割符④
「この時計、両方とも裏に何か文字が彫ってあるぞ」エコンは嬉しそうに声を上げた。
目を細めて、文字を読もうとする。
「英語だというのはわかるんだが……ダメだ、文字が摩耗して読めねぇ」エコンは腕時計を両手に持ったまま天を仰いだ。
「エコンさん!」マライカが手を挙げる。
「あたしに見せてください」
ズベリが無言でマライカにルーペを渡した。マライカは頭を下げて、それを受け取った。
マライカはエコンから渡された腕時計を、ルーペを使い観察する。はた目にもマライカが集中しているのが伝わってくる。
しばらくして、マライカは大きく息を吐いた。
「ダメです。文字が摩耗して、少ししか読めません」
落ち込むマライカを、アヤナとセクーが励ました。
「読めた文字もあるんだよな?」エコンがたずねる。
「はい。“Love”という単語はどちらにもありました。それと、どちらの文章もほとんど同じことが書かれていると思います」マライカが答えた。
「“Love”? “愛”ってことじゃない!」アヤナのテンションが上がる。
「これはひょっとすると、王族や貴族の婚礼に関係する品やもしれんな」ズベリが思案顔をする。
「貴族令嬢のロマンス? 素敵だわ」アヤナとマライカが手を取りはしゃぐ。
「でもよ、リーダー。この時計がどんな役割をしたっていうんだ?」エコンが率直に疑問を口にした。
「古い古文書によると、貴族の男女はお互いの顔も知らずに結婚する場合もあったらしい」ズベリが真面目な顔で答えた。
「えっ! 顔も知らない相手と結婚したんですか?……あたしだったら嫌だな」マライカはしょんぼりする。
「そういう立場の者もおったということじゃ」ズベリがマライカに優しく声をかける。
「つまり、リーダーはそのような場合にこの時計が役立ったとお考えで?」セクーがズベリにたずねた。
「うむ。顔も知らぬ男女がお互いを確認するには、何らかの目印が必要であったろう。それが、このような時計であったのではないか、そう考えておる」ズベリが応えた。
「つまり、あれだな」エコンが納得している。
「そういうことになるね」セクーも同意する。
「?……何よ?」アヤナが美しい眉をひそめて、二人にたずねた。
「この時計は……」エコンがチラリとセクーを見た。
「割符だ」二人同時に答えた。
「割……符……」アヤナが力なく繰り返す。
「そうだね。見た目こそ腕時計だけど、その役割を考えれば、これは明らかに割符だ」セクーはアヤナの様子に気づいていない。
「こんなに……素敵なのに……?」アヤナから表情が消えている。
「だから、見てくれじゃなくて、その機能を……お前、大丈夫か?」エコンがアヤナの異変に気づいた。
アヤナはフラフラとマライカのほうへ歩いて行く。座っているマライカの後ろに立つと、いきなり抱きついた。
「! ア、アヤナさん?」
マライカは顔を真っ赤にする。
「ごめんね。しばらくこうさせてて。人肌が急に恋しくなって」アヤナはマライカの耳元で囁く。
「あ、あたしで良ければ喜んで!」
マライカは、アヤナの豊かな胸の膨らみを背中に感じていた。自分のよりずっと大きいのに、自分のより弾力がすごい。ロストテクノロジー以上の謎が今自分の背中にある。その事実にマライカは興奮していた。
アヤナがマライカから離れる。マライカは喪失感に包まれる。
「ありがとう、マライカ」アヤナが優しく微笑む。
「いえ。あたしで良ければ、いつでもどこでも」マライカは本音を伝える。
男性陣は、この一連の流れを黙って見ていた。
アヤナは窓へ行くと、しばらく遠くを見ていた。先ほどより長い。
アヤナが振り向いた。
「さ! リーダー、次の議題に移りましょう」輝く笑顔とともにズベリを促す。
ズベリは休憩をはさんだほうが良いかとも思ったが、やはりアヤナのプライドを尊重した。
「ふむ。では、本日最後の議題じゃ」そう言って、先ほどの時計よりは小さい箱を皆の前に出した。
「これは少々気をつけねばならん点があるので、わしが開けよう」
ズベリが箱を開けると、同じ大きさ、同じデザインの楕円形の装飾品があった。皆の視線が集まる。
ズベリは慎重に装飾品を開いた。両方とも同じように開く。
装飾品の中には、かつては何かが入っていたようだが、長い年月で劣化して今は失われている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます