【完結】寝取られ動画でガッツポーズした俺、壊れかけた清楚な本命を純愛で救うと決めた――演技のデートのつもりだったのに、いつの間にかラブコメ始まってたんだが?
第38話 “愚かな女の話”が、俺の決意を固めた
第38話 “愚かな女の話”が、俺の決意を固めた
夜の公園に、人の気配はほとんどなかった。
秋の終わりを思わせるような、ほんのり湿った風が通り抜ける。
ブランコがきしむ音が、妙に耳につく。
「……覚えてる?」
先に来ていた美咲が、ベンチの端に腰かけたまま言った。
「ああ。お前と初めてデートした場所だよな」
隣に座り、少し笑って応えると、美咲もふっと目を細めた。
「懐かしいね。……もう一年以上前か」
あれから、いろんなことがあった。
そして、こうしてまた並んで座っていることが、妙に不思議だった。
少しの沈黙のあと、美咲が口を開いた。
「ねぇ……本題の前に、どうでもいい話、聞いてくれない?」
俺は無言で頷く。
「――ある愚かな女の話だよ」
まるで、昔話を語るような声だった。
「その女は、幼なじみの男の子のことが、子どもの頃からずっと好きでした」
視線は前を向いたまま。俺の顔は見ない。
「その男の子の全部が好きだった。
……不器用で優しくて、ちょっとバカで」
小さく笑うその横顔は、どこか懐かしさを帯びていた。
「それで、高一のとき、女は勇気を出して告白しました。
“俺でよければ、喜んで”って、男の子は照れながら言ったの。
……すごく、嬉しかったな」
美咲の指先が、かすかに震えていた。
「でも、幸せだったのは、そこまで。
――女はね、好きすぎるあまり、どんどんおかしくなっていった」
言葉が、淡々と続く。
「束縛して、GPSで監視して、他の女と話してるだけでブチ切れて」
俺は黙って聞くしかなかった。
「女はこう思ってた。
“私は本気で愛してるんだから、ここまでしても当然”。
“応えてくれないあいつが悪い”って。
本気でそう信じてた」
そして、ほんの少し間を置いて――
「でも、男の子の顔が、どんどん疲れていった。
女は怖かった。嫌われるのが、見捨てられるのが。
だから必死で縛って、離れていかないようにして……そのたびに彼の顔から笑顔が消えていった。
そんな馬鹿な負の連鎖を止めなかった」
美咲は自虐気味に続ける。
「女は思ったの。もう私のこともう好きじゃないんだなって。
そう思った時に、優しい言葉をかけた別の男に、気づいたら寄りかかってた……。
そして――浮気して乗り換えた」
その瞬間、俺の胸の奥がきゅっと痛んだ。
「結果、どうなったと思う?」
美咲が、俺の方をちらりと見た。
「暴言、罵倒の毎日。金の要求もされた。
警察に行っても、結局は“言った言わない”で、動かない。
証拠がなきゃ助けてもらえないんだって、あの時思い知った」
「……っ」
「女は考えた。
あいつを終わらせる決定的な証拠を掴むんだって。
途中まで必死になって、証拠を掴む為の手段も完成させた。
でもね……」
美咲の声は震えていたけれど、言葉は止まらなかった。
「だけど、その資格はないって分かった。
……だって、あいつと同じ事を女はしてきたから。
ただの因果応報。……自業自得。
だから、女は仕方ないって思った……」
その目はまっすぐ俺を見ていたけど、指先は微かに震えていた。
「それで、そんな事を考えてる時に川を見つけてさ。
その時に、なんかもう、どうでもいいやと思って、本気で泣き寝入りを考えて……」
そこで言葉は途切れた。
まっすぐ俺を見つめる美咲の瞳の奥には、悔いしかなかった。
「でも、そうしたら、私がやった努力も、受けた苦しみも、全部無駄になるのかと思って涙出ちゃってさ……。
そんな時……女が橋の上で泣いてた時に、偶然、女が最低な方法で別れた男の子と会った」
あの日の橋での再会、あれが彼女にとって転機だったのか。
「あんな酷い仕打ちをしてきたというのに、男の子は当たり前のように女に手を差し伸べてくれた。
女は信じられなかった。こんな私にも、まだ優しくしてくれる人がいるんだって……しかも、その相手があの男の子だなんて……」
その時の驚きと戸惑いが、今も彼女の声に残っていた。
「そして、男の子があいつと揉めてると知った時、女は考え直した。
女には復讐できる立場にはないけど、男の子の為になら、せめてもの罪償いの為にあいつを終わらせる証拠を手に入れるべきじゃないかって」
あの時の美咲は、そんな事を考えていたのか。
俺は言葉もなく、ただ耳を傾ける。
「だから、動いた。
……あいつの事は怖くて心が折れそうになったけど、男の子は私と復縁してでも好きな女の子の為に何とかしたいと覚悟を見せた。
それに勇気と決意をもらって、今更だけど罪滅ぼしの為に動いた」
美咲の声は震えていたが、確かな意志がそこには宿っていた。
「そして――ようやく、形のある証拠を手に入れた。
これを彼に渡しただけで、女の罪がなくなる訳じゃない……。
けれど、せめて女は――私は、そのぐらいの事はして償いたかったから……。彼の為に少しでも報いたかったら」
その目はまっすぐ俺を見ていたが、指先はかすかに震えている。
「……おしまい。
愚かな女の、しょうもない話」
最後の言葉を聞いた瞬間、胸の奥に熱いものがこみ上げた。
俺は、ただ黙ってその重さを受け止めるしかなかった。
――だけど、気づいたら口が動いていた。
「……辛かったんだな、美咲」
ただ、それだけを言った。
それが、俺の精一杯の言葉だった。
美咲は、目を細めたまま笑った。
「……ここで同情するんだね。ほんと、直哉らしいや」
その笑みに、かすかな後悔と――懐かしさが混じっていた。
「……ねぇ、私さ。ずっと考えてたんだよ」
不意に、美咲が呟くように言った。
「もし、私が昔、直哉のことをちゃんとした形で愛せて、向き合えてたら……今も、隣にいられたのかなって」
言葉に詰まった俺を見て、美咲はゆっくりと立ち上がった。
「――でも、それはもう、取り返しのつかないことだから」
そう言って背を向ける美咲の肩が、かすかに震えていたのを、俺は見逃さなかった。
ブランコのきしむ音が、夜に溶けていく。
この風の冷たさを、詩乃にまで感じさせたくない。
だから、終わらせる。
神崎の支配も、詩乃の涙も。
「……ここからが本題。
今から、神崎のことで話したいことがあるの」
そう言ってから美咲が振り返る。
「今からあいつの――致命的な弱点になるものを渡す」
美咲はまっすぐな目で俺を見た。
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