第21話 ゴールドラッシュ作戦 ③



 王都ロフから少し離れた場所、森と言って差し支えない所に屋敷が一件。


 かなりの規模の屋敷だ、庭も広いし建物自体頑丈そうに出来ている。


 その建物の周りには、数人の武装した人が数名。交代しながら見回っている。


 「ここだな。」


 「間違いないね、ゴッタの屋敷さ。」


 「随分金が掛かった屋敷ですね、見回りの私兵の数も多い。」


 俺達はその屋敷と少し離れた場所に隠れている、遠くから様子見だな。


 「流石にゴッタの屋敷だけはあるな、伊達に宰相なんてやってない。」


 「そりゃ、ゴッタ自身有力貴族だからね。金を持ってるんだろうね。」


 「それなのに、王都から国庫の金を着服して、ここへ運び込んだ訳ですか。」


 まさにクズだな。


 ゴッタは警戒感を密にしている様だ、きっと誰も信用してないんだろうな。


 「で、ジョー。これからどう動く?」


 「予定通り、先ずは屋敷に侵入ですね。その後は金庫かなにかを解錠して、中身の資金を拝借して、脱出。って感じで、出たとこ勝負ですがね。」


 「へへ、面白そうじゃねえか。荒事で押し切るか?」


 「いえ、私兵の数が多いですから、俺達もゴッタの私兵になればいいんですよ。」


 「なるほど、新入りとして屋敷に潜り込む訳だね。ちゃんと考えているじゃないのさ。ジョー。」


 「時間との勝負です、手早く事を起こし、手早く行動し、手早く脱出。これに尽きます。」


 「了解だ、じゃあ堂々と正面玄関から行こうか。」


 俺達は森から出て、屋敷の門から入っていった。


 門番が居たが、俺達がゴッタから雇われた傭兵だと言ったら、すんなりと通れた。


 「まったく、やる気が無いねえ、ゴッタの私兵は。」


 「いいじゃねえか、その方が仕事がやり易い。」


 「先ずは第一関門突破ですね、このまま何事も無ければ良いのですが。」


 俺達はそのまま屋敷内の道を進み、玄関前まで来た。


 ここにもやはり私兵が二人、椅子に座ってこちらを窺っている。


 「やあ、こんちは。」


 「あたい等、ゴッタ様に言われてここへ来たんだけど、中に入っても良いかい?」


 私兵の二人はお互いの顔を見合わせ、苦笑しながら言った。


 「なんだ、あんた等も宰相様に雇われた口かい?」


 「俺達同様、金で雇われたってところか? なら俺たちゃ仲間だ。通って良いぞ。」


 うーむ、ここでも特に問題は無かった。


 何だか拍子抜けだな、ここまでやる気が無い私兵も居ないだろうに。


 ゴッタの奴は人を見る目が無いようだ、なんで宰相なんて職に就けたんだか。


 俺達はすんなりと通されたので、玄関から屋敷内へと侵入した。


 「豪華な玄関だな。」


 「幾ら位の金を掛けてんのかねえ。」


 「調度品も見た事無い高価そうな代物ばかりですね。」


 ゴッタの奴、まさか国庫から金を横領して使い切ってるんじゃないだろうな。


 おいおい、頼むぜ。俺達の分も残しておいて欲しいぜ。


 「さて、ここまでは順調。ここからだね。」


 「ああ、ここから先は警戒が厳重だろう。」


 「金庫の周辺は流石に厳しく見回っているでしょうし。」


 俺達は屋敷の中を歩き出し、通路の奥、階段がある所まで来た。


 「お前等、ここから先は金庫室だ。誰も立ち入りはできんぞ。」


 ふーむ、流石に金庫がある部屋へは警戒してるか。


 金庫室を守る私兵の態度も、真面目な感じが伝わってくる。優秀なようで。


 「あれ? おかしいな~、交代しろって言われてきたんだが。」


 「あんた等こそ、飯休憩とかしなくても良いのかい?」


 「そうそう、腹が減っては何とやらだよ、あたいが作ったサンドイッチでもどうだい?」


 「お? そうか、じゃあ頂くよ。」


 ナイス、ベル。


 いつの間にそんなアイテムを用意していたのか、サンドイッチはおそらくなんらかの怪しい物が混入していそうだ。


 そして、ものの数分で事態は変わる。


 「ぐ~ぐ~ぐ~。」


 「上手く行ったよ、まさかこんな手に引っ掛かる奴が居るなんて。」


 「ゴッタの私兵って事だろう?」


 「みなさん、やる気が無さそうでなによりですね。」


 お陰でこちらの目的がやり易い、後は金庫室へ入り、軍資金を頂戴する事だ。


 「気を付けろよ、どんな細工がしてあるか解らないからな。」


