【完結】寝取られ動画でガッツポーズした俺、壊れかけた清楚な本命を純愛で救うと決めた――演技のデートのつもりだったのに、いつの間にかラブコメ始まってたんだが?
第33話 あいつ、先生相手に詐欺師ムーブかよ!――危険な元カノの通話、それでも逃せない
第33話 あいつ、先生相手に詐欺師ムーブかよ!――危険な元カノの通話、それでも逃せない
神崎と雪村先生が向かい合って座っている。
雪村先生の顔は、優しさの奥に苦渋が滲んでいた。
まるで“信じたい”と“疑わざるを得ない”の間で引き裂かれているように。
『またその話ですか。さすがにしつこいですよ、先生』
――神崎の声。
その響きは、あくまで柔らかで、でもほんのり呆れ混じりのトーン。
はい、優等生神崎マニュアルの12ページ。
『教師に疑われた時は、しれっと笑顔でかわしましょう』を実践中だな。
『根も葉もない噂ばかりです。
彼氏持ちの女の子を奪っただとか。詩乃と何度もトラブルになってるだとか。
ネット社会って怖いですよね……。
火のないところでも煙は立つ時代になったんですから……』
それ、お前がガソリン撒いて回ってるのに、
“最近、火事多くてヤバくないすか?“って言ってるのと同じだからな?
――しかし、雪村先生は簡単には引かなかった。
『そう……かもしれない。
私も悪質な噂だと信じたい」
雪村先生が一度言葉を切り、少し苦しげに息を吐いた。
『一度、警察から学校に、“月森さんが神崎くんから強い精神的な負担を受けているかもしれない”という相談があったのは覚えてるよね?
この件は、学校としては誤解だったと判断している』
一瞬、言い淀むように視線を伏せ、そして続ける。
『……けれど、私が見てる限り、
月森は、君と一緒にいる時、どこか怯えてるようにも見えるんだ。
……このままじゃ、月森は……』
雪村先生は、そこで言葉を止めた。
続きは、言葉にしなくても伝わってきた気がした。
『私は、君を信じたい。
だから、真実を話してほしいんだよ。
月森との事だけで構わない。
ちゃんと話してほしいんだ……お願いだよ』
雪村先生は、手をぎゅっと握りしめながら神崎を見据える。
神崎はわずかに眉を上げ、苦笑を浮かべた。
『だから言ってるじゃないですか、なにもしてないって。
他の先生方にも聞いてみてくださいよ。みんな俺のこと、優等生って評価してくれてますよ?
警察からの話も勘違いだったって、みんな信じてくれましたし。うちの立派な両親も、事情を話したらすぐに納得してくれましたよ』
――はい、きた。“俺って信頼されてますから”ムーブ。
お前その台詞、絶対100回練習しただろ。
あと、さりげなく、“立派な両親“とか言ったの、親の権力ちらつかせたかったからだろ。
やること、こすすぎるわ。
『……あくまで、月森との事を聞きたいんだ。
それ以外のことは話さなくて構わないよ』
雪村先生は優しい口調を崩さない。
だがその声には、神崎に揺さぶられまいとする強さがあった。
――信じるために、どうしても確かめたいという意思が。
神崎は一拍置いて、再び話を切り出した。
『詩乃との関係を話せっていうのなら、彼女って、少し人見知りなんですよ。
だから、どうしても俺の後ろに隠れちゃうところがあるんです』
神崎は自然に、詩乃との関係をそう語った。
『それに、詩乃ってちょっと神経質というか……過敏なところがあって……。
先生みたいな正義感がある人と話すと、つい、自分が責められてるように感じちゃう様です……。
もちろん、先生にそんなつもりがないのは分かってます。でも、彼女にはそれが……きついみたいです……』
――ああ、なるほどね。
雪村先生にも非がある、ってことにしたいのね。
優しい正義漢が無自覚に女の子を追い詰めてて、だから詩乃が怯えてるように見えるんですよってか?
