最高ダンジョン管理責任者、ギーク・アイザットの悠々

ignone

第1話 

「おはようございます。今日は前々から予告していた通り、ゴタ・ダンジョンで魔物の大移動が起こる日です。ゴタ支部には百名以上を派遣しているところですが、何が起こるかは分かりません。くれぐれも注意を怠らないように」


「ギーク様、本当に大移動が起こるのですか? ダンジョンが揺れている、とありましたが私含めほとんどはそれを認識していないのですが……」


「えーっとあなたは、確か新人のベルトさんでしたね。資料を読んでいる点と実際に現地を視察している点、質問をしている点は素晴らしいと思いますが、少々、認識が甘いです」



 今始まっているのはダンジョンに関するレッスンではない。

 れっきとした、ギークによる新人教育だ。


 大陸にはごまんとダンジョンが存在するが、その全てを監視し、冒険者の動きを管理し、ありとあらゆる危険に備えるのがここ、組合連合政府ダンジョン管理局である。


 大陸の南側に位置している。

 話に上がっているゴタ・ダンジョンは西側にあり、軽く数百キロは離れている。



「前提として、魔物の移動は頻繁に起こります。魔物が階をまたがって移動する場合、冒険者に甚大な被害が想定されるため、管理局は警告を出します」


「移動を感知できるよう各ダンジョン、各階層には感知魔法が扉に組み込まれているのですよね。その魔法が今回は反応して……」


「よく勉強していますね。しかし、やはり認識が甘いです。組み込まれている感知魔法は魔物の移動が起こったときに、それに気づけるだけです。予測することはできません」



 新人のベルトは「そうなのか……」と声を漏らしながらメモを取っている。


 他の新人たちも手を動かしており、ベテランの職員はいつもの光景だとあたたかな視線を送っている。



「最も、今回のゴタ・ダンジョンの大移動に気づけたのは魔法のおかげではありません。大予言者アーリン様のおかげです。本来であれば入念な調査をするべきですが、いつ起こるのかがあやふやですので避難が最善だと考えました。他には?」



 手が上がる様子はない。

 それよりも、新人たちのメモを取る手がさらに加速した。



「特にないようなので、続けます。ダンジョン内での軽犯罪増加に伴って、今週は啓発週間となっています。それぞれ、啓発活動をよろしくお願いします。最後に注意点ですが、四階のドアが故障しており、地獄と繋がっているようです。くれぐれも逝ってしまわないように。それでは、今日も安心安全に業務に取り組みましょう」


『はい!』



 朝礼が終わるとそれぞれの持ち場へと戻っていく。

 ギークも自分の机へと戻り、山のようになった未済の書類を片していく。


 机の前に広がる水晶は大陸全てのダンジョンを映し出しており、絶えず動いている。

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