六枚目 天才
天才とかセンスとかそんな言葉を使われるのが嫌いだった。
私は確かに生まれつきの才能なんてものがある、そう当て嵌まる人間なのだろう。
然して意識もせずに人並み以上の成果を上げることが出来た。
努力もせずに何かを成し遂げてしまうこともあった。
軽い気持ちで作った物の造形や色彩を讃えられることもあった。
だか、いや、だから。
私は努力というものを知らなかった。
それのやり方が、一から十まで説明されようとも全くできる気がしなかった。
出来ないことに向き合い続けることが私には無理だった。
受け入れられなかったのだ。
私はひどく不安だった。
努力、積み重ねの出来ない私は自身の才能に縋っていた。
勿論、万能の才能なんてものは無い。
だから私は出来てしまったものばかりに拘泥し、出来なかったものから目を逸らし続けて来た。
そうやって得たものは空虚なものばかりだったと言うのに。
私は想うのだ。
苦労して、自身を削って得たもので無いと、それは自分のものにはならないと。
そう、思うのだ。
夢や目標に向かって、またそれすら曖昧なままに進み続けその道行きで得た小さな、しかし確かな成功達。
それを額縁のように飾り立てる轍。
それこそ、輝かしいものだ。
価値のあるものだった。
私はひどく不安で今にも叫んで狂ってしまいそうだった。
不相応な才能や、上辺だけのセンスで得たものなど空っぽのハリボテの偽物未満で。
私の中身は何もなかった。
意思が、強い意思が私には無かった。
望まずに得て来た私には、望んで得た物の無い私には、重みのあるものが何一つとして存在しない。
あぁ苦しい。
あぁもどかしい。
根気も忍耐も無い意思薄弱の私には、心の懊悩は強すぎる刺激だった。
あぁ弱い。
なんと弱い。
価値が無い。
才能なんて無ければ良かった。
センスなんて渡してしまいたかった。
皆の持つ輝きが、魅力的で羨ましいばかりだった。
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