これなら今後、雪村先生が疲弊した詩乃を気遣っても、『怯えているのは私のせいなんじゃ……』と思わせられる訳だ。
……やべぇな。全方向に角立てずに責任だけなすりつける、完璧な着地じゃん。
お前、詐欺師になれるぞ。マジで。
『それなのに、先生だけですよ。こんなふうに、詰問してくるの……』
その声色が、ぐっとトーンダウンした。
『……俺、この修学旅行、ずっと楽しみにしてたんですよ……。
人生で、一度きりの思い出になるはずだったのに……なんか、悲しいです』
出たよ、大事にしてた修学旅行を汚された僕かわいそうムーブ!
朝ドラの8時15分かよ。
全国の主婦が泣いてる時間帯の顔芸してんじゃねえ。
『……雪村先生って、俺が何を話しても、信じてくれないんですね……。
それが、一番……悲しいです……ただ、信じてほしいだけなのに……』
神崎は、信頼している教師に信じてもらえない事を、嘆くように呟いた。
………。
……ああ、もう、ちゃかした突っ込みで、腹立たしさをごまかすのも限界だわ。
あの声も、表情も、完璧すぎる。
けど俺には分かる。あれはただの演技だ。
この芝居に、詩乃はずっと縛られていた。
誰にも本当のことを言えず、泣くことすらできなかった。
……それを思うと、胸の奥が煮えくり返る。
あの演技力で、詩乃は傷つけられてるんだ……!
『……ごめんなさい。もう行っていいよ』
雪村先生の声は、明らかに力がなくなっていた。
神崎が礼を言って立ち上がると、先生はゆっくりと小さくうなずいただけだった。
――やっぱり、神崎をこれだけ疑っている雪村先生でも駄目なのか……。
そう、残念に思った時だった。
『――君のことは信じたい。
だからこそ、二人のことはこれからも見ているよ」
先生は神崎の背にそう声をかけた。
……“見ている”。
その言葉には明らかに含みがあった。
先生は、まだ神崎のことを完全には信じてない。
そうだ、疑ってるんだ――
雪村先生の顔は、信じたい。でも信じきれない。
そんなふうに、心のどこかでまだ引っかかっているような表情だった。
それにあの目は、信じたい“だけ”じゃない。
本当に、“知ろう”としてる人間の顔つきだ。
神崎の言葉をすべて真に受けたなら、あんな表情はしない。
少なくとも、雪村先生は完全に騙されてはいない。
……そう思ったら、少しだけ救われた気がした。
詩乃を守ろうとしてくれる人が、俺と柚葉以外にもいる、それも大人の。
その事実が、どれだけ支えになるか――胸の奥に沁みていた。
神崎は雪村先生へ『分かりました』とだけ言い残すと、こちらへ来たので、
俺は慌てて廊下を引き返し、見つからないよう去ることにした。
――旅館の外へと出た。神崎には気づかれなかったようだ。
……あのやり取りは、聞けてよかったな。
少なくとも、雪村先生だけは何かおかしいって気づいてる。
他の教師がみんな、神崎くんは立派な生徒とか言ってる中で、たった一人、疑いを持って、本人に向き合ってる。
……修学旅行が終わったら、ちゃんと話してみよう。
神崎のこと、
詩乃のこと、
俺が見てきた全部。
雪村先生なら、きっと俺たちの力になってくれるはず。
そう信じられたから。
◇ ◇ ◇
胸の奥が軽くなった、瞬間――ポケットが震えた。
スマホの画面には見慣れた名前――
俺の元恋人で、神崎に奪われた少女。
≪神崎のことで話があるの。
通話してもいい…?≫
短い文章なのに、心臓が一瞬でざわついた。
彼女と再びLINEを出来るようにしたのは俺だというのに。
やはり、まだ彼女へのトラウマは消えていない。……多分、一生。
『あいつ、言ってたぜ。
“直哉とよりを戻したい……”、ってな』
……ッ!
二日前に神崎に言われた言葉がよみがえる。
あれは神崎の嘘だと片付けはずなのに、こうして、美咲と相対すると嫌でも思い出す。
それに、美咲は神崎とまだ繋がっている可能性もある。俺を探るための罠かもしれない。
けれど、もしこれが、神崎を崩すための糸口なら。
ほんの僅かな欠片でも、俺には必要だった。
「……今は、逃せない」
迷う暇はなかった。
俺はすぐに返信を打った。
≪今すぐかけてくれ≫
送信ボタンを押す指が、わずかに震えているのを感じた。
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