七男ハック ~悪役令息の弟に生まれ変わった俺の身にもなれ~

キトラ

まだ、誰の物語でもない物語

第1話 弟ポジ、地獄でした

※この作品はAIの補助を受けて執筆しています。プロット・構成・調整は筆者自身が行っています。




 目が覚めた――  はずだ。


 意識はあるのに、視界は自分のものじゃないような感覚。勝手に動く。まるで他人の頭の中に入り込んだような、変な気分だった。

見えているのは、重厚な石造りの屋敷。陽の光が差し込む、吹き抜けの広間。深紅の絨毯が階段と床を静かに包み、空間に上品な静謐さを与えている。

明らかに、庶民の暮らす世界じゃない。


 けど、それよりも妙なのは――俺がどこか高い位置から、それを“見下ろしている”ことだった。


「・・・・・・夢か?」


 視界の中で、子供たちが広間を走っている。鬼ごっこだ。けれど笑い声は少ない。鬼になっている子供の表情は真剣そのものだ。

汗びっしょりの小さな少年。焦げ茶の髪、華奢な体。泣きそうな顔で、必死に足を動かしている。


 対して、逃げる側の子供たちは年上ばかり。笑顔で、時折目配せをしながら鬼を翻弄している。

 輪に入れてもらえない、歳下の子もいた。少し離れたところで腕を組み、子供らしからぬ難しい顔をしていた。

 全員、品のいい制服らしき服を着ている。どうやら、上流階級の子弟らしい。


 そして――視線の高さと同じ場所。広間の反対側、二階の手すりに頬杖をつき、面白そうに笑っている少年がひとり。

艶のある髪に整った顔立ち、どこか不遜なその笑み――見覚えがあった。


「・・・・・・ジェラート? だっけか? そんな名前の奴、なんか・・・・・・いたよな」


 昔ちょっとハマったゲーム『グラディノヴァ』に出てきた貴族のガキだ。


 親の権威を笠に着て威張り散らす、典型的な悪役令息。お邪魔キャラのくせに立ち絵があったから覚えてる。


 ってことは、あの鬼の子も、ゲームの登場人物か・・・・・・?

――いや、見たことないな。少なくとも、プレイ中にそんなキャラは出てこなかったはずだ。


「おい! まだ鬼かよクズ弟よぅ!! 逃げられてないで早く捕まえろよなー!」


 上からジラートが声をかける。それに反応して、鬼の少年たちがピクッと肩を震わせた。

あれは“応援”じゃない。命令だ。声のトーンが全てを物語っていた。


「うん・・・・・・!」


 けなげに頷いた少年は、再び足を動かす。けれど、あっさりフェイントに引っかかり、かわされる。もう何周も走らされているのだろう。息は荒く、足元もふらついていた。


「うわっ……!」


 そして、事件は起きた。

階段を上がる途中、大柄な子供にぶつけられた。わざとだ――そう直感した。バランスを崩した少年の体が、傾く。


「危ない!」


 思わず叫んだ。でも、声だけだ。体は動かない。

少年は手すりにかすり、数段を転がり落ち、最後に――


 ゴンッ!

鈍い音が響く。


・・・・・・頭を打ったのだ。


 その瞬間、俺の視界が裏返った。


「――っ!」


 黒い渦が俺を呑み込んでいく。

胸が苦しい。喉が焼けるように痛い。目の奥がぎゅうっと締めつけられ、意識が深く、深く沈んで――

やがて。


「・・・・・・ってぇ」


 声が出た。けど、それは俺の声じゃない。高くて、幼くて、震えている。

ぼやけた天井。頬に触れる絨毯の感触。滲んだ涙の向こうで、光が痛いほど眩しい。

視線を落とすと、自分の手が見えた。小さい。細い。どう見ても子供の手だった。


「・・・・・・はは、最悪だ。

・・・・・・あのガキになってやがるのかよ・・・・・・」


 まさか、よりによって、あの“鬼”の少年かよ――。

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