家族愛SFファンタジー(2025年いっぱい不定期連載予定)
田島絵里子
第1話 電子レンジのつかいかた
姑は、電子レンジの前で困惑していた。
「昔は、こんなにダイヤルはなかったのに」
ダイヤルと言うが、その電子レンジは業務用のレンジで、タッチパネルになっている。温める設定は自由、冷凍食品も完璧に温められるので、我が家では重宝しているのだ。この電子レンジの使用担当者は料理担当のわたしで、姑はこの業務用レンジを、生まれて初めて使うのである。
わたしは慣れていることもあって、多少、得意であった。姑はふと、思い出したように、
「あなたがお嫁に来たときは、みそ汁の中の大根が、漬物みたいに太かったわね」
とつぶやいていたが、いまやわたしが、姑さんよりアドバンテージがあるのだ。
「コロッケ、暖めてみる?」
わたしが言うと、姑は仰天したように、大きな目を見開いた。
「え、コロッケ?! あれって、揚げるものでしょう。レンジで温めたら、ぐちゃぐちゃになっちゃいますよ」
姑さんの表情は、頬がひきつっており、相手の言ったことが正気の沙汰だとは思えない、という内心の思いが露出していた。思ったことがすぐ顔に出るタイプである。付き合いやすい人だ。
わたしは、冷凍コロッケを冷凍庫から取りだそうとした。
「冷凍庫のなかに、コロッケなんか、入ってるわけないわよ」
ブツクサ言っている姑さん。わたしが、コロッケを冷凍庫から取りだすと、まるでイリュージョンを見た美川憲一みたいな反応を示した。
コロッケをレンジに入れる。
「このスイッチを入れてね、設定された分数で温めるの」
そう言いつつ、わたしはタッチパネルを押そうとした。ところが……
「そのダイヤルを右に回して」
姑が指差す場所には何もない。
「あら、また間違えちゃった。2045年の感覚で話してしまったわ」
姑がぽんと額を叩く。
「お母さん、それいつの話ですか?」
「えーっと...」指折り数える姑。「20年後かしら?」
「計算も間違ってますよ」
私たちは笑い合った。未来から来ようが過去から来ようが、この人はこの人なのだ。
わたしもやっぱり、わたしでしかない。みんなで前向きにやっていこうと思っている。
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