第3話 英雄の序文

心の臓の鼓動は速くなれども、栄養は尽きていく。次第に鼓動は弱くなり始める。然れど心は生きている。

どれだけもがこうが、心の臓を取り除かなければ腐り続ける。脳はもはやその動きを制御できない。

心の臓が取り除かれるが先か?はたまた…


決戦まで後、5日


「…諸君らにこの国の存亡はかかっている!前皇帝から続く戦争も、これで最後だ!蛮族を駆逐せよ!皆、これが、これこそが最後だ!」

「「帝国に栄光あれ!皇帝陛下に栄光あれ!」」


…あいつに任せて正解だったな。 適材適所、という所だろうか。

地位やら、立場やらの隔たりが無くなってる。良い兆候だ。

しかし後三日でか…骨が折れるぞ…これは…

まぁ…兵士達のあの叫びが本物だと信じよう…


「持ち方はこうだ!良いな?それで突いてみろ!」

「敵が迫ればこうする!敵の動きを止めれば、我ら騎士がそいつらの首を取る!……」

案山子に向かって訓練をする元平民達の士気は高い。「自身が英雄となる」たったそれだけで、自らの命を捨てる覚悟さえ出来てしまう。良くも悪くも、単純であった。


〜日没直前〜

「…今日はこれで終わりだ!ゆっくり休め!しかし、後二日という事を肝に銘じて置くように!」

「「はい!教官!」」

兵士達は散り散りになり、それぞれが自身のやりたい事を見つけて、自由に過ごし始める。


「凄い迫力だな。テオドール。」

「あれでも落ちた方ではある。昔はもっと動き回れたが…」

「まだその顔じゃ、全然伸びそうな気がするがな。」

「嬉しい事言ってくれるじゃないか。」

……………………………..

「あれを見ろよ、美しい。

少女が片方の手にはタンポポを、もう一方には母の手を握ってる。

あんな風景を永遠と続かせるのが、俺たちの役目とは思わないか?」

「そうだな…コルタナ…あんたのいう通りだ。

俺達は何も無心で人殺しをやってる訳ではない…人々を守る為にやってるんだ。」

「そう思えば、いつだって休む時は無いと感じれる…俺達本来の理念だ。

だが今じゃ…もうそれを持つ人は少なくなった。持ってるのは君含めて数人しか見た事がない…」

「それが本当であれば良いけどな…」

「まぁ…俺は信じる。そうやって生きてきた。」

「もうかなり暗くなってきた…俺はそろそろ寝ようと思う。」

「あぁ、今日はありがとうな。おやすみ。」


「それが本当であれば良いけどな」か…確かに…今まで疑った事が無かったな。俺だって信念だけで動いてる訳じゃないが…分からないな…もう。

俺も寝るか…残り二日だ。しっかり休んで、決戦に備えねば。

瞼を強く閉じ、布団に包まり、夜を過ごす事にした。


この二日間は特に変わった事無く過ぎ去っていった。強いて言うなれば兵士達が、寄せ集めよりかは遥かに練度が高くなり、決戦に恐らく耐えうる兵士になった事ぐらいである。ただ、皆が口にしないだけで、誰もが『その時』が近づいていることを感じていた。そして今、カータルの騎士、兵士全員が、帝都に向けて出発しようとしていた。


「諸君、これは終わりではありません。始まりなのです。

偉大な英雄達の旅路の、始まりに過ぎないのです。

後世に語り継がれる英雄達の、序文に過ぎないのです!

団結した、民の守護者たる鉄士団に万歳!」

「「万歳!」」

「さぁ!進め!」


…上手くいったと信じたいな。この時点で士気が下がってたら、この先どうなるか分からんぞ。

物資は大丈夫だな。帝都に酒を送ったぐらいだ。さて、暫くは景色でも眺めるとするか…


「どうしたハインリヒ、まさか怖いのか?」

「いいいえそんな事はありませんイザベル様」

「やっぱり怖いんじゃないか。ははっ。可愛い奴だなぁ。

大丈夫。お前はやれるさ。少なくとも前回で生き残ってるんだし。

この方に付いて行けば大丈夫に決まってるさ。」

「ししかし今回は規模が…」

「規模が違うくらいでなんだと言うんだよ。やる事は同じなんだから。

まぁ肩の力抜いとけ。どうせまず帝都でお上の連中の長ったらしいありがてぇー話が聞けるんだから。」


…ふっ お上の長ったらしい話か…確かにその通りだな。


ー「残酷軍団」、エルドレン・ブラウンの視点

「…おい、なんで軍の奴らがこんな所に行列作ってんだ?」

「俺だって知りてぇよ。だけど、近い内またでけえ戦いがあるって事じゃねぇの。だとしたら略奪が出来るから良いんだが。」


軍か…あんな重そうなものを身につけて、一体どうやって動いているんだろう。

皆凄い自信があるなぁ…だけど、どこで戦うんだろう?ここしばらく遠出してないからなぁ…遠くだったら色々見れるのに…


「ブラウン〜。こっちに来てくれ。兎の皮剥ぎを頼む。」


あぁ…もっと見たいのに…しょうがないか…


「やっぱお前は凄えなぁブラウン。ガキなのにこんなに技術があるなんて。」

「俺達大人と違って機敏だしなぁ。全く羨ましいぜ。」


ー北方辺境、アンドレ・クリムトの視点


「カーラ、何か情報はあったか?」

「どうやら今回の決戦、農民始め平民階級も募兵対象となっている模様です。それも帝国中の。」

「そうか…やけに畑が今までより静かだと思ってたんだ。」


こんな大規模なのは初めてでは無いか?壊滅すれば文字通りの大損害だ。それをやるというのは…

恐らく、本気も本気だ。諸刃の剣を構えてまで挑もうというのなら、相当な覚悟がある筈。少なくとも「エルドラ」という場所に、それだけの価値があるという事だろう。

「…価値…?」

資源、人質、地形、布陣、拠点…

思いつく限りの言葉を並べたが、どれも納得がいかない。

…あぁ。本陣か。

ピースがぴったりと当てはまった。これ以外あり得ない。

この地形は外への攻めも容易く、外からの守りも比較的容易い。だから帝国内を襲撃するにあたって本陣を置くのには最適と言って過言では無いだろう。

「上手く…行くだろうか。」

脳裏に一抹の不安がよぎりながらも、私は状況を見守る事しか出来なかった。

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