの子、なんだかんだで真面目だねぇ。変わってないよ、良いことだ」


 セリーナのことだろう。少しだけ、気が緩む。


「で、なに? 魔力を暴走させたんだって?」


「……うん。魔力を溜めるイメージでって言われたから、浴槽に溜める感じで……試したら、全部出ていきそうになって、止められなくて……気を失って……」


 生きてるってことは、そこで止まったみたいだけど。でなかったらどうなっていたか。想像すると怖い。


「馬鹿だねぇ、ほんと馬鹿だねぇ、あんたって子は」


「またそれ……」


「慣れなよ。これから先もいっぱい言われるから。

でさ、どうして外に出すのさ。自分の中で循環させるって、言ったよね?」


「……え、そうだったっけ。器が壊れてるって言われたショックが強くて……」


 正直、覚えてない。突然すぎたんだ。

もしかしたら、現代知識とかで何とかなると、どこかで思ってたのかもしれない。


「そりゃそうさ。今まで制御されたことがなかったんだもん。器のほうが追いついてない。

蛇口が壊れてるようなもんだ。そりゃダダ漏れにもなるよ」


 ノエリアはため息交じりに肩をすくめる。


「で、倒れる。当たり前。しかも子供のこの時期に魔力漏れなんて、最悪。

感知されなかっただけマシだったね。まずは“蓋”。止めること。

そして“回す”。外じゃなくて、内に――わかった?」


「……はい」


 視線をそらすと、ノエリアはにやりと笑う。

それがなんとなく悔しくて、つい、口がすべる。


「どうせ俺は、魔法も使えない七男坊さ。

周りには馬鹿にされるし……何やっても失敗ばっかでさ……」


 呟いたそのとき。

ノエリアの笑みが消える。珍しく、真顔になった。


「それは違う。使えないんじゃない。ちゃんと教わってないだけ」


「えっ……どういう、意味ですか?」


「今この館で教えてる魔法の先生なんて、学院出たての小僧だろうさ。

“新しい教科書”に載ってる魔法だよ。

でもね、何でも新しければ良いってもんじゃないんだよ」


「……?」


「人の手が入ればいい、ってことじゃない。そんなことも世の中にはあるんだよ。

あんたにはまだ早い話かもしれないけど――ま、覚えときな」


 そう言って、ノエリアは懐から小袋を取り出し、飴玉を一つ、くるくると指で転がした。


「ま、言ったことをちゃんと出来る“孫”になら――ご褒美くらいはやるさ。

ちゃんと循環ができるようになったら、ひとつだけ教えてやろうかね。

好きな魔法、選びな。火でも水でも風でも。ルミナレスの名を挙げたあの“土魔法”でも良いよ。

でも、一つだけだ。他は自分で覚える。ま、人に頼るってのも手だけどさ」


「ほんとに……?」


「嘘ついても誰も得しないからね。だから決めときな。

“どんな魔法が欲しいのか”――次に会うまでに」


 俺は小さくうなずいた。

けれど、もう一つだけ、聞いておきたかった。


「……ノエリアさま。また、来てくれますか?」


「さぁね。それはあんた次第だよ」


「じゃあ、次また何かあったら……どうやって呼べば?」


 帰りかけていたノエリアが、ぴたりと足を止める。

肩越しに、こちらを見て――笑った。


「お。やっと聞けたじゃないか。ひとつ馬鹿が減ったね。よし」


 ぱちん、と指を鳴らす。

その音と同時に、空気がぴんと張り詰める。


「部屋の北の壁。そこに“印”を刻んでおいた。

右手でそれに触れて、左手で胸を押さえる。

そして紙に――“呼びたい”って思ったことを書きな。どんな言葉でもいい。

書き終えたら火をつけて、煙がまっすぐ上がるのを見届けるだけ」


「煙……?」


「ふふん、あんたはもしかしたら“先祖返り”ってやつかもね」


 そう言って、ノエリアは飴をひょいと放り、俺の胸元に落とした。


「死ぬなよ、馬鹿」


 それだけ言い残して、扉の向こうに消えていった。

音もなく、まるで最初からいなかったかのように。


 俺はぽとんと落ちた飴を握りしめ、残された空間の温もりを、じっと見つめていた。


「……やっぱり、変な人だ……」


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