第33話:懸念事項
マティルダとマルガレータのリエッキネン侯爵家がそれぞれ王家へ抗議文書と王妃へ謁見申請を、ヴァルトのシエヴィネン公爵家が王家とウーシパイッカ伯爵家、ウーシタロ伯爵家へ抗議文書を送った。
王家は、第一王子の公妾打診の件について、王家の総意では無いとすぐに返事と謝罪文を送ってきた。
そして王妃からは、マルガレータへ茶会の招待状が届いた。
マティルダには別で届いていると、ティニヤは言っている。
「まさか第一王子を助けてやって欲しい、とか言われないわよね」
マルガレータの持つ招待状の日時を確認したティニヤは、難しい顔をする。
『あちらの招待状の方が日付が早かったですわね』
ようは母親同士の話し合いで、どうなるか判らないとの事だろう。
「ティニヤの頃に、このお茶会って……」
『勿論、無かったですわ』
ティニヤが経験した未来では、この頃には王太子妃教育で王宮へ通っていた。
その一環として、王城のサロンで王妃と短い時間過ごす事はあった。
執務の話と、王太子妃教育の話をした記憶しか無いが。
義母というより、上司といった感じだった王妃。
人間らしさを感じた会話は、あの第一王子の教育責任者の話をした時だけだった。
ティニヤが側妃として嫁ぎ、これから関係を築くという時に、王妃は病に倒れあっという間に儚くなったので、交流らしき交流も無かった。
『この頃にはまだお元気なのよね』
ティニヤがポツリと呟く。完全な独り言である。
何かを考えている様子のティニヤを見て、マルガレータはそっと招待状を机にしまう。
思考の邪魔にならないように、明日の授業の予習をする事にして、傍を離れた。
数日後。まだ授業中のマルガレータの所へ、ティニヤが飛んで来た。
『公妾も側妃も絶対に無いと、王妃陛下が約束してくれましたわ!』
王妃とマティルダの茶会を見に行っていたのだろう。
マルガレータに抱きつきながら、報告をしてくる。
実際には抱きついている振りで、触れる事は出来ていない。
それでも嬉しさは伝わってきた。
自然とマルガレータの顔にも笑みが浮かぶ。
王妃は第一王子と違って人格者なので大丈夫だろう、とは思っていた。
しかしティニヤの過去では、国の為にマルガレータを犠牲にする冷酷さも持ち合わせていた。
今回第一王子は王太子では無い。
アールトという、優秀な王太子候補もいる。
それでも不安は
「何か良い事でもあったの?」
授業が終わると、ヴァルトがマルガレータへ近寄って来た。
「はい。懸念事項が無くなりましたので……」
笑顔のままヴァルトへと顔を向けたマルガレータは、ヴァルトを見て動きを止めた。
問い掛けてきたヴァルトの方が、嬉しそうな顔をしていたから。
「ヴァルトこそ、何か良い事が有りました?」
思わずマルガレータが問い返すと、ヴァルトが笑顔で頷く。
「あぁ。心配していた事が無くなったから。デイジーと同じだよ」
ヴァルトの台詞に少し引っかかりを感じたが、心配事が同じなのではなく、心配事が無くなったのが同じ、という意味なのだろうと、マルガレータは納得した。
リエッキネン侯爵邸へ帰ると、ティニヤが言っていたのと同じ報告を、マティルダがマルガレータへ告げた。
そしてティニヤからは無かった報告も。
「王太子はアールト第二王子殿下に決まったわ」
まだ内緒よ、と言ったマティルダの顔は、とても意地の悪い笑みを浮かべていた。
「貴女が婚約者に戻ればまだ可能性があったけど、今はお互い違う婚約が結ばれているし」
そこで言葉を切り、マティルダは深呼吸する。
「ウーシパイッカ伯爵令嬢には、感謝しないといけないわね」
今度はとても良い笑顔だった。
サンナが馬鹿な行動をしなければ、マルガレータと第一王子との婚約は継続されていたかもしれない。
サンナがもう少しだけ賢ければ、マルガレータを正妃にし、自分が側妃になるように仕向けただろう。
もしくはティニヤの過去のように、マルガレータが逃げられなくなるまで待ったかもしれない。
「えぇ、本当に。彼女には感謝しかありませんわ」
マルガレータは笑顔で言った後に、自分の横に浮かぶティニヤを見て頷く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます