第3話 依存

第三話    依存



現代社会、人は何に依存しているのか……


 主に見られるのがスマホである。 誰もが持っていて歩行中や自転車、中には車の運転中にもスマホを覗いている。



 これには多くの危険がひそんでおり、道交法違反となる。



 夜の繁華街、新宿トー横や大阪のグリ下と呼ばれる場所に若者が集まる。

 これも、何かに依存するように人が群がる。



 これらはニュースなどでコメンテーターが 

 「彼らは何を求めているのでしょうか?」 などと言っていたりする。



この現象は、何の不思議な事でもない。 ごく一般的な現象なのである。



“ピンポーン ” 玄関のインターホンが鳴る。



「はーい」 玄関を開ける撫子。 すると、

「予約しています、海原と申します。 よろしくお願いいたします」


「はい。 では、ドアノブの札をひっくり返して頂けますか?」


「あ、はい」 海原は、玄関の札を『面談中』に替えた。



「こちらへどうぞ」 撫子はカウンセリング部屋へと案内する。



「はい。 この時間よりカウンセリングを始めます。 よろしくお願いいたします」 お互いに頭を下げる。



海原は、真剣な眼差しで問診票を見て記入を始める。


すると、 「あれ? この漢字、どうだっけか……」

そう言いながらスマホで漢字を調べる。



そして書き終えると、海原はソワソワしていた。



「海原さん? どうかされました?」 撫子が聞くと、

「いえ、なんでもありません……」 海原は、そう返事をした。



(漢字を調べる時、スマホを見てから変わったな……) 撫子は思った。


そこで、ひとつ情報を得る。



「はい。 ご記入ありがとうございます。 この用紙に書いてある内容を見ますと……」



問診票の一番下には、クライアントの希望の欄がある。

そこには 「カウンセリングに求めるものを教えてください」 と、書いてある。


内容は 『解決したい問題がある・気持ちの整理がしたい・自分を(性格や考え方)を変えたい・話しをきいてほしい・自分について知りたい・その他』 と、書いてあるのだ。



どれも、自分自身で解っているようで解っていないことがある。



海原は全てに丸で囲んだ。


撫子は、それを見てカウンセリングを始める。



海原かいばら 美和みわ  三十一歳のOLである。


撫子は、黙ったまま海原が話し出すことを待っていたが、話し出すタイミングが掴めないようだ。



そこで、「海原様?」 撫子が話し出すように促す。


「あ、はい……」 海原は、ゆっくりと話し出した。



「私には彼氏がいまして……」

「はい。 彼氏さんがいらっしゃるのですね」 撫子がオウム返しをする。



「……と、言う訳です」


海原には年下の彼氏がいて、彼氏は無職。 結婚の話しが出るが、この先が不安で悩んでいることのようだ。



「わかりました。 海原様は結婚を考えるが、無職の彼と続けられるかの心配ですね?」 撫子が確認すると、海原は頷いた。



「それで、どうでしょう? 上から「凄く結婚したい」「結婚したい」「結婚してもいいかな」 と、三段階あるとしたら どの位置でしょうか?」


「それは……」 海原は答えられなかった。


「そうですね。 まだ決めかねますよね……」 撫子は、そう言って話の核心から遠ざける。



(まだ、別の選択肢を持っているのかな?) 



