バイト選びの基準

 オオハラ·ワシオ『おー、いいんじゃないか? 何か書類が必要になったら、相談しなさい』(午後12:45)


 Takako『タカオは大丈夫だと思うけど、成績だけは落とさないようにしなさいね』(午後12:50)


 に☆お☆『なんでもいいけど、私たちが使うかもしれないような店でバイトするのはやめてね』(午後12 :53)


 に☆お☆『ファミレスとか、ヤックとか』(午後12:53)


 オオハラ·タカオ『あー、友達と雑談してるとこに兄貴が接客にくるのは確かにな。了解!』(午後12:54)




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「ふうん……。

 家族からの意見は出揃ったな」


 オオハラ家グループトークの画面を見た俺は、そうつぶやきながら菓子パンの包装を握り潰した。


「ちゃんと許可取れたか?」


「両親は、二つ返事。

 妹は、自分が友達と入るかもしれないような店は避けてくれって」


「あー、それはあるかもな」


 野球部員というわけでもないのに、頭をイガグリのごとき丸坊主にしている級友――クリヤマが、そう言ってうんうんとうなずいてみせる。

 菓子パンオンリーで済ませた俺と異なり、こいつの方はカップ焼きそばとおにぎりの炭水化物二刀流だ。まあ、ガッツリめにいきたい時は、そういう組み合わせか弁当になるな。


 カフェテリアとは名ばかりの購買イートインスペースを見渡せば、同じように昼食&雑談中の生徒たちで賑わっていた。

 残念ながら――多分、利益が出ないのかな――我が高校に学食という気の利いたものは存在しない。

 そのため、生徒に存在する選択肢は、弁当を持ってくるか、あるいはコンビニなどで購入するか、こうして購買で購入するかの三つなのである。

 俺とクリヤマは購買で購入する派。荷物になったらやだし、購買で販売してる食べ物は大手スーパー並に安いしな。

 代わりに、購買の弁当は見た目が地味というか残念というか、いかにも安値で腹を満たすためだけの品なのだが、贅沢を言ってはいけないだろう。


「だったら、オオハラもうちのラーメン屋で働いたらどうだ?

 オレが口きけば一発だし、人手不足だって店長もよく言ってるから、喜ぶぜ?」


「あー、正直、相談した時点で誘われるとは思ってたけどなー」


 我ながら、やや気のない返事を返す。

 そう……。

 このクリヤマという男は、とあるラーメン屋でバイトしているのだ。

 そのため、手近なオブザーバーとして相談を持ちかけたのである。

 ……が。


「俺、あそこのラーメン好きだからさ。

 逆に行きづらくなるから、バイト先としては避けたいんだよ」


 そうなのであった。

 クリヤマがバイトしているラーメン屋は、都内に数店舗存在する背脂ちゃっちゃ系。

 二郎系ばりのボリュームと、確かな背脂の旨さによって、俺たち若者を魅了してやまない名店である。

 月に一度くらいは食べに行きたい店であり、俺にとっては、癒しを提供してくれる場であった。

 よって、働く場として十分に魅力的でありながら……同時に働く場としては選びたくないという二律背反が生じているのだ。


「あー、確かに。

 オレもあそこのラーメンが好きで働き始めちゃったけど、身内になると、やっぱり客としては利用しづらいっつーか、食うなら賄いになっちまうからな」


「お前の場合、土日メインでやってるんだっけ?

 やっぱ、そういうのあるんだ?」


 賄いかー。

 俺のケースだと放課後にプチッと働くだけだから出ないだろうけど、そういうのもバイト選びにおける重要な要素なんだろうな。


「あるある。

 食費もバカにならねえから、重要な要素だぜ?

 でもまあ、お前を誘うのは諦めとくよ」


「悪いな。

 悪いついでに、今度俺が入店した時は、煮卵サービスしてくれ」


「オレにそんな権限はねーの。

 さておき、今回は推し過ぎて逆に避けたわけだけど、やっぱり、働く場所として選ぶなら自分が好きな店の方がいいぜ?

 仕事してて、気分がノるからな」


「ふうん……そんなもんか……」


 このアドバイスを得られたのは、ハッキリと収穫だろう。

 自分が好きな店ねえ……。

 俺は脳内でそこのところを自分自身に問いかけつつ、スマホの求人情報をスクロールしたのである。

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