さっさと成仏しなさいっ!

Lainez

プロローグ

「オバケも何も出ないみたいだし、眠くなってきたわ。そろそろ帰りましょうか」


 ガラスの割れた窓から見える闇夜をボンヤリと眺めながら、水上奈々子(みかみ ななこ)は退屈そうな声色で友人達に呟きました。


    *


 大学を卒業して、社会人となって、ルーチン気味の日々を重ねて。

 子供の頃から『刹那的享楽主義(※自称)』な性格だった奈々子は、大学時代のあまり柄の良くない友人達との付き合いを、大人になった今でも惰性的に続けていました。


 最初に「廃墟探索に行ってみよう」と言い出したのは、自分以外の誰だったか。

 酒の勢いと場の雰囲気、そして幸か不幸か、この日はお酒を飲まないドライバー担当……つまり奈々子がいたため、車で二時間ほど走った郊外にある、現在は廃墟となった旅館へ探索に行くことが決定しました。

 噂によるとその廃旅館には女性のオバケが、何と二人も出るらしい。ならば撮影してSNSに投稿して有名になろう! ……などと不謹慎な内容で盛り上がっていたのです。


 超安価で購入した過走行気味のミニバンに全員を乗せて出発。途中で立ち寄ったコンビニエンスストアで細型のLEDライト(と追加のお酒)を購入して、反射板を大量に貼り付けているガードレールが続く、細く曲がりくねった山道を慎重に走り、かつて旅館だった廃墟に到着。

 玄関前に車を停めて、意気揚々と踏み込んでみると……中はなかなか良い雰囲気で荒れ果てており、ある種の芸術品のように鑑賞することもできます。


 しかし……しばらく滞在していてもオバケの類は一切見当たらず、ホラー展開なども特に発生しないので、奈々子も含めて全員が飽きてしまいました。廃旅館の内部は腐敗臭が強く、足下の状態も良くないため、あまり長居したい場所でもありません。


 冒頭の「帰ろうか」という奈々子の発言は一切咎められることなく、来た道を車で戻って、二次会で飲み直すという友人達を繁華街で降ろして解散。

 彼女達との付き合いは、それが最後になっています。


    *


 郊外の駅からかなり離れた土地に建つ、そこそこ広い2DKのマンションが奈々子の借家です。

 五回目のトライで駐車場の枠内にミニバンを駐車して、玄関の鍵を開けて自分の部屋へ戻る奈々子。時計を見ると午後の十一時を過ぎていました。お酒を飲む気にはなれなかったので、奈々子は熱めのシャワーを浴びて、たっぷり時間を掛けて髪をとかした後、そのまま布団へ潜り込みます。


 ……それから、果たしてどれくらい時間が経ったのでしょうか。


 深夜には場違いな、不快な騒音で奈々子は眠りから覚めました。

 外で何か事件でもあったのか、と最初は思ったのですが……よくよく耳を澄ましてみると、騒音の発生源はどうやら自分の部屋の中にある模様です。


 パリパリ、と空中に鳴り響く、原因不明の音。

 フスマを開けて、何者かが部屋に入ってくる感じの音。


 これは一体何事だ、と奈々子は音の発生源を確認しようとするのですが……身体を動かすことはもちろんのこと、目を開けることすらできません!


「ああ……これってやっぱり、『アレ』なのかしら?」


 自分の思考を言葉にして発してみると……奈々子の考えは正しいですよ、といった感じで、パリパリと肯定的な音(多分)が鳴り響きました。口を動かせない状態で無理矢理に発した言葉に対する回答でしたので、まあ、そういうことなのでしょう。


 どうやら奈々子は、廃旅館からオバケを『お持ち帰り』してしまった模様です。


 オバケにとって、一体自分の何が気に入ったのかは奈々子には分かりませんが、とりあえず騒音は何とかして欲しいな……と思った奈々子は、特に考えもせずに、


「金縛りとか音とか、そういうのは別に結構よ。良かったら、姿を見せてくれないかしら?」


 と、部屋にお邪魔しているであろうオバケに話し掛けてしまいました。


 その直後。金縛りは解け、やっと身体を動かせるようになった奈々子。

 取り急ぎ両目を開いて、布団から上半身を起こすと、彼女の目の前には――――半透明な女性のオバケが二人、正座をしながらこちらを見つめていたのです!


 異常事態な緊急事態に対して、奈々子が驚く……反応をする前に、オバケ二人は「ひゃっ」といった感じで驚き、飛び上がって抱き合いながらビクビクと震えています。


「あの、驚きたいのは、私の方なのだけれど……?」


 呆れた奈々子が二人に手招きの仕草をすると、二人はもう一度布団の上に座り直して、奈々子に対してニコニコと笑顔を浮かべました。


 二人とも素朴さと愛嬌を感じさせる表情をしており、髪型も胸まで伸びているロングヘアーとお揃いであるため、一見は双子の姉妹のように見えてしまいます。そしてオバケらしく身体が半透明になっていますが、ドラマやアニメのような恐怖を感じさせるエフェクトは付随されていませんでした。


 オバケの服装は、一人が白色の丸襟シャツ、もう一人は赤色のオシャレなセーターを着用。そして二人とも下半身はスカートやズボン等は何も身に付けておらず、白色で飾りの少ないショーツが丸見えになっています。


 笑顔の二人は「ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくお願いします」といった感じで、奈々子に深々と頭を下げたのでした。


    *


 こうして唐突に始まってしまった、奈々子とオバケ二人とのルームシェア。

 れっきとした怪奇現象ではあるものの、一度認識してしまえば不思議と恐怖感はありません。二人のオバケも昼間は一切姿を現さないのと、部屋の外には出ようとしないこと、そして金縛りや騒音は出さないように気を遣ってくれているため、特に迷惑でもありませんでした。

 残念ながら彼女達との会話が一切できないことと、パンツ丸見えの姿で奈々子の周りをまとわり付くのが気になる程度でしょうか。


 しかし……最初は退屈しのぎで新鮮ではあったものの、この状況は体調的にはあまり良くない模様で、週をまたぐごとに奈々子の身体は疲労感を増していき、そして一ヶ月後にはホンノリと生命の危機を感じ始めていたのでした。

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