✝︎ 第三話:ユナとYUNA(後編) ✝︎
正体を現した《ドッペル・ユナ》
ロウは地面に押さえつけられたまま、リスナーたちの異常な力に身動きすら取れずにもがいていた。
ロウ
「くっそ……離せッ!」
彼らの腕には、ドッペルユナによって施された“バフ”がかかっている。
まるで強化スーツでも着ているかのような力強さで、簡単には振りほどけない。
一方その頃、ドッペルユナは口元に冷たい笑みを浮かべながら、ゆっくりとユナへと歩み寄っていく。
――そのときだった。
ユナの前に、突如としてホログラムが立ち上がる。
ピピッ……
《共闘設定更新:真神朧 × 夜宵ユナ》 《共鳴率:32%》 《スキル追加選択可》 → 支援系スキルLv1:発動しますか?
ユナ
「……これ、押していいやつ? ていうか……押すしかなくない!?」
パニック気味に叫びながら、ユナは勢いよく《YES》をタップする。
ピピッ……
《支援系スキルLv1:展開中》
《対象:真神ロウ》
《効果:リアクション速度+15%/負傷軽減/反応予測支援》
ロウの身体に、じんわりと熱が走る。
ロウ
「……なんだ、力が湧いてくる……!」
思わず唸ったロウは、リスナーの腕を振り払う。 身体が軽い。世界がわずかにスローになったような錯覚。 相手の動きが――“見える”。
一人のリスナーが拳を突き出してくる。それを受け流し、背後の気配に即座に反応して後ろ蹴りを放つ。 今まで重く感じていた体が、嘘のように動いた。
ロウ「ユナ……お前が、やったのか……?」
ユナ「なんか出たから押しただけだってば!!」
ロウ「いや…ナイスだ!!」
スキルの恩恵で動きを取り戻したロウは、次々とリスナーたちを無力化していく。 だが、その視線は常にドッペルユナを追っていた。
ロウ
「リスナーは操られてるだけ……だったら、コイツを倒せば全部終わるッ!」
ドッペルユナが舌打ちをする。
ドッペルユナ
「チッ……しょーがないなー」
唇に艶やかな笑みを浮かべながら、手を前に突き出す。
ドッペルユナ
「そんなにYUNAのことが好きなら……あんたも“YUNAのリスナー”にしてあげるッ!」
ドッペルユナは、くるりと一度スカートを回すと、アイドルのように両手を広げてポーズをとった。
「はぁい、ロウくんっ♡ YUNAの特別ファンサービス、あ・げ・るっ♡」
――パチン!
指を鳴らすと同時に、掌からピンク色のハート型エフェクトがふわりと現れた。
「YUNAのこと、も~~っと大好きになぁれっ♡」
彼女は両手をすぼめて――投げキッス。 宙を漂っていたピンクのハートが、弾丸のようにロウへと飛んでいく。
ロウ
「なっ――!?」
直撃した瞬間、ロウの視界がピンクに染まる。 心臓が一度だけ大きく脈を打ち、思考にノイズが走った。
ピピッ……
《SYNTHETIC EMOTION:FANSA-BRAIN》 《対象意識:掌握》 《存在強度:強制同期中》
――彼の瞳から、感情の色が消えた。
✝︎ ✝︎ ✝︎ ✝︎ ✝︎ ✝︎ ✝︎
ロウ 「…………ユナ……にげろ……」
ユナ 「うそ……ロウくん……? なに、これ……やだ、やめて……!」
バフが途切れ、リスナーたちが再起動したように立ち上がる。 その目は再び虚ろに染まり、ユナを包囲し始める。
そして――ロウ自身も、鉄パイプを無言で握りしめたまま、一歩、また一歩とユナに向かって踏み出してくる。
ユナ(心臓が爆発しそうなくらい高鳴る) 「……っ、こないで……!ロウくん、お願い、やめて……!」
でも、足は震えながらも前へ出た。 逃げちゃいけない――そう、感じたから。
ユナ 「……おにーさん……っ、戻ってきてよ……!」
そして――ユナは一気に距離を詰め、ロウの胸元に飛び込む。
ユナ(小さく、でも強く)
「……信じてるからっ……!」
震えるように、ユナはロウの唇に触れた。
それは恐怖を乗り越えるためのキスだった。 ただの“好き”じゃない。“助けたい”と願ったからこその、覚悟のキス。
ピピッ……
《emotional sync:32% → 92%》 《洗脳:解除》 《存在強度:上昇》
ロウの瞳に、光が戻る。
ロウ 「っ……あれ……俺、一体……」
ユナ(目に涙を溜めて、笑顔)
「良かった……! おにーさん、戻ってきた……!」
ドクン――とロウの心臓が強く脈を打つ。 さっきまで身体を縛っていた“熱”が、まるで氷のように砕けていく。
ロウ(ふっと笑って) 「……俺、操られてたんだな、すまねぇ」
ユナ「良かったよ…!ほんとに!」
そして、ゆっくりと立ち上がる。ユナの顔が少し赤いことに気づく。(おまけに顔も近い)
ロウ 「…ん?なんで照れてんだ?」
ユナ「え?!なな、なんだろ〜ね〜あはは…」
ロウ「まぁ、いいや…それより」
ロウ「そろそろ決着…つけてやるか」
その背中から、静かにオーラのような熱が立ちのぼる。
――反撃の狼煙が、上がった。
ドッペルユナは、小首をかしげながら、くすくすと笑っていた。
ドッペルユナ 「ふふ……なんだぁ、目が覚めちゃったの? つまんないの」
だが、その声色には余裕があった。 ロウの目には、彼女の中心――コアの位置は見えていない。
ロウ(鉄パイプを構えながら) 「……良くもやってくれたな」
叫びとともに、渾身の踏み込み。 朧は全身のバネを使って、一直線にドッペルユナへ飛び込む。
ロウ
「くらえ…!!」
パイプの先端が――胸元を貫いた。
ドッペルユナ 「……ッ!」
手応えは、あった。 ドクン、と何かが揺れた。だが――
ピピッ……
《コア反応:未検出》 《致命部位ではありません》
ロウ 「なっ……!?」
次の瞬間、反撃。 ドッペルユナの膝蹴りがロウの腹を捉える!
