私が集めた怖い話

無月弟(無月蒼)

第1話 お別れのあいさつ

 みんなは不思議な体験や怖い体験って、したことある?


 わたしはあるよ。

 あれは5歳のころだったかな?

 ある夏の日、わたしは自分の家で友達のユウカちゃんと遊んでたの。


 近所に住んでいて、いつもいっしょに遊んでいたユウカちゃん。

 ユウカちゃんは少し前までカゼをひいてて、最近は会えていなかったせど、今日は久しぶりに遊べてうれしい。


 二人で部屋で絵本を読んだり、アニメのキャラクターの人形で遊んだりしてた。


 でも遊んでいたら、ユウカちゃんが急にスッと立ち上がったの。


「ユウカちゃん、どうしたの?」


 トイレにでも行きたいのかなって思ったんだけど、ユウカちゃんはじっとわたしのことを見つめて、ポツリと言ったの。


「……もう行かなくちゃ」

「え、どこに?」


 わたしは聞いたけど、ユウカちゃんはそれには答えずに寂しそうな顔をした。


「ありがとうユキちゃん。楽しかったよ……バイバイ」


 ユウカちゃんはわたしの名前を読んで手を振ると、そのままスーッと壁に吸い込まれるように消えていったの。


 ……そう、消えたんだよ。

 まるで最初からそこにいなかったみたいに、煙みたいに。

 もちろんわたしは目の前で起きたことが信じられずに、消えたユウカちゃんを探した。


「ユウカちゃん? ユウカちゃんどこー?」


 ついさっきまで遊んでいたのに、急に消えてしまったユウカちゃん。

 もしかしたら消えたように見えただけで、部屋の外に出ていったのかも?

 わたしは部屋を出て、ユウカちゃんを探した。


「ユウカちゃ~ん、ユウカちゃ~ん!」


 ユウカちゃんを呼びながら家の中を探していると、声が聞こえたのかママがやってきた。


「ママ……ねえ、ユウカちゃん見なかった? 遊んでたら、急にどこかに行っちゃったの」


 するとママは悲しそうな顔をして、わたしをギュッと抱きしめた。


「……ユキ、よく聞いて。さっきユウカちゃんのママから電話があって、ユウカちゃんが亡くなったって」

「えっ?」

「ユウカちゃん、少し前に体調を崩して病院にいたんだけど……さっき息を引き取ったの」

「そんな、ウソだよね? だってさっきまで、お部屋でいっしょに遊んでたんだもん」


 だけどママは首を横にふる。

 わたしは慌てて部屋に戻ってみると、いっしょに読んでた絵本や、ユウカちゃんが持って遊んでたアニメキャラの人形がそのまま置かれていた。

 さっきまで、このお人形を持って笑っていたのに。

 人形を手にしてじっと見つめていると、自然と涙がこぼれてきた。


「ユウカちゃん、きっと最期にお別れを言いにきたのね」


 暖かい手で、わたしの手をにぎってくれるママ。

 あれから数年が経ったけど、あの時のユウカちゃんがなんだったのかはわからない。


 幽霊になって、お別れを言いに来てくれたのかな?

 けど遊んでたときのユウカちゃんは明るくて、幽霊って感じじゃなかった。


 今思い出しても不思議な体験。

 そしてそれから数年後、わたしは他にも不思議な体験をすることになる。




 小学生になったわたしは新しい友達がたくさんできたんだけど、中でもキララちゃんとは特に仲良し。

 いっしょに遊んで、毎日いっしょに登下校していたの。


 毎朝通学路の四つ角のところで待ち合わせして、二人で学校に行くのが日課。

 その日もわたしはキララちゃんと待ち合わせして、学校に行っていた。


「キララちゃん、昨日のテレビ見た?」

「うん、面白かったよね~」


 いつも通り他愛のない会話をしながら、歩いていくわたしたち。

 途中、大きな道路の前まできたとき、私たちは赤信号で足を止めた。


 あーあ。ここの信号、一度赤になったらなかなか変わらないんだよね。

 そう思っていると、キララちゃんが。


「青になったよ、行こう!」


 え、もう信号変わったの? 赤になったばかりなのに。

 早すぎる気がしたけど、まあいいか。

 先にキララちゃんが歩き出して、わたしもついていく。


「ユキちゃ~ん、早く早く~」

「キララちゃん待ってよ~」


 手をふるキララちゃんを追って、道路に出たけど……。

 そのとたん、急に誰かが後ろから、ガシッと肩をつかんできた!