そして時間が来る。


「もうすぐ お時間になりますが、何かありますか?」 撫子は明るい声になる。


カウンセリングの初回とは、お互いに緊張が付きまとう。

次回のカウンセリングでは緊張をしないように、ほぐしていくのだ。



カウンセリングが終わると、撫子はスマホを見る。


カウンセリング中は電源を落としているからだ。

「メール? 誰だろ……?」


撫子がメールを見ると、大学院時代の友人からである。



そこには、急だけど飲み会の案内と書かれていた。


「都内か~ 帰りは大丈夫かな~?」 撫子は帰りの心配をしていた。


撫子の住まいは千葉の房総である。 少し話したら終電の心配をしなくてはならない。



撫子は支度をするために帰宅をし、シャワーや着替えをしている。

そして、電車に乗って都内を目指した。



一時間に二本しか来ない電車、車内はガランとしていた。

(なんか、久しぶりに会うから楽しみだな~) そんな撫子がワクワクしながら都内に着いた。



「ん~ どの店かな?」 撫子が着いた場所は秋葉原。 たくさんの飲食店がある場所だ。



ビルに書いてある看板を見ながら店を探していると


「あった!」 撫子が店に入ると、今風な居酒屋であった。



「久しぶり~」 撫子の友人が手を振っている。

この友人は小坂 由奈。

大学院時代からの友人で、同じ臨床心理士の資格を持つ。



「由奈、久しぶり~♪ 元気だった?」

二人は、大学院を卒業してから一度も会っていなかった。 たまに電話やメールで話すことはあるが、なかなか会えなかったのである。



小坂は大学院を卒業し、そこから大学病院で心理士として働いている。


そして、もう一人の友人が店に到着してきた。


「お待たせ~」 そう言って来たのが、田中 健斗である。

田中も心理士で、父が開業しているメンタルクリニックでカウンセラーとして働いている。



そんな三人での飲み会となった。



「私、ビール♪」 順調に飲んで、話しは仕事の事となり



「俺さ、いいクライアントばかりでさ~」 田中が言い出す。


撫子と小坂は黙って聞いていた。



「なるべくクライアントには、安心してもらえるように継続を長く設定しているんだ……」 そんな田中の話しに、撫子が聞き入る。



「だいぶ良くなっているんだけど、現状維持にして回数を増やしているんだよ……」 田中は酔ったのか、流暢りゅうちょうに話しだすと



「田中君、それはクライアントの為にならないよ……」 撫子が、田中にボソッと言う。



「なんでだよ~? クライアントだってカウンセラーが必要なんだぜ」 

田中が、撫子に食って掛かる。


「それ、本当にクライアントの意思?」 撫子が田中を見る。



そんな話から、少し場の空気を汚してしまった撫子は下を向いてしまった。



「なんか、ゴメンね…… 電車も終電が早いから、お先ね」

撫子は店を出て、駅に向かった。



その時、やはり思い出してしまうのであった。


それは、 “依存 ” である。



心神の衰弱したクライアントは、わらにもすがる思いでカウンセラーに相談する。


中には、それに甘えてカウンセラーの言いなりになってしまうのである。




芸能人が占い師に依存して、問題になってしまう例がある。


スピリチュアルなものは目に見えない分、信じる人と信じない人とがハッキリする。


また、信じる人は良かった出来事などを占いの一部として合理化してしまうのだ。



こうして洗脳されて、金を搾取さくしゅされてしまう。



撫子は、今回の田中も同じなんだと思ってしまった。

田中は クライアントの為といい、継続を繰り返して卒業させない。



それを信じ、カウンセラー頼みになってしまっているクライアントには

“共依存 ” が発生する。



ある意味、これも仕事と思えば悪いことではない。


クライアントに苦しい思いをさせたくないカウンセラーは、大事にする。

それも立派な仕事である。



撫子は、カウンセラーの存在意義を電車の中で確認していた。



翌日、撫子のスマホに着信が鳴る。


「はい、もしもし……」 電話の相手は、小坂である。


「昨日の田中君のさ~」 小坂が話したことは、昨日の飲み会での話しであった。


小坂も気にしていたようだ。


共依存の事である。



「これじゃ、心配だよね~」 そんな事を小坂が言っていた。


「うん……あっ、もうすぐ予約だからさ……」 撫子は電話を切った。



(どこもあるんだよな……) 撫子はコーヒーを淹れた。



そして、紙とペンを持ち


(この依存の場合は、クライアントはカウンセラーに依存している訳だ……そして話しを聞き、解決をしようとする。 何故に依存になるんだ? そうすると、解決させてないから依存になるのか?)


撫子がペンで理由を書き、その結果がどうなるかを書いていく。



カウンセラーの依存は、お金である。 心神が弱っているクライアントの味方になり、そこから報酬ほうしゅうとしてカウンセリング料金が発生する。


そして、クライアントの依存は精神の安定や問題解決である。



味方がいることにより、クライアントは安心をして生活を続けられる。



ただ、反面としてカウンセラーが居ないと丸裸のまま精神への攻撃をうけなければならない……



こうして共依存が生まれてしまうのである。



撫子は、カウンセラーがどのようにあるべきかを考えなおしていた。



経営する 「てのひら」 撫子が大事にしたいこと、

それは『早く卒業させてあげたい』 そんな思いを忘れないようにしたいと思った。



今日も撫子は、心理学の本を読みながら卒業に向けて勉強していく。



「あっ、私もコーヒー依存症だわ……」 そしてマグカップを見て、苦笑いする撫子であった。




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