【第19章】 ケンの日記:2025年の振り返り
フランス、2025年12月31日。
時間が過ぎるのは本当に早い。明後日には、もう日本へ出発だ。
日記の最後のページを開き、今年最後の一言を書こうとする。
ピッポーン!
セカセマの通知音だ。この時間なら、きっと「arbre-yuzu」からだろう。
僕にとっては、2025年が終わるまであと8時間あるけれど、日本ではもう新年を祝っている。
時差って本当に不思議だ。日本はもう未来にいるんだな……。
arbre-yuzu @Tana-k
あけおめ!
えっ?あけおめ?……たぶん「2026年あけましておめでとう」の略だな。
Tana-k @arbre-yuzu
ありがとう!そっちもあけましておめでとう!良い一年になりますように!
arbre-yuzu @Tana-k
うん!今お寺から帰ってきたところ。おみくじで「大吉」だったよ〜。嬉しいけど、あんまり信じてないけどね…
それより、いよいよ出発?
Tana-k @arbre-yuzu
うん!明後日出発で、土曜日に東京に到着するよ。
arbre-yuzu @Tana-k
私のアドバイス、役に立つといいな…。それと、たまには日本でのこと教えてくれると嬉しい…迷惑じゃなかったら。
Tana-k @arbre-yuzu
それなんだけど…今までしてくれたこと、全部に感謝したい。
日曜の午後、一緒に会ってご飯でもどう? 俺のスケジュール見て、いい場所探すよ。
返事はなかなか来ない。僕だって、こんなこと聞かれたら戸惑うだろうな……
とりあえず、日記を書き始める。
◆◇◆
2025年12月31日(水)
今夜は家族みんなで年越しを祝う予定。
arbre-yuzuは一足先に日本から「あけおめ」メッセージをくれた。
いつか本当に会えるといいな。
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ピッポーン!
ペンを置く。
arbre-yuzu @Tana-k
……いいよ。
安堵のため息をついた。
アメリカに出発したときのフレッドの気持ちが少しわかった気がする。
僕もついに、このハンドルネームの向こうにいる「誰か」に会える。
これほど嬉しいことはない。
今年は色々なことがあった。
良いことも、悪いことも。
おばあちゃんが亡くなったけど、新しい命も2つ生まれた。
少し懐かしさを感じながら、今年書いたコメントを読み返す。
◆◇◆
2025年1月31日(金)
フレッドの誕生日
思い出すだけで、つい笑ってしまう。
クラスの女の子たちがフレッドに「お誕生日おめでとう」と次々に声をかけていた。
セヴリーヌはティラミスまでプレゼントしていた。
フレッドも嬉しそうで、「前より進歩したね」なんて言ってた。
彼女の顔が赤くなっていたのを見逃さなかった。
もしかして、彼に気がある?
フレッドは何も言ってなかったけど……気づいてないのかな?
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2025年3月7日(月)
ナタリーが女の子を出産。名前はマルティーヌ。
新しい妹ができた!
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2025年4月6日(日)
arbre-yuzuの誕生日
今でも彼女の名前が「ユズキ」なのか、女性なのかどうかさえわからない。
でも、めっちゃメッセージ交換してるよ。
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2025年4月18日(金)
悲しい日。
おばあちゃんが病院で亡くなった。彼女の明るさとユーモア、ずっと忘れない。
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2025年5月23日(金)
ガエルが女の子を出産。名前はクリステル。
おばあちゃんにも見せたかったな……
きっとすごく喜んだはず。
姪っ子と同い年の妹がいるって、なんか変な感じ。
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2025年7月5日(土)
フレッド出発
彼を空港まで見送りに行ったあと、僕は母さんと斎藤先生と一緒にパリで一週間を過ごした。
パリでは、首都の象徴的な場所をたくさん巡って、思い出の写真も撮った。
日本で出会う人たちに渡すための小さなお土産もいくつか買っておいた
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2025年8月16日(土)
フレッドからのメッセージ
セカセマにもメッセージが届いた。
クラスの女の子に会ったらしい。まるでお姫様みたいな態度だったとか。
どうやらマキアートに一目惚れしたらしく、世界一のティラミスを作ることを決めたようです。フレッドはそんな注目に満足しています。
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2025年9月2日(火):フレッドからのメッセージ
彼はまだ、[Na-H-Li] という謎のペンネームの相手の正体を知らない。
唯一の進展は、彼女が「セカセマでの彼と同じくらいリアルでも感じがいい」と伝えたこと。
でも、セカセマのやり取りとクラスの交流だけを頼りに彼が誰かを当てる必要があると言われたそうです。
どうやら彼女はミステリー好きのようだ。
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2025年9月14日(日)
僕の誕生日。
arbre-yuzuが誕生日おめでとうって言ってくれた! めっちゃ嬉しい!
フレッドからも。
「お姫様」のティラミスを味見したらしいけど――結婚はまだ先になりそうだ。
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2025年10月11日(土)
エンゾとガエル、そしてカトリーヌの結婚式。
参列者は100人以上。
全員と話すなんて無理だった。
女の人たち、俺に一瞬も休ませてくれなかった。
◆◇◆
日記を閉じて、本棚に戻す。
今夜はこの部屋で過ごす最後の夜。
明日はパリへ向かい、斎藤さんと一緒に飛行機に乗る。
そして、arbre-yuzuに会うんだ。
どんな出会いになるのだろう。
もし僕が彼女の想像と違っていたら……がっかりされないかな?
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