ある日、杜の中、彼女に出会った。

雲州みかん

プロローグ ゴリラが美少女になった日

プロローグ 1

 畜生ぉぉぉぉっ! しくじった!!!


 只今、絶賛全力疾走中の俺……朝沼あさぬま輝彦てるひこが、心の中一杯に叫んでいた心中を簡素に纏めると、まさに『しくじった!』の一言に尽きる! 


「……はぁっ!……はぁっ!」


 全力で足を動かしつつも、なけなしの体力をどうにか脚力に変換し、こうにか速度を保っていた理由は……まぁ、後方15メートル辺りで似た様な事をしてる――。


「いい加減待ちやがれ輝! じゃねーと、殴り倒すぞゴラァァァッ!」


 ――待たなくても殴り倒す気なんだろう凶悪な男……夕陽ゆうひあゆむが、諸悪の根源と言えた。


 ハッキリ言って迷惑である。

 ……ん? なんで迷惑なのか?……って?

 そりゃあれだ。

 痴情のもつれ的なヤツだからだ。




 

 そもそもコイツと鬼ごっこをする羽目になった原因は、ヤツの義妹にある。


 今から何年前だったかなぁ?……確か小六ぐらいだったと思うから、四年ぐらい前の話しか。


 ともかく、小学六年ぐらいの時に歩の父親が再婚。

 済し崩しではあるのだが、ヤツには百合ゆりと言う、驚くまでの美少女が義妹として一つ屋根の下で生活する事になった。


 当時の俺としては、少し……いやかなり?

 いやいや! 凄まじくぜろと思ったね!


 小学生と言っても六年生だ。

 来年にはランドセル卒業の、思春期前線到来しそうな多感なお年頃な俺からすれば、羨ましさで心がリミットブレイクするであろう、衝撃的な出来事だった。


 余りに羨まし過ぎて『くたばれラブコメ主人公野郎がぁぁぁっ!』って叫んで、藁人形と五寸釘片手に、血の涙をチョチョ切らせながら呪ってやろうと思った物だ。


 ……今ではそうでもないのだが。


 むしろ本性を知った今となっては、ヤツに矛先が向いて心底助かったと思っている! いやぁ、マジで俺じゃなくて良かった!


 ……………。


 そこは置いといて、だ?


 俺はこの義妹、夕陽百合にちょっとした頼まれ事をされていた。

 お願いされた内容は、実にシンプルで些末な物。

 彼女が持参して来たクッキーを、歩の部屋で歩に食べさせる……と、言う代物。


 これだけだ。

 ……これだけの話しだ。


 しかし、俺は知っている。

 俺が百合から渡されたクッキーには、確実になんらかのハプニングが発生する、劇薬チックな何かが存在している事に!


 故に最初は断った。

 俺だって歩とは長い付き合いだ。

 物心ついた時から隣同士で、義妹の百合よりも長い付き合いである幼馴染を、早々簡単に裏切る様な事は出来ない! 


 当然、裏切ると張り倒されて病院への片道切符になりかねないと言う危険性を加味した上での善意ではなく、飽くまでも人として幼馴染を裏切れないと言う純然たる善意から来ている。


 それ以上でもそれ以下でもない。多分。


 果たして、俺は日本語的な意味でクールな態度で百合の要求にノーを突き付け、英語的な意味でクールにその場を立ち去ろうとしていた。


 ………が、しかし!


 その時、百合は俺の心を大きく揺さぶって来た!

 こうなる事を予見し、百合は俺へと強烈な一言を用意していたのだ!

 果たして、その強烈な一言とは!

 

「お願いを聞いてくれたら、友達紹介します!」


 この時、俺史実が動いた!

 もう、ズガガガァ~ンッッッ! っと俺の脊髄が!――本能が! 彼女の手にしている袋詰めのクッキー(劇薬)を入手すべく、両腕を動かしてしまった!


 なんて事だ!

 コイツは……このクッキーは悪魔の菓子である事など、天地神明の頃から知っていたと言うのに!


 あの(無駄に純真無垢な)笑みの中に垣間見える、どす黒い闇色の感情が何であるかなど、今更分からない俺ではないと言うのにぃぃっ!


 許せ……親友よ。

 俺だって……俺だって。


 彼女が欲しいんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

 (……と、心の中で何度もリフレイン)

 

 この様な経緯の末、俺はヤツの自宅へと遊びに行き、そのまま百合の言われた通りにクッキー(悪魔のお菓子)を歩に渡した。


 その後、特に差しさわりなく歩の部屋でゲームしながら雑談をしていたのだが……歩が袋の中にあるクッキーを口にした結果、突然顔が真っ青になり部屋を出て行ったのが今から約30分程度前。


 そして、俺のスマホに百合からの着信で――。


『上手く行かなかったので、友達を誘う件は保留にします』


 ――とか言う、俺の史実に生まれる予定だった新しい一頁が生まれない悲報を受けて悲嘆したのが、約15分前の話し。


 そこから真っ赤な顔して角々しい形相のまま俺を追い掛けて来た歩によって、強制鬼ごっこが始まったのが、今から約三分前だ。


 どうしてこうなったのかは分かるのだが、どうしてこうなってしまうのかは分からない。


 親友よ……分かってくれ!

 お前が百合とくっ付かないせいで、百合に理不尽なお願いとかされて迷惑なんだ!


 だから……だから親友!

 もう、諦めて百合と良い感じにくっ付いてくれ!

 あと、彼女欲しいです……はい。 



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 既に本編の一部は完結してますが、更新は続ける予定なので、良かったら☆や♡を入れてくれるとやる気が出ます。よろしくお願いします!


 この物語を一頁でも読んでくれた貴方様へ。

 細やかでも幸せになりますよ~に!

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