トンネル
皐月緑葉
やっと会えたね
目が覚めると、そこは洞窟の中だった。
古びて、湿気のこもった、冷たい空間。
背後から、ひやりとした風が吹き抜ける。
私は身震いしながら、数メートル先の出口へ急いだ。
外に出ると、辺り一面が鬱蒼とした木々に覆われている。
こんな場所、知らない。
道路も整備されておらず、あちこちが崩れ、朽ちていた。
山の中のトンネルだったのだろうか。
振り返ろうとした瞬間、身体が固まった。
どうしても……振り返れない。
怖い。
理由なんてわからない。でも、確かに「何か」の視線を感じた。
私は無我夢中で走り出した。
この山、このトンネルから、一刻も早く離れなければ――そう、本能が告げていた。
息が切れる。
町へと続く山道を、まるで転がり落ちるように駆け下りる。
体中が泥と血で汚れていた。擦り傷もひどい。
でも、それどころじゃなかった。ただただ逃げた。
何時間歩いただろう。
ようやく、見覚えのある町の景色が視界に入ってきた。
私の町だ。
幼い我が子が駆け寄ってくる。
よかった……家族は無事だったんだ。
何があったのか、思い出せない。
でも、もう大丈夫。帰ってこれたんだ。
私は子供の小さな手を握る。
さぁ、お家に帰ろうね。
そう思った瞬間だった。
まるで景色が巻き戻るように、
一気に私の視界が暗転していく。
子供の手がするりと離れて、私だけが引き戻されていく。
私は我が子の名前を叫んだ。でも届かない。
一瞬で引き離されてしまったからもう姿も見えない。
「いやだ……!」
心が叫んだ。
でも、抗えなかった。
再びあのトンネルの中へ。
トンネルの壁に、走馬灯のように浮かび上がる、子供と過ごした日々。笑い声、泣き顔、小さな手。
貧乏だったけどお金を貯めて行った遊園地で見た眩しいくらい煌びやかなメリーゴーランドを最後に消えた。
――思い出した。
私は……ここで死んだんだ。
遊園地の帰りだった。
目の前から対向車がぶつかってきたんだ。
それで何度もここから脱出する夢を見てそれすらもトンネルの悪夢に......現実に引き戻される。
もう、考えたくない。何も思い出したくない。
でも、考えてしまう。思い出してしまう。
子供は?子供はどうなったの?
そう、大丈夫だった。
救助隊に救われた。それを確認した私は......。
今、目の前にいるあなたは誰?
トンネルの外で一人の女性が立っていた。
外は眩しい日差しが地面を照り付けている。
こちら側とはまるで真逆の明るい世界。
ああ、あなたは。
私の子だ。
あんなに大きくなって……。
涙で崩れ落ちるその顔は、よく知ってる。その顔がとても懐かしい。
そっか、あの花。
私のために……命日に、来てくれたんだね。
ありがとう。
会いにきてくれて、ありがとう。
ねえ――
できるなら、帰りたいよ。
そしてあの家でまたあなたを抱きしめたい。
いいえ、今すぐ抱きしめたい。
私はトンネルと外の境にきた。
私の子供の顔が目の前にある。
涙を流し、背中が震えている。
手を伸ばしても、触れられない。
手を伸ばした分だけトンネルが伸びている。ここからは出られないんだ。
泣かないでね。
あなたが来てくれたから、私はもう大丈夫よ。
自然とそう思えた。
同時に、私の体がトンネルの外に向かって舞い始めるのを感じた。
泣かないで。
もう一度手を伸ばすと、届いた。
あなたの頬を流れる涙を拭えた。
体はどんどん光の世界へ。
あなたのおかげで私は出られた。
ありがとう。
大好きだよ。
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