第26話渓流釣り

 小学生の時のとある夏休み、父と川の上流に釣りをしにいった。

 その川は、本流からちょっと離れた支流の上流。

 支流と言っても、水量がすごく多くて、どどどど、と多量の水が流れていた。


 とても大きな岩の上に父と座って、ずっと釣っていた。

 ああ、セミの声がとても響いていた。

 けっこう上流だったので、人などは来ない。

 ただただ静かに父と釣り糸を垂れる。

 

 しばらくすると、私の仕掛けの目印がぐぐっと沈んだ。

 渓流釣りだと、ウキではなくて、「目印」と呼ばれる蛍光色のプラスチック片を糸につけておく。そうすると、ぐぐっとそれが沈んで魚が食いついたということを教えてくれる。


ぐぐぐ。けっこうすごい引き。

渓流釣りの時は、糸がすごく細いものを使うので、糸がキレないように細心の注意を払う。

かかった魚が岩の影に逃げないように竿で魚を誘導しつつ、父が持つ網に入れた。

 けっこう大きなヤマメだった。

 20センチくらいあった。

 父と私は大喜び。

 それをビニール袋に入れて、死なないように水の中に入れた。

 ヤマメとは、マスの一種で体に鮮やかな縞模様がある、とてもキレイな魚だ。

 これ、食べるとすごく淡白な味で私はけっこう好きだった。


 それから父と私は同じように大きな岩でずっと釣りを続けたが、結局釣れたのはその一匹のみ。

 だが、父と他愛もない話をしながら、のんびり岩の上に座って釣り糸を垂れるのは楽しかった。

 蝉しぐれの中、ゆったりと時おり真っ青な空を眺めつつ、河原のちょっと涼しい風に当たる。

 

 ああ、ゆったりとした時間が流れる、穏やかな夏のとある日のことであった。

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