1350文字 枕

 縞模様の枕があった。

 それは誰かからもらったものだった。誕生日プレゼントに。

 縞模様の部屋着を着た。

 上は横縞、下は縦縞。たまたまそれしか組み合わせがなかったのだ。

 そうして俺は布団に入った。


 枕に頭をつける。

 近頃肩こりがひどい。枕が合っていないことが要因の一つになるそうだが、忙しさにかまけて吟味をできずにいる。思い出すのはいつも布団に入ってからだ。

 とはいえ体感ではそれほど枕に問題があるとは思えない。寝る姿勢はとても楽だ。

 それならば問題はなかろうと瞼を閉じにかかった。


 しかし瞼が閉じない。

 そういう妖怪がついているのである。

 昼間、瞬きなどするのは自由なのだが、いざ夜になり眠ろうとすると瞼が開いたまま動かなくなる。

 たまに、闇の中に俺の上瞼と下瞼を指で押さえて閉じられないようにしている何者かが見える。

 よくもまあ、こんなにびくともせず押さえていられるものだ。これはもはや職人技、あっぱれだよ。

 そんな技を見せつけられるうち、俺はいつのまにか、目を開けたまま寝る術を覚えていた。


 部屋は真っ暗にしてあるが、それでも目が慣れてくると嫌でもいろいろなものが目に入ってくる。

 カーテンはちゃんと閉まっている。

 机の上には捨て忘れたティッシュ。まあ明日の朝捨てればよかろう。

 床に脱ぎ散らかした靴下。ゆゆしき事態だ。

 あれ、スマホ充電したかな。


 頭の上の方に置いたはずのケータイを探ろうとしたが、体が動かなかった。

 そういう妖怪がついているのである。

 布団に入ってしばらくすると、体が動かなくなる。いわゆる金縛りというやつなのだろうが、眠ってもいないのに金縛りになるというのは少しおかしい気もする。

 まあ、気にするだけ損である。

 もしかすると、これが肩こりに手を貸している可能性もあるが。


 困ったなあ、スマホの充電忘れると、明日困るんだけど。

 と、目に映るは二つの影。やつらだ。

 一つは瞼を押さえるやつ。一つは全力で体を抱きすくめてくるやつ。どちらも人間ではなさそうな形をしている。

 急に触覚に訴えてきて、くすぐったくてたまらない。やるなら気づかれないようにやってほしい。


 何やら小さな話し声が聞こえる。

 どうやらこの二つの影が、お互いが邪魔だ邪魔だと小言を言い合っているらしい。

 うーん、うるさい。

 あと、重いっつーの。

 もめるなら離れてもめろよ。巻き込まれて迷惑だ。


 と、影たちがそろってこちらを向いた。

 何?

 邪魔するなって?

 邪魔してるのはどっちだよ。

 取りつかれるのも楽じゃないんだ。勘弁してくれ。

 俺のために争うな。誰かほかの人のところでやってくれ。


 え?

 あざとい女みたいなこと言ってる?

 悪かったな。俺は男だ。かわいこちゃんがよかったら出ていけ。


 二つの影は再び顔を見合わせた。何やら話し合っている。

 かと思えばまたこちらを向いた。

 どうやらかわいい女の子のところに引っ越すことに決めたらしい。

 そうとなったらさっさと行きやがれ。ほれほれ。


 体がふっと軽くなり、俺は瞬きをして乾いた眼球を癒す。

 寝返りを打って反対側を向き、目を閉じた。

 ああ、目を閉じて眠れることの幸せよ。


 翌朝、肩こりは治っていなかった。やはり枕を見直した方がいいのかもしれない。

 俺は即日枕ショップに出向き、ベストフィットな枕を購入した。妖怪よけオプションもつけたので、これからはきっと安眠できることだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る