第28話 妹ちゃん、“好きって言ったらどうする?”とか急に爆弾落とすな!


 喫茶店のテーブルを挟んで、俺と柚葉は向かい合っていた。


「ふーん、サイゼでご飯。水族館で手つなぎ……で、帰りは送ってあげちゃったと?」


 アイスティーのストローをくるくる回しながら、柚葉がじとっとした目で言う。


「なんでそんな詳細に知ってんの?」


「お姉ちゃんが語る語る。

 あと、今日ずっとニヤけ顔の直哉見た時点で察しだし」


「俺そんな分かりやすい顔してた?

 ネタバレ禁止って言われても、顔面で全部公開してるヤツじゃん俺……」


「それにお姉ちゃん、デートの日から、明らかに直哉のこと語る際の顔、変わったからね。

 あぁ、ようやく気付いたんだな、って」


「気づいたって、何に対してだ?」


「さぁねー。直哉にもいずれ分かるよ」


 柚葉はけらけらと笑って、ミルクを一滴だけ垂らすと“見た目よりコクが出るんだよね、これ“とか言ってた。


 ――タイムリミットまで15日。

 半月が経った。


 柚葉とは会って以来、尾行をしない日は放課後や休みの日に月森宅で会うのが日課となっている。


 来る時は変装して何駅も乗り継いで、さらにそこから数十分歩いて、見られない様に来ている。


 神崎について分かった事で情報共有したり、その情報や詩乃の発言から神崎をどうにか出来ないか話し合ったり。


 バレない尾行の仕方について教えてもらった事もあるし、時には他愛もない雑談をして疲れを癒したりと、

 柚葉とも心なしか仲良くなれた気がする。


 だが、相変わらずからかわれてばかりだ。

 俺の反応を楽しんでる節がある。


「“気分転換に外でやろ“って言って喫茶店に来たけど、理由それだけなのか?」


 注意深く変装して、30分近くかけてここまできた。

 だから聞いてみた。


「さすがに毎回お姉ちゃんの隣の部屋で作戦会議してたら、こっちを気遣っちゃうしさ。

 一応、気遣いっていうか……」


 その表情は心配そうだった。


「明日から修学旅行かぁ。

 しばらくお姉ちゃんにも、ついでに直哉にも会えなくなるね」


「俺、ついでかよ。

 まあ、班行動だし、俺と詩乃は別班で――」


「神崎とペアなんだよね?」


 言葉をさえぎるように、柚葉が言った。


「ああ、そうなるな」


「最悪……」


 即答だった。


 神崎と詩乃。

 二人は同じ班になっていて、修学旅行中はペア行動らしい。


 うちの学校は特殊で別クラスでも同じ班になれるせいだ。

 通常四人で一班だが、二人で一班になる事も可能だ。


 職員会議でこれ通した教師。

 絶対、青春ラブストーリー脳だろ。



 ――てか、改めて考えると、

 体育祭の2週間後、文化祭。

 文化祭の2週間後、修学旅行。


 うちの学校のスケジュール、どうなってんだ!?


 これって青春?

 それともただのブラック校則?



「お姉ちゃん、今から修学旅行休ませてあげられないかな」


「それも考えたけど、神崎の性格的に、休ませたら逆に家まで付きまといそうなんだよな」


 あいつならそこまでやりかねないからな。


「頼むよ直哉ー。お姉ちゃんが風邪でもひいたら体調管理不足ということで直哉ぶっとばすからね」


「俺のせい!? いや待て、俺、交際する条件に健康管理の契約も結ばされんの!? どこのブラック恋愛だよ!」


「だってさ。

 お姉ちゃん、本気で笑えるようになったの、最近なんだから」


 柚葉は最初、冗談めかして言ってたが、今は真剣なまなざしで、俺をじっと見てくる。


 ……わかってる。わかってるよ。

 あんなやつと、三泊四日もべったりとか、冗談じゃねえ。


「柚葉。俺がどうにかするよ。

 少しでも隙を作って詩乃と会ってさ、窮屈な思いはさせない、って」


 本当にできるのかなんて、正直わからない。

 それでも、詩乃をあんなヤツのそばに放っとくなんて、もうできなかった。


「へえ?」


 柚葉はアイスティーをひとくち飲んで、口元を拭くと、にやりと笑った。


「じゃあ期待してるね。

 お姉ちゃんのこと、世界で一番見守ってる女としては」


 アイスティーをひとくち飲んで、柚葉がふと口を開く。


「で? 本番デートの感想は?」


「魚、美味しそうでした」


「水族館の話じゃなくて、隣にいた女の子の方だよバカ」


「……まあ、その……可愛かった、かな」


「ほほう?」


 にやついた顔で身を乗り出してくる。


「いい顔してんね~。

 お姉ちゃんといい感じになってる時の顔ってラベルでも貼っとく?」


「いや何その羞恥プレイ。売ってたら俺、自分で買って自分で捨てるわ」


「捨てないでよ。

 けっこう、いい顔してたんだから」


 その言い方が妙に真面目だったから、思わず返す言葉に詰まる。


「でもさ、お姉ちゃんってわりと独占欲強いよ?」


 柚葉はすぐにいつもの調子に戻って、話題を変えた。


「え? あの詩乃が?」


「そう。本人は自覚ないけど、根っこはめちゃくちゃ不器用でさ。

 “好き”って言えないぶん、“私だけ見てて”っていうのが態度に出る」


「……あー、なんか分かる気がするかも」


「でしょ。だから、あんたも変にお姉ちゃん以外に優しくしすぎない方がいいかもよ?

 お姉ちゃんに誤解されたら嫌でしょ」


「心配すんな。そんな近づいてくる物好きはいねぇよ」


「ふーん、じゃあ――」


 柚葉はストローから口を離し、少しだけ首をかしげて言った。


「今、ここで私が好きって言ったらどうすんの?」


「……は?」


 思わず変な声が出た。


「冗談だよ。顔こわっ!」


「お前な……紛らわしいこと言うな」


 心臓のどっかが、一瞬だけビクッとなった気がする。


「でも、ちょっとだけドキドキしたでしょ?

 好感度ゲージが詩乃90%、柚葉10%くらいになってたでしょ」


「なってねーよ! びっくりはしたけど!

 俺は常時、詩乃100%だわ!」


 マジで心臓、変な跳ね方したかと思った。

 一瞬、本気かと思った俺が情けねぇ。


「んふふ♪ 知ってる」


 笑いながらも、柚葉は真面目な声に変わる。


「……直哉。

 ほんと、修学旅行の間、任せたからね。お姉ちゃんのこと。

 ――今の直哉なら、ちょっとだけ安心できる気がしてきたし……。

 ……お姉ちゃんの笑顔、ちゃんと守ってきてね」


「ああ。分かったよ、柚葉」


 俺がそう言うと、柚葉はほんの少しだけ、目を反らした。


 その仕草が少しだけ安心したように見えて、

 いつものからかいより、ずっと、優しくて、まぶしく見えた。



 ――ただ、あんまり期待されすぎるとプレッシャーで胃薬が何箱あっても足りなくなるんだけどな。

 まあ、詩乃の笑顔のためなら、薬局の棚ごと大人買いしてやるけど。

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