44.賑やかなプロポーズ
トマさんは数年前に婚約者を亡くしていた。
原因は持病の悪化で、最期を看取れなかったことが、今でも深い心残りとなっているという。
彼らも幼なじみ同士だったそうで、私たちの関係を知ってからは、どこか自分たちと重なる部分もあったのか、陰ながら応援してくれていたそうだ。
「ごめん、ふたりで過ごしてもいいかな」
勿論、と私たちは即答した。
それでもトマさんは、こちらにもう1泊する旨を伝えるための都への早馬を手配し、翌日の迎えを約束し、もういちど私たちをネスの町まで馬車で送り届けてくれた。
本当に仕事のできる人だと尊敬する。
✽
町は歓喜に包まれていた。
私の両親だけでなく、時を同じくして流行り病に倒れた者をはじめ、町の人々にとって其々の大事だった人たちの魂が戻ってきたからだ。
「さっきお別れしたばかりだけど、またニオの家に行ってもいいよね?」
私が聞くと、ニオも大きく頷いた。
「ただいま、戻ってきちゃった!」
家の扉を開けるとニオの両親が不思議そうな顔でやってきた。
まだ町の様子は知らないようで、食事中だったらしいニオパパが「忘れ物か?」などと、口の中のものを飲み込みながら尋ねてくる。
すると玄関の外から『お邪魔します』と私の両親が顔を覗かせた。
ニオの両親は一瞬固まったあと、
「ニック!!?」「リズ!!!」
と両親の愛称を叫んだ。
滂沱の涙を流しながら駆け寄るふたりと、私の両親は再会を喜び、ひしと抱き合った。
✽
『ギルとノーラには本当に感謝しかないわ』
『ティナを引き取ってくれるだなんて思いもよらなかったよ。私たちがいなくなれば、この子は孤児になってしまうと心配していたんだ』
「こちらこそ、勝手に引き取ることを決めてしまって申し訳ないと思っていたんだ。ティナのような可愛い娘を置いて逝くなんて、どれだけ辛かったことか」
「リズがこの子たちに家事を教えてくれていたから、むしろティナがいて助かっていたのよ。ニオがね、ティナと暮らせるように私たちを説得してくれたの」
『「ニオのおかげね」』
母たちの声がぴったりと揃って驚く。本当に仲が良かったのだな、と嬉しく思った。
「それにしても、ニオとティナの関係には全然気づいてなかったから、昨日は本当にびっくりしたわ」
「そうそう。ティナを本当の娘として迎えることが出来るかもしれないだなんて。既に嬉しくてたまらないよ」
ニオの両親がそう話すのを聞いて、私の両親は顔を見合わせる。
『結構分かりやすかったのよ? ニオもティナもずっとお互いしか見てなかったもの』
『そうそう。ニオには感謝しているんだよ。ただ時々父親の立場として、嫉妬心が芽生えてしまうこともあるぐらいには、ティナと心を通わせていると思うよ』
『そうよね、特に宮殿に召されてからはハラハラしたわ』
「ニック、リズ。本当にずっと見守ってくれていたのね……」
感動しているニオママの横で、
私は大変動揺していた。
ニオの顔も引き攣っていた。
「はい! つかぬことを伺いますが!」
突然、サラが姿勢良く、ピンッと手を挙げる。
『サラ様……改めてこのようなご配慮、そして奇跡の数々を私たちのために……。どれだけ感謝してもし足りません』
『娘のことを好いて戴いて本当にありがとうございます。ところでどうされました?』
「はいッ!」
サラの瞳はこれ以上ない程に光り輝いていた。
「見守っていらっしゃるとのことですが、何をどこまでご覧になられているのでしょうか!?」
全員がビクッと肩を揺らした。
場の空気が、完全に「それ聞いちゃう?」だった。
『あー、そうですね……。基本的にはいつでも、見ようと思えば見られますね。サラ様がティナやニオとされている、お遊び……いえ、潤いのためのお務めですわね、等も失礼ながら存じております。ただ、湯浴みやお手洗いなどの私的な空間や、何かしらの配慮が必要なのだろうなと感じられる場面は、神様がお隠しになるのか、靄がかかったように見られなくなります』
『ですが、その。最近急に靄がかかることが増えておりまして……。そうなると父親としては変に心配になるといいますか……。この際だから聞くけどニオくん、君、』
父の矛先が自分に向いたことに気がついたニオが、ギクリと身を強張らせる。
『私たちも心配してたから見てたんだけどね。救護室「すみませんでした! でもあの時はまだ、──……ッ!!」
「「「『『あのときはまだ』』」」」
サラと両親たちの声が揃う。
「きゃあーーー!『あの時はまだ』いただきました! 皆に報告しなくっちゃー!」
サラが興奮してクルクル回る。でも私たちはそれどころではない。
「ニオ」
ニオパパが、ずいっとニオに迫る。
「よくやった! 今日から嫁だ!! ティナはうちの子だ!! 祝杯をあげるぞ!!」
「今すぐ責任を取りなさい、ニオ」
『ニオ、うちの娘をよろしくね』
『これからもずっと、ずっ…………と、見守っているぞ』
全員にせっつかれ、私の父に圧をかけられたニオは、顔を赤くして私の前に立った。
「突然こんなことになってごめん。でもずっと君といたいと思ってるのは本当だから……。
ティナ、僕と結婚してください」
「は、はい! よろしくお願いします」
全員の拍手に包まれ、急遽簡易な婚約式をした。
サラは始終興奮していたし、両親たちはずっと笑顔だった。
ニオはもっとロマンティックにプロポーズしたかったらしいけれど、両親とサラにも立ち会ってもらえたから、結果的にはとても素敵な婚約記念日になったと思う。
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