ロウ 「がっ……ッ!」
宙を舞い、地面に叩きつけられるロウ。 鉄パイプは手からすべり落ち、体が動かない。
ドッペルユナ 「残念♡そこじゃなかったねぇ~~♪」
嘲笑の声が響く中――
ユナ 「……わかった……!」
震える足で立ち上がるユナの瞳が、鋭く細められた。 彼女の視線は、ドッペルユナの“口元”を捉えていた。
ユナ 「さっき……光った……!あの舌ピアス……!」
瞬間、ロウがうつ伏せから顔を上げる。 痛みを抱えながらも、拳に力が入った。
ロウ 「……見えたか……! よし……じゃあ――」
全身に残った力を振り絞って――ロウは立ち上がる。
ロウ 「今度こそ、仕留めるッ!」
ドッペルユナが反応する前に―― ロウが背後から飛びかかる!
両腕でその身体をがっちりと拘束した。
ロウ 「ユナッ……今だッ!! 終わらせろ!!」
ユナ(顔を強張らせながら、叫ぶ)
「やる……やるよ……ユナがやる!!」
ドッペルユナがもがく。
ドッペルユナ
「離せッ!!コイツ…!!」
だがロウが、まるで命を削るようにその体を押さえつけている。
――足が動く。 涙が浮かびそうになるのを振り払って、ユナは拾った鉄パイプを握りしめる。
ユナ 「…ごめんね…YUNA――でも」
ユナ
「まだ…やりたいこと、たくさんあるの!!」
――飛ぶ。
そして空中で、鉄パイプを振りかぶり――
ズブッ!!!!
パイプが、ドッペルユナの口元を砕いた。 ピンク色の舌ピアスが砕け、中から光が弾け飛ぶ。
ピピッ……
《コア破壊を確認》
《共闘フェイズ:終了》
《存在エネルギー:回収中……》
ドッペルユナ(崩れながら、声を漏らす) 「……どうして……ユナだけ……守られるの……? わたしだって……わたしだって……ユナに……なりたかったのに……ッ」
その声は、光の粒子になって、夜空に溶けていった。
《戦闘終了》
《ドッペルYUNA 撃破》
《リンク解除完了》
《洗脳解除:完了》
《存在エネルギー:回収中……》
《存在エネルギー:共有配分完了》
《スキル選択画面を開きますか?》 → YES/NO
ロウ
「ハッ……クソ、容赦ねぇな」
ロウには、この“ゲーム”のような殺し合いが、誰かの手によって意図的に仕組まれている気がしてならなかった。
そして、それがまだ“始まったばかり”にすぎないことも、うすうす感づいていた。
◆リスナーたちの解放、そして静寂
「あれ……俺、何してたんだ……?」
「YUNA……?いや、ちがう……夢見てた……?」
バラバラと立ち上がるリスナーたちは、まるで何も覚えていない様子で帰路につく。
残されたのは、ロウと、地面にしゃがみ込むユナだけ。
立ち尽くすユナ。 鉄パイプを握った手が、小刻みに震えている。
そんな彼女の隣で、ロウが小さく笑う。
「……やるじゃねぇか、“オリジナル”」
† † † † † †
「……ね、さっきは…
…助けてくれて、ありがと」
ユナが小さく呟く。 少し涙ぐんだ目で、ロウを見上げた。
「助けてくれて、嬉しかった。……怖かったけど……一緒に戦ってくれて、ほんとに、ありがとう」
「……ああ」
「改めて。夜宵ユナ、です。ユナって呼んでいいよ。あんたは?」
「真神ロウ。……ロウでいい」
「ふふ……ありがとーろろぴ!」
「…ろろぴ?」
そして、唐突にユナはパンッと手を打った。
「でさ!ろろぴの家、どこ?!」
「……は?」
「だってさ〜!今日泊まるとこないし、野良猫と公園のベンチ取り合っても勝てる気しないし、 ろろぴってば顔も声もタイプでイケボで助けてくれて運命って感じで、 ってことで、泊めてくれたら超感謝なんだけど♡!」
「……テンションの落差どうなってんだお前……」
でも、目の奥には、さっきの恐怖と涙が、まだ少し残っていた。
「まぁ……好きにしろ」
「わーい!やったーーー!!」
「おい、しばらくだからな!」
「えー嬉しいくせにー♡」
「はぁ…」
——こうして、俺の静かな日常は、完璧にバグった。
——第三話:今日からうちの地雷 へ続く——
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