「っ!?」


 ビックリして振り向くと、怖い顔をした男の人がわたしの肩をつかんでる。


 な、なにこの人? ひょっとして誘拐犯!?

 恐怖で頭の中が真っ白になっていると、男の人は強い口調で言ってくる。


「コラッ! 赤信号で飛び出したら危ないじゃないか!」


 あ、赤信号?

 そんなはずないよ。ちゃんと青になったのを見て、渡ろうとしたんだから……。


 だけど信号に目をやると、なぜか赤のまま。

 あ、あれ? 確かにさっき、青になってたはずなのに。

 しかも何台もの車がビュンビュン走っていて、もしもあのまま渡っていたら、はねられていたかも?


 急に背筋がゾクゾクして、恐怖が込み上げてくる。

 って、あれ? そういえばキララちゃんは?


 先に渡ったはずのキララちゃんの姿を探したけど、その姿はどこにもない。

 もしかして、車にはねられたんじゃ? ううん、それだったら騒ぎになってるはずだよね。


「キララちゃ~ん、どこ~?」


 わたしはキララちゃんを探したけど、見つからず。

 もしかして、先に学校に行っちゃったのかな?


 だけど学校について、教室に行ってみたけど、やっぱりキララちゃんの姿はなかった。

 仕方なく自分の席で待っていたけど、いつまで経ってもキララちゃんは現れず。

 そうしているうちにチャイムが鳴って先生が入って来たんだけど……先生は、信じられないことを言ったの。


「悲しいお知らせがあります。昨日キララちゃんが、交通事故で亡くなりました……」


 ……え、うそ?


 突然の訃報に、教室の中がざわざわ。

 先生の話では昨日の夕方、お使いに行ったキララちゃんが道路を渡ろうとしたさい、居眠り運転の車が突っ込んできたのだという。

 でもそれじゃあ、さっきまでいっしょに登校していたキララちゃんは?


 この時わたしが思い出したのは、小学校に入る前に仲の良かったユウカちゃんのこと。

 ユウカちゃんは最後にわたしにお別れを言いに来てくれたけど、もしかしたらキララちゃんもそうだったのかも?

 だけど……。


 ──コラッ! 赤信号で飛び出したら危ないじゃないか!


 赤信号で渡ろうとしていたわたしを、止めてくれた男性。

 もしもあの人がいなかったら、わたしも車にはねられていたかもしれない。

 先に道路を渡っていた、キララちゃんを追って……。


 ねえキララちゃん。キララちゃんは本当に、お別れを言いに来てくれたの?

 それとも一人で逝くのはさみしいから、わたしもいっしょに連れていくつもりだったの?


 仲良しで大好きだった親友のことが、なんだかとても恐ろしく思えて。

 全身を流れる血が、ひどく冷たく感じた。



 ……わたしが体験した不思議な出来事は、この二つ。

 二度もこんなことがあったおかげで、わたしはすっかり幽霊の存在を信じるようになってる。

 特に亡くなった人が、最後にお別れを言いにくるって話はね。


 けどユウカちゃんみたいにただお別れを言うだけならいいけど、キララちゃんの時みたいに向こうに連れていかれるのは、やっぱりイヤだなあ。

 キララちゃんは友達で、もっといっしょにいたかったって気持ちはもちろんあるけど。

 それでもわたしまで死んじゃうのは、さすがにね。


 ねえ、もしもアナタがわたしより先に死んだとしても、わたしを連れていこうとしないでね。


 わたしはまだこの世界で、生きていたいから。



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