 「大丈夫さね、あたいの罠感知と罠解除のスキルが火を噴くよ。」


 「頼りにしてるよ、ベル。」


 「あいよ。」


 階段を降り、大きな扉がある部屋の前まで来た。


 ここがおそらく金庫室だろう、大扉は頑丈そうに出来ている。


 何より、鍵だけじゃなく他の仕掛けがありそうだ。


 「予想通り、解錠だけじゃ無理そうだね、まあ、あたいに掛かれば造作もないよ。」


 「どれくらい時間が掛かりそうだい?」


 「そうさねえ、少なくともさっきの私兵が目を覚ます前までにはケリがつくよ。」


 「それを聞いて安心した、早速頼む、ベル。」


 「了解、あんた等は後ろからやって来る私兵に警戒しといてくれよ。」


 「ああ、解った。」


 「こっちは任せろ。だが、早いとこ頼むぜ。ベル。」


 ベルは早速、盗賊ツールを広げて道具を使いだし、大扉の解錠へ取り掛かった。


 その間は、俺とバーツさんで後ろからやって来るかもしれない私兵の足止めだ。


 しばらく経って、ガチャリと音がしたと思ったら、ギ~~と音が聞こえ、大扉が開いた。


 「上手くいったよ。」


 「流石ベル、大したもんだ。」


 「よし、後は金庫室に入って金貨を拝借だ。急げよ。」


 足音を殺し、俺達は金庫室へと入った。


 そこには、物凄い量の金貨や銀貨、良く解らない品で溢れていた。


 「やったな!」


 「う~ん、壮観な眺めだねえ~。」


 「感慨に耽ってないで、急いで金貨を袋に詰めよう。」


 「ああ、そうだな。幾らくらい持ち出そうか?」


 「それは決まっています、金貨6000枚です。それ以上は駄目ですよ。」


 「6000枚? 何か意味があるのかい? ジョー。」


 「まあ、保険みたいなモノです。さあ、手早くやりましょう。」


 こうして、俺達は金庫から金貨を6000枚拝借する事に成功した。


 「よし! 6000枚詰めたぞ。後はとんずらだ!」


 「「 了解! 」」


 金庫室から出たところで、俺達はある人物と鉢合わせした。


 「お、お前等は!?」


 「しまった!? あんたあの時の!?」


 なんてこった! よりによってこいつと鉢合わせるとは!


 確か、ノーツとかっていう、ゴッタの私兵かロファールの騎士か。


 そんな名前だったような?


 以前、ネリー姫様とベルを追いかけていた、ゴッタの軍の騎士だ。


 丸々と肥え太った男だったから、よく覚えている。


 「者共~! 出会え出会え~!!」


 「ち、面倒だな。」


 「あたいに任せな!」


 そう言ってベルは、丸い球のようなアイテムを取り出し、床に叩きつけた。


 その途端、パンッと弾ける音と共に白い煙が一気に噴き出し、辺りを包んんだ。


 「げほ、げほ、き、貴様等~~!」


 「今だ! とんずらだよ!!」


 「急げ~~!!!」


 「慌ただしいなあ! もう!」


 煙に巻かれながらも、俺達はゴッタの屋敷から脱出に成功。


 そのまま街道を西へ向かい、バタバタと走りながらマーロンの町を目指した。


 「よし! やったぞ! 上手くいった!」


 「お手柄だよ、ベル。」


 「えへへ、備えあれば憂いなしってね。」


 「流石盗賊、アイテム戦術では右に出る者は居ないってこったな。」


 「機転を利かせたって言って欲しいね、バーツ。」


 「何はともあれ、ゴールドラッシュ作戦は成功です。後は町まで逃げるだけですよ。」


 「おう! ここまで来てモンスターとエンカウントなんてシャレにもならん。」


 「それにしても、一人金貨2000枚を運ぶのって結構重いねえ。」


 「踏ん張れ、マーロンの町までの辛抱だ。」


 後ろを振り返ったが、誰も追ってくる気配が無かった。


 煙玉での逃走劇と、俺達の足の速さ、ノーツの太った身体だからこその追跡の遅さ。


 これらが合わさって、俺達に上手く作用したみたいだな。やったね。


 途中、モンスターと遭遇するも、俺達の敵じゃなかったので返り討ちにした。


 後は特に気になる事も無く、予定通り事が上手く運び、マーロンの町へ到着した。


 「よしよし、上手くいった。まさかここまで事が運ぶとは思わなかった。」


 俺達はマーロンの町に着いて凱旋し、マーロン伯の屋敷へ行き、ゴールドラッシュ作戦が上手く行った事を報告したのだった。

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